第24話 初めての狩り・練習編

 グロリアの言葉通り、この草原にはかなり多くのウサギが生息しているようだ。しかし俺たちに捕まってくれるような間抜けなウサギはいない。


《ああ、また逃げられてしまいましたね~。》

〈剣で狩るのは難しいみたいね。〉


 二人の言葉通り、ここまで五回ほど試したのだが、ウサギにはなかなか近づけず、逃げられてばかりだ。


 手の合図もしっかり出来ているし、そんなに大きな物音を立てていないのだけど、それでもウサギは敏感に反応して逃げてしまう。まあ、ウサギにしてみれば命がかかっているのだから、それも当然なのだろう。


 ホムラとマヤも残念そうな顔をしている。特にマヤは反省しているようだが、別に彼女が悪いわけじゃない。強いて言えば、狩りの方法が悪いわけで、それはつまり、そんな方法を選んだ俺が悪いってことだ。誠に申し訳ない。


(ちょっと手伝って貰っても良いかな? ある程度近づいて、獲物が逃げようとしたところで、魔法で倒して欲しいんだ。)

《はい、良いですよ~。》

〈あまり遠くの獲物は倒さないってことで良いわよね?〉

(ああ、それでお願い。何でもかんでも倒しちゃうと、何も面白くないからね。)


 精霊二人の魔法の射程距離はとても長い。町の中にいたとしても、この草原を越えて、森の中の獲物を問題なく狩れる程度には長い。つまり全てを二人に頼るなら、そもそもこうして出かける必要すらないのだ。


 悪い言い方をすれば舐めプってことになるんだろうけど、それが俺の本質だから仕方ないのだ。



 それからも俺たちのウサギ狩りは続き、一度はあとちょっとの所まで行ったんだけど、結果として剣では一羽も狩る事はできないままで、今日の目的地である森に到着してしまった。


 自力では狩れなかったものの、魔法の袋にウサギが十羽ほど入っている。すべて血抜きも解体も終わった状態だ。それぐらいは俺たちでも出来るんだけど、早く森に着きたかったのもあって、シルビアたちに任せてしまったのだ。


〈私たちって、ただの便利な女扱いされている気がするわ。〉

《主様は鬼畜ですからね~。》


 いや、まあ間違っちゃいないけれど、二人に何かお礼をするにしても、俺に出来るのは精力を提供することぐらいしかないんだよね。それ以外だと、あとは感謝の気持ちを伝えることぐらいだ。


(いつもありがとう。二人には感謝しているよ。)

〈うわ、気持ち悪い! 何なの、急にどうしたの?〉

《きっと何かをたくらんでるんですよ~。》


 そんな、酷い……。ちょっと泣いてしまいそうだぞ。



 一応、陽のあるうちに森にたどり着いたが、太陽はもうかなり西に傾いており、もうすぐ日が暮れそうだ。ちょっとウサギ狩りを頑張り過ぎたかも知れない。


「今日はここで野営にしようか。」

「そうね、かなり疲れたし。それに場所を選んでる時間もないわよね。」


 俺たちは森と草原の境目、その草原側を適当に選んで、そこで野宿することになった。


「お腹空いた。」

「ええ、今日はお昼ご飯がとても早かったし、早く食事にしましょうよ。」

「ああ、準備してもらうから、ちょっと待ってね。」


 野営をするわけだから、もちろん火を焚いて料理をすることになる。今いる場所は野原が森に変わろうとするところなので、もちろん草むらが広がっている。こんなところで火を使うと、もしも燃え広がった時にとても危険だ。


 さすがにそんな危険を冒すことは出来ない。もし火事になっても、グロリアとシルビアがきっと何とかしてくれるだろう。だけど、まあ、一応? 危ないことは最初から避けておいた方が良いだろうからね。


(と言うわけで、お願いします。)

〈何が、と言うわけ、なんだか。まあ、別に良いけどね。〉


 そんなわけで、グロリアたちに頼んで魔法で綺麗に草を刈り、軽く地面を固めてもらった。これで小さな広場が出来たので、魔法コンロで安全に料理が出来ることになったわけだね。


「さすがは精霊様たちのお力、いつもながら素晴らしい御業みわざですね。」

「本当にすごいです。」


〈主様とは違い、この子たちは可愛いわね。〉

《本心からの感謝を感じますよね~。》


 いや、俺だって本気で感謝を……まあ、いいか。



 俺たちの夕食はもちろん、恒例のステーキ祭だ。


 このところ、夜は宿で出してくれる食事を摂っていたので、夕食のステーキ祭は久々だ。


 せっかくだからウサギ肉で焼き肉とシチューにしたかったのだけど、それだと料理に時間がかかってしまう。もう時間が遅いこともあって、ウサギは明日に回すことになったのだ。


 魔法コンロを三つ出し、その上にフライパンを三つ並べて、三枚のステーキを同時に焼いていく。焼けた後、お皿に取ったらすぐに次を焼き始めるのがミソだ。そうすることで、待たなくてもすぐにお替りを食べられるのだ。


 最初の頃は料理隊長のマヤか、それとも俺が全部焼いていたのだけど、今ではみんなが自分のステーキを自分で焼く方式に変わっている。そうしないと、焼く係をしていたら、いつまでたっても何も食べられないからね。


 ステーキ祭は真剣勝負だ。気を抜くと、せっかくのお肉が焦げてしまう。不器用なホムラは時々失敗しては俺の肉を奪っていくけれど、基本的には自分の焼いたものは自分で食べることになるので、失敗は命取りになるのだ。


 今日は朝から色々と厄介ごとがあった上に、慣れないウサギ狩りをしながら草原を移動してきたので、ホムラとマヤの二人はとても疲れていたのだろう。ホムラが一枚目と二枚目、そしてマヤが三枚目のステーキを失敗してしまい、焦がしてしまったのだ。


 ホムラはたびたび焦がすことがあったが、それでもこれまでは一日一枚だった。マヤに至っては焦がすのはこれが始めてのことだ。ホムラは黙って俺の肉と取り換えていたけれど、マヤはそれが出来ずに涙目になっている。


 俺の肉と取り換えてあげようと思ったら、気づいたホムラがそれよりも早く焦げた肉を取り上げていた。自分の肉と取り換えてあげるのか、優しいな、そう思って見守っていたら、自分のではなく、黙って俺の肉と取り換えていた。


 まあ、それで特に問題はない。マヤが困ったような顔をしているので、軽く頷いて問題ないことをアピールしておく。笑顔を向けてあげてもいいんだろうけど、精霊の二人によると、俺の笑顔はキモいし恐怖の対象らしいので、今はやめておくことにした。


 肉は焦げていたけど、可愛い女の子の手料理なので、これもご褒美……とは思えないけどね。焦げた肉はやっぱりただの焦げた肉で、やっぱりとても苦い味がした。



 ステーキ祭を終えた俺たちは、食器などを片付けると、地面にごろりと横になった。


(それじゃ悪いけど、寝ている間の護衛を頼むね。)

《はいはい~、頼まれました~。》


 その日はみんな本当に疲れ切っていたようで、横になってすぐに眠りについてしまった。左右には、俺と同じようにホムラとマヤが転がって眠りについている。二人は俺の側にいたいというよりも、俺の中にいる精霊たちの側が安心できるのだろう。


 どのくらい眠っていたのだろう、俺はシルビアとグロリアの呼びかけで目が覚めた。


〈主様、忍び寄ってくる人たちがいるわ、全部で四人ね。〉

《これは例の四人組ですね~。》

(うわあ、ついに盗賊になったのか。)

《目的はまだわかりませんよ~。》


 たしかにあの四人はウザかったからなぁ。逆恨みでもされたかな。


《襲ってくるようなら、すぐに処分しちゃいますよ~。》

(ああ、頼む。遠慮なく首を切り飛ばしてくれ。)


 盗賊ではないと決めつけて襲われたのでは、たまったものではない。それに、そもそもマサキやブタオだけでなく、残りの女二人も信頼できるような相手ではなかった。


 襲ってくるまで待つか、それとも今すぐ処分するか。だめだ、まだ眠くてあまり考えがまとまらない。


〈武器を抜いたわ。盗賊確定ね。〉

(下手に取り押さえようとして騒ぎになったら、寝ている二人を起こすことになるかも知れないからなぁ。)

《結界に閉じ込めてしまえば、音が聞こえないように無力化できますよ~。》

〈あら、それは良い手ね。朝まで閉じ込めてしまいましょうか。〉

《朝までと言わず、十年でも百年でも、閉じ込めておけますよ~。》

(じゃあ、それでお願い。悪いけど、俺、かなり眠いから寝させてもらうわ。)

〈ええ、ゆっくり寝ていてね。〉


 それだけ聞くと、俺はすぐに再び眠りに落ちてしまい、どういう事態だったのかを詳しく知るのは翌朝のことになった。


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