番外編1「冒険者ギルド、本日も悠に振り回される」

 自由都市ヴァルア、冒険者ギルド。

 ギルドマスターのバルガスは、最近増えた胃薬の消費量に頭を悩ませていた。

 原因は、言うまでもなく、あの規格外の新人、星野悠である。


「マスター! 大変です!」


 受付嬢のシーラが、血相を変えて駆け込んできた。


「今度はなんだ……。悠君がまた何かやったのか」


「はい! 先日悠様が受注された『鉱山のゴキブリ駆除』の依頼ですが……」


「うむ。どうなった」


「鉱山ごと、消滅しました」


「……は?」


 バルガスの思考が停止する。

 報告によると、こうだ。

 悠は鉱山に現れた巨大ゴキブリの群れを見て、「うわ、気持ち悪いな……綺麗さっぱりいなくなればいいのに」と思ったらしい。

 その結果、神聖系の超上位浄化魔法が勝手に発動。

 ゴキブリはもとより、鉱山そのものが分子レベルで分解され、後にはなぜか花畑が広がっていたという。

 依頼主の鉱山主は、ゴキブリがいなくなったことには感謝しつつも職場を失い、途方に暮れているそうだ。


「あいつは……『ちょっと手伝う』の規模がおかしいんだ……」


 バルガスは天を仰いだ。


 またある日、悠は『迷子の猫探し』の依頼を受けた。

 普通なら街中を探し回る依頼だ。

 しかし、悠は違った。


 彼は広場の中央で、「ねこちゃーん、どこー?」と呼びかけた。


 すると、彼の無自覚な魔力に引き寄せられ、ヴァルア中の猫という猫が彼の元に大集結してしまったのだ。

 広場は猫で埋め尽くされ、依頼の猫は見つかったものの、他の飼い猫たちを元の家に戻す作業で、ギルド職員は半日を費やすことになった。


「悠君。君はもう、討伐依頼と探索依頼は受けないでくれ……」


「え、どうしてですか? 僕、何かまずいことでも……」


「いや、君は悪くない。ギルドの建物が、君の規格に合っていないだけだ……」


 バルガスは疲れ果てた顔でつぶやいた。

 彼の胃痛は、悠がこの街にいる限り、治まることはないだろう。

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