第10話 『育み場』とくるちゃんと木の実の殻ころがし
この天国みたいな場所は、赤ちゃん魔獣や魔獣の卵のお世話をする広場で、『育み場』と言うらしい。
ただ、ここはグリフォンの縄張りでしょう? だから最初は、グリフォンの赤ちゃんと卵だけで、他の魔獣の赤ちゃんたちはいなかったの。
だけどこの森は、他の森に比べて強い魔獣が多いらしくて。その中にはもちろん、ドウェインたちグリフォンも含まれているんだけど。
肉食で凶暴な魔獣が多いいからか、成獣だろうが子供の魔獣だろうが襲われ、かなりの数の魔獣たちが命を落としていたんだって。
そこで、そういった魔獣たちから、我が子を守ろうとした他の魔獣たちが、一緒に子育てをさせてほしいって、ドウェインにお願いしてきたんだ。
これを聞いた、この森の秩序を守るドウェインは、これ以上理不尽に子供たちが被害にあわないようにと、そのお願いを受け入れることに。
そしてその後は、話を聞きつけた魔獣たちがどんどん集まって、今のような大きな育み場になったんだって。
そして今では、大人たちに混じって子供魔獣たちも、しっかりと赤ちゃんと卵のお世話をしてくれているの。
『まぁ、半分以上は一緒に遊んでいるだけだがな』
そう、苦笑いしながら言うドウェイン。遊びだって大切な仕事だよ。
それに今の様子は……。いつも半分以上遊んでいるかもしれないけど、ほら見てみて。転んでしまった赤ちゃん魔獣に急いで駆けつけて、大丈夫? 痛い? このお薬つける? とか。
向こうにいる子たちは、赤ちゃんが散らかしちゃったご飯をささっと集めて。大丈夫、散らかったご飯は僕が食べてあげるからね。新しいご飯どうぞ。なんて、一生懸命お世話してくれてるよ。
と、そんなふうに簡単な説明を受けているうちに私たちは、私の頭ほどの大きさの赤ちゃんグリフォンが、土遊びをしている場所までやってきた。
『あっ、きょうはね、ぼくはこのこと、きのみであそぶおやくそくしてたんだ! たぶん?』
ん? たぶん? たぶんってなんだ?
『このこは、きのみのからを、ころころころがすのが大好きなんだ。りんにみせてあげる!!』
そう言って、赤ちゃんグリフォンとは反対の方向へ走って行ったルーファスは、向こうに置いてあったカゴの中から5種類の木の実を持って戻ってきて。そして赤ちゃんグリフォンの前に立つと、まずは私のことを、赤ちゃんに紹介してくれたんだ。
「あのね、りんだよ! ぼくたちといっしょにくらすの。いっしょにいるってことだよ。ぼく、とってもうれしいんだ!」
『にんげん? りんおねえちゃ? いっちょいりゅ? おにいちゃ、うれち?』
『それで、はじめましてだから、ごあいさつして』
あれ? 今、嬉しいか確認してたみたいだけど、何も言わなくて良いのかな?
『ぼくがおしえてあげたやつ。こんにちわ!! だよ』
ぺこんと頭を下げるルーファス。
『うん!! こんちゃ!!』
赤ちゃんグリフォンがルーファスの真似をして、ぺこんと頭を下げる。
おおおおお、可愛い!! すこぶる可愛い!! ……と落ち着け、落ち着くんだ。さっきみたいに変態になったら、この子に嫌われるか怖がられて、泣かせてしまうかもしれない。それか逃げられちゃうかも。
私は軽く深呼吸をしてから挨拶したよ。
「はじめまちて、こんにちわ!」
『きのみころころ、くるちゃんとってもじょうずなんだぁ』
「くるちゃん? このこ、くるちゃん?」
『ああ、そういえば、名前のことについて話していなかったな。まだこの子たちには名前はないし、大人になっても持たない者もいる。もともと魔獣には名前というものがないのだ。だが、力がある者や特別な存在には名があることもある。私やルーファスのようにな』
ああ、やっぱりそういうのあるんだ。ライトノベルや漫画だと、名前を呼ばずに『おい』とか『お前』とか、何となくで言ってたりするもんね。
『だが、それでは呼ぶ時に大変だからな。仮の名として決めることもある。この子の場合は、羽がくるんとしているから、くるちゃんらしい。ルーファスが考えた』
『クルちゃんのころころ、りんにみせてあげようよ! きっとりん、かわいい、すごい! ってよろこんでくれるよ!』
『うん!!』
木の実を食べる時に、綺麗に殻を割り。食べた後に特別な粘液で殻をくっ付けて、みんなの遊び道具にしているんだって。
2人が木の実の殻転がしを披露してくれることになって、私とドウェインは少し離れた場所から、それを見ることにしたよ。
すると持ってきた木の実の中から、黄色でツルツルしている木の実の殻を選んだルーファス。すぐにそれをくるちゃんの方へ転がしたんだ。でもね……。
今の今まで、元気にニコニコしていたくるちゃんが、転がってきた木の実の殻を止めずに、ずっと見たままで。そのまま木の実の殻は、クルちゃんの横を通って行っちゃったんだ。
『あれ? くるちゃん、どしたの?』
そう言い、すぐに次の木の実を転がすルーファス。でも次も、木の実を見送ったくるちゃん。そしてこう言ったんだ。
『ぼく、ぎじゃぎじゃの、かりゃがしゅき』
ってね。ルーファスが持ってきて自分の横に置いた、まだ転がしていない木の実の殻を見る。するとそこには、殻全体が鋭くはないけれどトゲトゲしている木の実が置かれていたよ。もしかして、あれのことかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます