第7話 瞳に焼き付く、探索者
「す、凄い……‼」
少女はたった一人であんな恐ろしい魔物に立ち向かう青年の姿を前に、感嘆の声を漏らす。
「私達が手も足も出なかった魔物と、互角に戦っている……‼」
青年の名前は知っていた。少女と同じパーティーであるノーズ達が彼を目にする度に、忌々しげにその名を呟いていたため、少女も気づけば覚えていた。
「うっ……」
すると、突然、足首にピリッとした痛みが走り、少女は土埃で汚れた顔を小さく歪める。
「あ、傷………」
未だ『迷宮』内とは言え、戦闘から離れたことで心に余裕が生まれたのだろう。知らない内に出来ていた傷が痛みだし、僅かではあるが出血をしていた。
(どうしよう……万が一、魔物の攻撃対象が私に移った場合に備えて、少しでも回復させておくべき? それとも、魔力を温存しておくべき?)
『迷宮』内では”一”の油断”が”十の脅威”となって襲い来る、なんて言葉があるほどに危険な場所なのだ。まだまだ新人である少女は頭を必死に回転させ、どうするべきか考える。
その時だった。
「あっ……⁉」
少女の視界の先で、レオスが鋭い一撃を食らってしまった。大剣によるガードが間に合わず、派手に吹っ飛ばされたレオスが『迷宮』の壁に勢いよく衝突する。
これまでとは違い、軽くはないダメージを受けたレオスが血反吐を吐きながら着地する。
(迷っている暇はない…………‼)
レオスが倒れれば、次に狙われるのは間違いなく自分。故に―――
「おっ、回復魔法か……‼」
『ォオオオオオ……』
―――少女は『レオス』に向かって、残っていた全魔力で回復魔法を使用した。
「サンキュー‼ 助かったぞ‼」
「はぁ……はぁ……いえ、このくらいしか、出来ることはありませんから……‼」
魔力を使い切ったことで全身から力が抜け、その場に伏しながらも少女はレオスと魔物の戦いから視線を逸らさない。
「頑張って、ください……‼」
少女の激励に呼応するかのように、どんどん鋭くなっていくレオスの攻撃。
「オラッ、どうした‼ まさかスタミナ切れってことはないよな‼」
『ア―――――――――ァアアアアアアアアアアアアアアアアア‼』
幾度となくぶつかる大剣と拳。その衝撃が空間を激しく揺らす。一時は自身が押していたにもかかわらず、今は一転して押されている状況に絶叫を上げる魔物の視線が私を捉えた。
そして―――
『アァアアアアア‼』
「なっ、ふざけんな⁉」
「――――――…………え?」
―――これまでで最も速い移動で私へ迫り来る魔物と、その背中を必死な顔で追うレオスの顔が視界に映った。
魔物が荒々しく息を吐きながら、その腕を振り上げる。
(あ……殺される……)
あまりに速い攻撃に、少女は咄嗟の反撃すら出来ず、呆然と見つめるのみ。
(せめて、一撃ぐらいは……‼)
そう頭のなかで強く思いながらも動くことは出来ず、あと一秒で魔物の攻撃が少女の身体を貫く時だった。
「撃て‼」
『アァアアアア―――――――――――――――⁉』
号令と共に数多の魔法が魔物に向かって放たれ、その強靭な身体を易々と吹き飛ばした。次々と広い空間に探索者達が現れ、その内の一人、『聖獣の剣』のアレンが少女を見た。
「負傷者か、誰かすぐに手当てを‼」
彼は一瞬で少女の状態を把握し、仲間に適切な指示を出す。
「え、あ、あの……」
「よく頑張った。あとは私達に任せてくれ」
「は、はい…………」
トップクランを前に、上手く言葉を紡げない少女へアレンはそう言い、己の武器である片手剣を静かに構えるのだった。
「遅いぞ、アレン‼ おかげでボロボロになったぞ‼」
「これでも急いだんだ、文句を言うな」
そう言いながら、俺と入れ替わり前に立つアレン。
「にしても、お前は本当に運がないな。こんな階層でA級魔物と遭遇するなんて、中々ないことだぞ?」
「うるせぇよ。それに、遭遇したと言うよりはその場に駆け付けた、って方が近いぞ?」
「へぇ、となると、最初に出会ったのはあの少女ってことか?」
「ついでに言うと、ノーズ達もだ」
「………ふ~ん」
俺の言葉に表情を無くすアレン。今の会話でノーズ達があの少女を見捨てた、と察したのだろう。正義感の強いアレンなら憤るのも無理はない。
「相変わらずのようだな、アイツ等も」
「まっ、今は目の前の敵に集中しようぜ? お前なら一瞬で片付けることが出来るだろうがな」
「一瞬では無理だが、余裕をもって倒せるレベルの敵ではあるな」
A級魔物を相手に余裕をもって、なんて発言をしている時点で十分、おかしいと思いながら俺はゆっくりと後ろへ下がる。
「本当は他のメンバーにも経験を積んでほしい所だけど、時間がないんでね。すぐに片付けさせてもらうよ‼」
『アァアアアア――――――‼』
体勢を整えたグリムハントへと疾走するアレン。愛用の片手剣に
「フッ‼」
そして、勢いよく振り下ろされた片手剣がグリムハントの胴体を易々と切り裂いた。
『―――――――――……………………ッ⁉』
驚愕で声にならない悲鳴を上げ、目を見開くグリムハントが倒れかけた身体を無理矢理支え、反撃を仕掛けようとするも、アレンはすかさず死角に移動し、今度は
「す、凄い………」
「流石、アレン様‼」
「惚れ惚れするほどの剣技です‼」
アレンの部下らしき探索者が口々に賞賛の声を上げる中、当の本人は片手剣に膨大な魔力を纏わせる。
『アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼』
「終わりだ」
最後の力を振り絞り、突貫を仕掛けるグリムハントへ――――――、一閃。
『ァアアアアアアアア――――――…………』
「ふぅ…………」
「相変わらず、馬鹿みたいに強力な魔法だな」
「力を抑えた状態で、あそこまでグリムハントに善戦するお前にだけは言われたくないな」
片手剣をしまい戻ってきたアレンがジト目で俺を見てきたが、無視して地面に落ちた魔石を拾う。
「ほらよっと」
「おい、魔石を投げるな。ドロップアイテムほどではないが、貴重なんだぞ?」
「別にいいだろ。A級の魔石なんて、余程のことをしない限り壊れることはないだろうが」
「はぁ……というか、いいのか? 俺達が貰っても」
「討伐したのはお前だ。俺はただ時間稼ぎをしただけだし、お前が受け取らないと他の団員達がうるさくなりそうだからな」
「確かにな……分かった、この魔石は俺が貰うとしよう」
そう言い、受け取った魔石を部下に渡すアレン。
「では、急いで戻るとしよう。こんな異常事態が起きた中で『迷宮』内に長くいるわけにもいかないからな」
「だな」
そして、俺達は『迷宮』の出口へと向かうのだった。
(ノーズ達の件、どうするつもりだ?)
(ギルドに突き出して、降格処分、あるいは資格の剥奪ってところだな)
(あの少女、新人のようだが、仲間を囮にするのが禁止なのは知っていると思うか?)
(知らないだろうな。だから明日、ギルドで話してみるさ。上手く行けば……クックック)
(はぁ…………悪巧みをするのはいいが、ほどほどにしておけよ)
(分かっているさ)
―――――――――
流石、アレン‼ めっちゃ強い‼
あ、ちなみにアレンは凄いモテます。モテすぎて、リリカはよく不機嫌になるし、レオスは当たり前のように舌打ちをします。
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