第12話「平穏な日常と、ほんの小さな自覚」
世界は救われた。
魔王が倒されたことで魔物たちはその力を失い、ただの獣に戻るか、あるいは消滅していった。
世界には、久しぶりに本当の平和が訪れた。
そして、その立役者である僕は、当然のように「救国の英雄」「世界の救世主」として、王都で盛大な歓迎を受けた。
「悠様! 我らが英雄!」
「ユウ! あなたは、本当に私たちの希望でしたわ!」
国王陛下やリリアーナ王女、ガイウス、エリン、そして多くの国民たちが、僕に最大級の賛辞を贈ってくれる。
でも、僕にはその全てが、どうにもむず痒くて仕方なかった。
「いえ、僕は何も……。全部、皆さんと、この聖なる秘宝のおかげです」
僕はそう言って、全ての栄誉を周りの人々に譲った。
僕がしたことなんて、ただみんなを助けたいと思っただけ。
最後の戦いだって、ほとんどこの宝珠が頑張ってくれたようなものだ。
僕の謙虚すぎる態度は、またしても人々の尊敬を集める結果になったのだが、僕自身はもうそんな周りの評価を気にしていなかった。
王様からは、望むなら国の半分をやるとまで言われたが、それも丁重にお断りした。
「僕には、そんな大層なものは似合いません。ただ、また静かに旅をさせてもらえれば、それで十分です」
僕の決意は固かった。
皆は僕の旅立ちを寂しがったが、最後には笑顔で送り出してくれた。
「ユウ、またいつでも帰ってきてくださいまし。ここは、あなたの故郷ですわ」
リリアーナ王女の言葉に、僕は少しだけ胸が熱くなった。
こうして僕は、再び一介の旅人として平穏な日常に戻った。
あれから、僕は少しだけ変わった。
自分の力が本当に「普通じゃない」こと。
そして、その力は「困っている人を助けるため」にあるんだと、ほんの少しだけ自覚できるようになった。
だから、旅の途中、畑仕事に困っているお爺さんがいれば、「ちょっとだけ」土に元気を与えたり。
橋が壊れて困っている村があれば、「ちょっとだけ」頑丈な橋を架け直してあげたり。
僕の「小さな親切」は、相変わらず僕の知らないところで、新たな伝説を生み出し続けているらしい。
でも、そんなことはどうでもいい。
僕は今日も、青い空の下を歩く。
どこかで誰かが困っていたら、そっと手を差し伸べるために。
自己評価はまだ低いままだし、自分の力の全容なんてやっぱりよく分からない。
だけど、それでいいのかもしれない。
だって僕は、英雄でも救世主でもない。
ただの、お人好しな旅人、星野悠なのだから。
僕の物語は、まだ始まったばかりだ。
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