第10話「魔王、完全復活。そして戦場へ」

 聖なる秘宝を手に王都へ帰還した僕たちを待っていたのは、絶望的なニュースだった。


「魔王が……魔王が、完全に復活した……!」


 伝令兵の悲痛な叫びが、王宮に響き渡る。


 魔王は大陸中央の休火山を根城とし、魔王城を出現させると、そこから無数の魔物たちを世界中に解き放った。

 帝国は一夜にして壊滅し、自由都市国家群は次々と陥落。

 人類の版図は、瞬く間に塗り替えられていった。


 僕たちがいるヴァルハイト王国も、もはや風前の灯火だった。


「もはやこれまでか……」


 玉座で国王が天を仰ぐ。

 貴族たちはうろたえ、城内はパニック状態に陥っていた。


 その中で、リリアーナ王女だけは、毅然とした態度で僕の前に立った。


「ユウ。あなたがいれば、まだ希望はあると信じています」


 彼女のまっすぐな瞳が、僕の心に突き刺さる。


(僕が……希望?)


 ダンジョンでの一件で、自分の力が普通ではないと少しだけ自覚した。

 でも、魔王を倒せるなんて確信は全くない。

 怖い。逃げ出したい。


 でも、僕の脳裏に浮かぶのは、これまで出会った人々の顔だった。

 商隊のダリオスさん、スラムの子供たち、ランズデール辺境伯、騎士団のガイウス、魔術師のエリン、そして、リリアーナ王女。


 みんな、僕に親切にしてくれた。

 僕の「たまたま」や「偶然」を、信じてくれた。


(みんなを……助けたい)


 僕の原点は、いつもそこにあった。

 お人好しで、困っている人を見過ごせない。ただ、それだけだ。


「……行きます」


 僕は、手の中の聖なる秘宝を握りしめた。


「僕が、魔王のところへ行きます」


「悠殿!」「ユウ!」


 僕の決意に、皆が息をのむ。


「一人で行くというのか!? 無謀だ!」


 ガイウスが止めるが、僕は首を横に振った。


「大丈夫です。僕が行けば、きっと、なんとかなる……気がします」


 それは、何の根拠もない言葉だった。

 でも、不思議とそう思えた。

 ほんの少し芽生えた自己肯定感が、僕の背中を押してくれていた。


 国王は、王国の、いや人類の全ての希望を僕に託した。


「頼む……! 世界を、救ってくれ……!」


 僕はうなずき、たった一人で王都を飛び立った。


 目的地は、大陸中央の魔王城。


(あれ? 僕、今、空飛んでる? ……まぁ、いっか。急いでるし)


 無自覚な飛行能力に今更驚きもせず、僕は絶望に覆われた戦場へと、まっすぐに突き進んでいくのだった。

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