3話『水族館デート後編』

 先ほど言った通り、ペンギンを見にきた。

 正直、予想以上に凄まじい光景が広がっていた。

 何せ、前を見てペンギンが映るのはもちろんのこと、上を見てもペンギンが視界に必ず入るのだ。しかも真上を泳ぐペンギンは、スーパーヒーローのように飛んでいかのように泳いでいた。そしてこれを見た雨宮さんは──。


「──かわいい〜、!」


 君、そんなキャラだっけと言いたくなるような、

 キャラ崩壊を起こしていた。

 もう、夜空の美少女とか呼ばれてるのが信じられなくなりそうである。


「とはいえ、実際ペンギンってかわいいな……」


 同じ空間にいたら生臭い匂いがしそうなものだが、水槽越しに見る分にはただただ可愛い存在だった。僕も集中してペンギンを見ていると雨宮さんが声を出した。


「あ、! 浅霧くん、あそこ見て!!」


 ナチュラルに初めて名前を呼ばれた。

 そして雨宮さんがあそこと指差す場所にはペンギンの赤ちゃんがいた。


「おぉ……」


 まるで人形のように。という表現が最も似合うであろう生物がそこにはいた。

 まんまるふわふわの体でヨチヨチ、いや、恐らくペチペチと歩いていた。


「かわいい……」


 二人とも、無言で水槽を眺める。

 数秒、いや、数十秒かそうした後、僕は先ほど聞いたアナウンスを思い出していた。


「雨宮さん。この後やる、ペンギンのショー見に行く?」

「──うんっ」


 いつもよりも数倍以上高いトーンで頷いた。


 ❀❀❀


 ペンギンのショーは今から20分後に始まるらしい。

 それまでどうしようかと聞くと、まだ見ていない水槽を見ようと提案された。


 当然、僕はそれに同意して、

 鮫が見えるエリアに行くため歩き始めた。


 道中、鮫よりも凄い光景が僕たち二人の視界を埋め尽くした。

 それは、この暗い水族館で、水槽よりも輝くたくさんのクラゲだった。


「…………」


 僕は言葉を失っていた。

 ただでさえ、クラゲだけでも現実感が薄れいていくほどに綺麗なのに。

 彼女とクラゲが合わさった景色は、あまりに“幻想的”だったから。


「……クラゲ、綺麗だね」


 囁くような声音で呟く彼女に、

 僕は心の中で、君の方が綺麗だよ。と囁いた。


 ❀❀❀


 ペンギンのショーが始まった。

 飼育員さんとペンギン達の抜群のコンビネーションで次々に芸が披露される。


 雨宮さんはその光景を食い入るように見ていた。

 そしてついさっきペンギンの可愛さに気づいた僕も夢中でショーを楽しんだ。


「いや〜、ペンギンすごかったね」

「はい、圧巻の動きでした……」


 二人でショーの余韻を楽しみつつ、最後は軽くまだ見ていない水槽を見て回った。

 そして、最後に出口付近の水槽を、見ている途中僕は手を洗ってくるとその場を離れた。


 水族館を出たのは1時すぎだった。

 入ったのが11時なので、僕らは2時間以上も見ていたらしい。


「雨宮さん。これ、水族館に付き合ってくれたお礼」


 そう言って水族館に入る前は持っていなかった紙袋を手渡す。

 中身を見てもいいですか? と雨宮さんが聞いてきたのでもちろんと了承する。


 紙袋から出てきたのは、赤ちゃんペンギンのぬいぐるみだった。

 それを見た雨宮さんはぬいぐるみを抱きしめ、


「……ありがとうございます、、、」


 上目遣いでお礼をしてきた。

 これは、買って正解だったなと自分を称賛する。


「いい時間だし、ここでお昼も食べて行かない?」


 正直、結構お腹が空いていた僕はそう提案をする。

 流石に食事までするのは話が違うと断るかと思ったが、


「いいですよ。私、あそこのお店で食べたいです」


 むしろ積極的にそう言ってくれた。

 彼女が選んだお店はパスタやケーキが売りのカフェだった。


 お店に入るとお客さんの殆どが女性だったので、ここは一人では入れなかったかもしれないな。なんて思いつつ席に着く。


 メニューを見ると、やはり沢山のパスタ料理が乗っていた。

 お腹が空いていることもあり少し多めに食べること決めて店員さんを呼ぶ。


「僕は海の幸のトマトパスタの大盛りとモンブランを」

「私は、カルボナーラとショートケーキをお願いします」


 注文を完了した。

 何気に彼女が学校の人以外と話すの初めて見たが普通に話していたな。


「「いただきます」」


 先にパスタがきたので手を合わせて食べ始まる。

 うん、海鮮の出汁が効いていて美味しいな。……今更だが、水族館を見た後に海鮮パスタを頼むのって中々のサイコパスに見えるんじゃないか……?

 そう心配したのも杞憂で彼女は美味しそう且つ器用にカルボナーラを食べていた。


「でも、雨宮さんがあんなにペンギン好きだったのには驚いたよ」

「……かわいいじゃないですか。ペンギン、」

「確かに。と言っても、ペンギンの可愛さに気づいたのは今日なんだけど」


 そう答えると、


「それなら、浅霧くんがペンギンの可愛さに気づいてくれてよかったです」


 そう可愛らしく答えてくれた。

 でも、改めてペンギンパワー凄まじいな。

 あの、初対面でよろしくしない。なんて言ってた雨宮さんがこうなるんだから。


 それ以降も水族館の話題を中心に雑談しながら食事をした。

 後、ここのモンブランはすごく美味しかった。


「「ご馳走様でした」」


 食べ終わったので会計をするために立ち上がると雨宮さんも着いてきた。そして僕が支払おうとすると、「今日は色んなものをもらいましたから、私に出させてください」とご馳走してくれた。


 そして──。


「今日は楽しかったよ。ありがとう」

「いえ、私の方こそ楽しかったです。連れて来てくれて、ありがとうございました」


 水族館デート? は終了した。

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