第22話 少女の軌跡は、魔法となって
「ち、くしょうがぁああああ…………‼」
苦し紛れに放たれるちっぽけな炎弾をただの魔力障壁で防ぐ。いかに強力な魔法でも純粋な魔力量や魔力操作で圧倒出来ることは嫌というほど思い知ったのだ。
「もう出来る事はなさそうですし、トドメといきましょうか」
故に、今の私は微塵も負けると思わなかった。圧倒的な実力をもってして、完勝をつきつけてみせる。そう意気込んでいると、ノーズが腰に下げていた一振りの杖を抜き出した。
「こうなったら、奥の手だ‼」
ノーズの言葉に呼応し、豪華な装飾が施された杖の先端につけられた宝石が輝く。
「見るがいい、これぞ我が家に伝わる
宝石の輝きは炎へと変化し、ノーズの両腕にまとわりつく。しかし、炎が腕を焼くことはなく、その光景から私は奥義とやらの効果を断定する。
「なるほど、
「はっ、何とでも言うがいい‼ これを使った以上、お前に勝ち目はないのだからな‼」
ノーズが勝ち誇った笑みを浮かべながら、拳を振りぬく。技術も何もない、ただの拳だが纏わせた炎が推進力となって、高速の一撃へと昇華させる。
「ッ、ここまで威力が上がるのですね…………」
速度が上がれば威力も上がってもおかしくはない。しかし、展開していた魔力障壁に大きなヒビが入るほどにまでなるとは思っていなかったので、少しだけ目を細めながら一度、距離を取ろうと後退する。
「オラオラッ‼ さっきまでの威勢はどうした‼」
それを許さまいと距離を詰め、近接戦に持ち込もうとするノーズ。その愉悦に満ちた顔からは自分の優勢に酔いしれているのが見て取れる。
「所詮は口だけか‼ 何とも無様な姿だな‼」
「無様、ですか。自分の力ではなく家の道具を用いた奥義に頼る貴方こそ、無様なのではありませんか?」
「ッツ…………黙れぇ‼」
激高し、さらに火力を上げるノーズに対し、私は再び魔力障壁を展開。
「その薄っぺらい壁じゃあ、俺様の拳は防げないぜ‼」
「そうでしょうか?」
荒々しい拳が障壁にぶつかり、ピキリと割れる音が響く。
「ハッ、さっきの二の舞だ、なっ⁉」
「どうかしましたか? もしかして、一枚しか魔力障壁を展開しないと思ったのですか?」
「くっ…………」
一枚でダメなら二枚、三枚と複数展開して、その勢いを殺せばいい。
「さぁ、お返しです」
障壁を消すと同時に私は数十の炎弾を展開し、放出する。
「なっ……ふざけ、ッ…………⁉」
「悪態をつく前に抵抗した方がいいですよ」
全弾直撃し、苦し気に声を上げるノーズへ追撃。今度は『炎を腕にまとわせて』殴る。
「フンッ‼」
「ガぁ………ッ⁉」
腹部に重い一撃が炸裂。《杓炎轟雷》よりも強烈な一撃によって、再び吹き飛ばされるノーズ。
「ば、馬鹿な⁉ なぜお前が《炎翼の小妖精》を使える⁉」
「勘違いしているようですが、これは炎翼の何とかではありません。ただの
そう告げながら、今度は足に炎をまとわせて鋭い蹴りを放つ。顔を目掛けて放たれた蹴りはギリギリのところで腕を挟まれて防がれる。
「こ、のっ……ふざけるなぁ…………‼」
「我武者羅に腕を振り回しても当たりませんよ」
「黙れ黙れ黙れぇええええ‼」
反撃をしようと腕を激しく振り回すノーズ。しかし、ただ腕を振り回すだけの攻撃が私に当たるはずもなく、ノーズが放った拳はあっけなく空を切る。
「ふざけるな! ふざけるな‼ お前がその魔法を使えるはずがないんだ‼」
「私に限らず、鍛錬すれば誰でも使えるようになりますよ。それこそ、そんな道具に頼らなくても」
道具に頼る貴方と、道具に頼らない私。言外にそう告げると、分かりやすく顔を真っ赤にしたノーズが最早、言葉にならない声で発狂しながら突進をしかける。
「あぁああああああああああああ‼」
「このまま近接戦で勝利してもいいのですが、それでは中途半端な気がしますね」
付与魔法を解除。同時に牽制の魔法弾をノーズの足元に放つ。踏み込まんとする足場が崩され、ノーズはその場で急ブレーキをかける。そして、悔し気に唇を噛み、顔を歪めるのを一瞥した私はある程度、距離を離したところで静かに佇む。
「私は魔法士なのですから、魔法士らしい技をもってして勝利を収めるとしましょう」
そう言い、魔法を発動させるための魔力を練り上げる。
「な、なんだ、その魔力の量は……一体、何をするつもりなんだ…………⁉」
「魔法を使うだけですよ。魔法士なのですから、それ以外にやることなんてないでしょうに」
「あ、ありえない……これほどの魔力で放たれる魔法を、お前のような野蛮人に使えるわけがないんだ…………‼」
「ありえないと決めつける前に防御の準備をされてはどうですか? 会場の方には強力な結界が張ってあるので問題ありませんが、参加者である貴方には何もかけられていないのですから怪我だけではすまないかもしれませんよ」
杖を横に振り、複数の魔法陣を展開した後、重ね合わせる。さらに高まり、遂には臨界に到達した魔力をもって、私は告げる。
「《
轟音と共に放たれるは赤、青、緑、黄の四色で鮮やかに輝く巨大な魔法弾。
炎、水、風、土の
しかし、シンプルが故に強力。四属性をかけ合わせたこの魔法は少なくとも《杓炎轟雷》の倍以上の威力を誇る。
「がぁああああああああああああああああ⁉」
忠告通り、防御魔法を展開していたノーズだったが、構築の甘い防御はいとも簡単に破られ、強烈な魔法弾に全身を襲われる。焼かれ、溺れ、切り裂かれ、押し潰されたノーズはボロボロになりながら、その場に膝から崩れ落ちた。
「ノーズ選手、戦闘不能‼ 勝者、ナーラ選手‼」
『ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼』
ノエルの力強い実況に、さらに力強く、爆音とも言えるほどの歓声が湧きおこる。
「ふぅ、無事に勝てましたね」
「さぁ、一対三という不利な状況から勝利したナーラ選手‼ 何か一言、お願いします‼」
「ふぇっ⁉」
勝利したことに安堵していた私は突然の要求に素っ頓狂な声を上げてしまうも、すぐに落ち着きを取り戻し、マイクを受け取る。
「え、えっと、私一人では勝てなかったと思います。こんな私を応援してくれた人達の支えがあってこその勝利だと思っています。だから、レオスさん、クラリスさん、ありがとうございます‼」
この勝利は決して、私だけのものではない。私一人では、この舞台に立つことすらなかっただろう。だから、私はここまで導いてくれた二人に感謝の言葉を伝え、頭を下げた。
会場の至る所から万雷の拍手が響き渡る中、頭を上げると、こちらを見つめながら笑顔で拍手を送ってくれる二人の姿が視界に入り、私は小さな笑みを浮かべながら一言。
「本当に、ありがとうございます」
―――――――――
努力を積み重ね、勝利を掴み取る。
実はナーラが主人公なんじゃ…………‼(違います)
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