佐倉霧 美しいガラスめいたイノセントガール
※物語のネタバレとなかなかにショッキングな内容が含まれています。
・
一年生女子で、ショートカットのクール系美少女。
正義感が強く、人の悪意に人一倍敏感。
けれど、とても臆病な子。
この世界って、二者択一で表現できるものじゃないよね。
正義と悪。勇者と魔王。黒と白。
でもその間には無数のパターンがあって、どちらかなんて簡単に表せるものなんて、この世界にはそうないのです。
だけど彼女は、どちらかに自分を染めたがる。
正義であり、正義にそぐわないものは悪いものである。
世界を広く見ることができない幼さ。
悪意や悪感情を敏感に感じ取ってしまうからこその、臆病さ。
それが彼女を極端さに走らせてしまう。理解できないものを拒む様は、もはや愚かと言ってもいいくらい。
まあ、愚直ぐらいにしとこっか。
で、愚直な彼女は、始めは太一のことをそこそこ信頼していた。
まあ最初の出会いは、みゆきにセクハラをする太一に蹴りを食らわせたことだけど(台無し)。
でも、太一は意図をもってみゆきという少女にセクハラをしていた(意図を持ってもするな)ことを、霧に説明をした。
「みゆきは地味っこだなー」とか言いつつべたべた触ることって、やってはいけないことだけど、太一は本当に嫌がった相手にはそこまではしない。
決してみゆきが太一を好きで、望んでセクハラをされているというわけじゃない。
みゆきの生き辛さは、一人になることが怖いこと。
放課後の教室。静けさの響く廊下。
孤独を感じると、死にたくなる。
太一はそのことを知っているから、彼なりの方法でみゆきのことを構っている。
一人じゃないよって伝えるために。
そのことを聞いて、霧は少しわからなくなった。
黒須太一という人間が。化け物なのかどうか。
で、意外と悪くない関係を築いていたんだけど、太一と霧は決定的に決別してしまう。
それは、霧と一緒に住んでいる本当のお兄ちゃんみたいな存在。
新川豊は学校の屋上から飛び降りた。
霧は知った。
飛び降りる直前に、豊が話していた相手が、太一だったことを。
太一は、悲しみに暮れる霧に問いかけた。
「なあ。豊は、幸せだったと思うか?」
・佐倉霧を壊したもの
新川豊は、霧の家に居候する、一つ上の兄のような存在。
家族が不幸にあったため、佐倉家に引き取られた。
明るく快活で、誰に対しても柔和な笑みを絶やさないナイスガイ。
太一とも初対面から打ち解けて、まるで長年来の親友の如き間柄だった。
精神的なショックから足が不自由で、過去の記憶はすっかり失くしている。
彼もまた、悲しみを抱えていたんだ。
霧は、素直になれないながらも、そんな豊のことを心底慕っていた。
霧は弱い。幼くて臆病で、どこまでも
世界中の人の悪意が怖い彼女は、一人でいることは何よりも恐怖だった。
だから、豊に依存した。一心同体だと言わんばかりに、内心では想っていた。
冬子の依存と違うことは、冬子は愛を受けるための依存だけど、霧は自分を守るための依存。目的が違った。
人は群れる。一人では弱いから。
スイミーたちが一体となって、鮫を追い払ったように。
でも、そんな半身は死んでしまった。
そして霧は気付いてしまった。
人の悪意や暴虐な本性が見えるその目で、太一のことが見えてしまった。
この人は、醜悪な怪物なんだと。
それから太一と霧の関係は悪化し、一週間をループする世界へと放り込まれる。
最初は太一のことを毛嫌いして、いざという時にクロスボウで射ころす練習までしていたけれど、そこに転機が訪れる。
支倉曜子。成長した彼女は、誰よりも強く恐ろしいスーパー忍者になっていた。いやマジで。
太一に危害を加えようとする霧を、本気でころそうとしたのだ。
太一は間一髪でそこに気が付いて、なんとか霧を守る。太一の言うことだけは、曜子はきくからだ。
物語の作り方として上手いと思う所は、キャラクターの心情に揺さぶりをかけるところ。
自分が憎んでいた相手に助けられる。
するとどうなる。本気でその人のことがわからなくなる。
自分の最愛で片割れとも言える相手をころした人が、自分を守ってくれた。
そんなの、心がぐちゃぐちゃになるよね。
霧はまた、太一のことがわからなくなった。
そして霧は、豊と太一にあったことの真相を尋ねた。
この話を聞いて、霧は完全にぶっ壊された。
新川豊は、太一を壊した人間の一人だったのだ。
嫌かもしれないけど、もうちょい詳しく説明をしよう。
没落した支倉家にやってきたのは、新川家だった。
豊の親は、太一や曜子への遊びに息子を加えた。
ドSの才能があったらしく、その快楽に溺れて行った。
まあ大人の言うことに、逆らえなかったという力関係はある。
けれど、それは罪には違いない。
太一が霧に問いかけた言葉。
「豊は、幸せだったと思うか?」
当初はね、救いを表わす言葉かと思っていた。
少しでも幸せな時間が彼にはあった。死んでしまっても、生きている意味はあった。
そう激励をしたんだって、思ってた。
でも、その問いの意味は真逆だった。
自分を壊した相手が、幸せだったなんて、許せるはずがないだろう。
太一と曜子の革命で、14人の大人が亡くなったけれど、豊は生き残った。
あまりにもショックな出来事に、記憶を失くして。
記憶を失くして、明るく前向きに生きている。
自分を壊した相手が!
