第3話「測定不能は機械の故障ですよね?」
スラム街での一件から数日後。
僕は日雇いの荷物運びの仕事中に、立派な身なりの老紳士に声をかけられた。
「君が、星野悠君かね?」
「は、はい。そうですけど……」
「わしはバルガス。この街の冒険者ギルドの設立者で、今はご隠居さ。君の噂は聞いているよ」
バルガスと名乗る老紳士は、鋭い目で僕を値踏みするように見つめている。
「君ほどの力を持つ者が、こんなところで燻っているのは惜しい。冒険者になる気はないかね?」
「ぼ、冒険者!? 僕には無理ですよ! 力なんて全然ないですし」
全力で否定するが、バルガスさんは「まあ、ついてきたまえ」と聞く耳を持たない。
半ば強引に、僕は巨大な冒険者ギルドの建物に連れてこられた。
ギルドの中は、屈強な冒険者たちでごった返している。
誰もが自信に満ち溢れていて、僕のようなひ弱な男がいる場所ではない。
「よし、まずは適性検査だ。この水晶に手を触れてみろ。君の魔力量が測れる」
受付のお姉さんに促され、僕は恐る恐る水晶玉に手を触れた。
(魔力量なんて、ゼロに決まってる……)
そう思った瞬間、水晶はこれまで見たこともないほどの激しい光を放ち始めた。
ビカァァァァッ! バチバチバチッ!
「きゃっ!?」
「な、なんだ!?」
ギルド中が騒然となる。
そして次の瞬間、
――パリーンッ!
高価そうな水晶玉は、甲高い音を立てて粉々に砕け散った。
「「「「「…………」」」」」
ギルド内が、水を打ったように静まり返る。
「す、すみません! 僕、何かやっちゃいましたか!?」
僕は慌てて頭を下げた。
弁償しろと言われたらどうしよう。僕には一文無しなのに。
すると、バルガスさんが僕の肩をポンと叩いた。
「はっはっは! やはりわしの目に狂いはなかった! まさか、測定器を破壊するほどの魔力とはな!」
「え? いや、これはきっと、この機械が古くて壊れただけですよ! 僕のせいじゃありません!」
「そうかそうか、謙虚なことだ」
バルガスさんはニコニコしているが、全く話が通じていない。
周囲の冒険者たちも「おい、マジかよ……」「あの『不動の水晶』が……」「化け物か……?」とヒソヒソ話している。
結局、僕の魔力量は「測定不能」という前代未聞の結果で記録され、僕は不本意ながらも冒険者として登録されてしまった。
「さて、悠君。最初の依頼だが……これなんかどうかな?『森の薬草採取、ついでに小動物の駆除』。初心者向けだ」
バルガスさんが、ニヤリと笑って依頼書を渡してきた。
僕はほっと胸をなでおろした。小動物の駆除なら、僕でもできるかもしれない。
森に入り薬草を探していると、前方に数匹の凶暴そうな狼――ゴブリンウルフが現れた。
(うわ、小動物っていうか、普通に猛獣じゃないか……)
僕は怯えながらも、彼らを追い払おうと考えた。
(そうだ、石でも投げて、あっちに行ってもらおう)
僕は足元に転がっていた小石を一つ拾い上げ、ウルフたちとは別の方向に向かって、えいっ、と軽く投げた。
――ゴォォォォォッ!!!
僕の手を離れた小石は、青白い光を放ちながら凄まじい勢いで飛んでいき、はるか遠くの森に着弾する。
そして、
ドッッッッカァァァァーーーーン!!!
地を揺るがす大爆発。
巨大なキノコ雲が立ち上り、森の一部が綺麗さっぱり消し飛んだ。
ポカーンと口を開けてその光景を見ていたゴブリンウルフたちは、一斉に「キャンッ!」と悲鳴を上げて脱兎のごとく逃げていった。
「……あれ? 追い払えたな。よかった」
僕は任務完了を喜び、のんきに薬草を摘んでギルドに戻った。
僕が提出した報告書と、遠方からでも確認できた謎の大爆発を結びつけたギルドマスターのバルガスさんが、頭を抱えていたことを僕が知るのはまだ先の話だ。
この日を境に、なぜか難易度の高い厄介な依頼ばかりが、僕の元に回ってくるようになるのだった。
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