その憎悪たるや、想像に難くない。想像もしたくない。
だから太一は、豊がその相手だと気が付いた時、真実を告げた。
豊は言った。
どうすれば許してくれるって?
許すも許さないもない。犯した罪は永遠にそのままで、触れることなんてできない。
そこを責めるつもりはないと、太一は言った。
でも、ふと疑問を口にした。
太一は豊に問いかけた。
「なあ、ひとつ質問なんだけど……どうして今すぐにでも死なないんだ?」
この時の太一の言葉を見て、生まれた初めて恐怖という感情で僕は泣いた。
ああこいつは。
もう人間じゃないんだなって。
自分を壊した相手に対して、普通は怒りをあらわにすればいい。慟哭し罵り、憤怒をぶつければいい。
でも、太一はそんなことをしなかった。
ただ冷静に純粋な疑問を口にしただけだった。
怖かった。その非人間性が何よりも怖かった。
で、そしたら、豊は屋上から飛び降りた。
そのままじさつした。
こうして
霧は壊れた。
壊れるというのはどういうことか。
自らの主導権を委ねるということ。
・霧はどうして壊れざるを得なかったか
霧は弱い。そして自分の正義感で動いてしまう。
視野が狭く、幼い。
まず一つ。彼女にとっての正義感は、理解はできるもの。
弱い者いじめをしないとか、良いことをしようとか。
霧にとって、豊は気が良く正しさの象徴で愛するお兄ちゃんのような存在だった。
でもそんな愛するお兄ちゃんが罪を犯していた。
大嫌いだと思っていた太一が、壊れる原因となっていた。
正義的な観点から、決して無視できないよね。
彼女の根幹たる、正義の存在という幻想がバラバラに砕かれた。
で、もう一つ。
霧にとっての豊は、自分の半身とも言える存在だった。
弱いから群れる。二人なら強くなれる。
自分自身と、まるで同化していると感じていた。
大人からの暴虐を砕くために、太一と曜子が同盟を結んだように。
霧にとって豊とは、自分と同等のような存在だった。
そんな豊は、罪を犯していた。
霧は、自分もその罪を背負おうとしたことが、今更ながらわかった。
豊という存在がいなくなったこと。
豊という存在は、太一を壊した人物だったこと。
彼女は、この事実を知って全てを失った。
霧にはもう何もない。
だから、太一にすがりつくしかなかった。
なあ、
こんなシナリオは思いついても書けない。書きたくない。
マジでエグすぎる。
でも、このシナリオが割と好きだったりする。
霧をまんまと手に入れた太一には、まだ人間性が残っていたから。
・残りの16%
太一は日曜日の終わりに、完成したアンテナを介してどこへと構わずラジオ放送を行った。
自分の罪の告白を、電波に乗せて言い放った。
「友達を、死なせてしまいました。
その友達は昔、俺を傷つけた人間の一人で
記憶を失って、俺の前にあらわれました。
実際そいつに受けた傷なんて、今の俺には全然たいしたものじゃないはずでした。
けど俺は、どうしてもそいつを友達として見ることが、できなくなりました。
俺の中で、そいつの価値が変わってしまったのは確かです。
そいつが自分の記憶を取り戻した時、許してくれと言いました。
もしかしたら……許してくれなんて言わなければ、結果は違ったかも知れません。
どうしてその時、気にするなよ、って言ってやれなかったのかは……自分でもよく考えます。
それは俺がいびつだからです。
理性が足りません。
けど理性を培うためには、他者が必要です。
記憶がなくなっても、過去に起こったことは消えない。
けど傷つけられても、傷つけても。
……向き合った者同士でいられたはずなんです。
自分のために、人を大切にして構わない。
明日……少しは、ましな自分になるために」
怪物だった太一は、それでもまだ人でいたいと願った。
彼の人間性が、たとえ16%しかないとしても。
その人間性を貫くことが、尊いものなんです。
また来週!
※今日は限界なんで明日です。
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