第2話 チートスキルを手に入れろ
「それじゃ回すわよ? え~いっ!」
ギュオオオ~~~ンッ!
掛け声はゆるふわだったが、女神様の力は伊達ではなく、あまりの超回転のために竜巻が発生し、突風が辺り一面に襲い掛かった。
「うわっ! ちょ、ちょっと!」
「男の子でしょ? 頑張って~。」
あまりの強風に体が飛ばされそうになるが、ここはしっかり踏ん張って投げなければならない。この結果に異世界生活の全てがかかっているのだ。
「とおっ!」
へろへろへろ~~~ん すぽっ!
俺の投げた矢はへろへろと飛んで、一応ルーレットに当たって刺さった。
「うん、ちゃんと当たったわね? それじゃあ、どこに当たったのか、止めて確認しましょう~。え~~いっ!」
ギュギュギュギュギュッ キキキキキーーッ!
女神様が回転するルーレットの端を手で掴む。すると恐ろしいような摩擦音が辺りに響き渡り、煙とともに辺りに焦げ臭い匂いが広がっていく。
ルーレットは止まったが、俺の投げた矢は、その急ブレーキの勢いですっぽ抜けたようで、すごい勢いでどこかに飛んで行ってしまった。
「あらあら、残念! ハズレで~す。せっかく当たっていたのに抜けちゃったわね~。」
「ええええ~、そんなぁ。抜けたら貰えないんですか?」
「そんな残念な貴方には、参加賞のタワシをプレゼント! 次、頑張りましょうね~!」
女神様から手渡されたのは、茶色い草みたいなので作られた昔ながらのタワシだ。
止まったルーレットを見てみると、大勇者特別セット(美少女従者二名つき)と書かれたところに穴が空いている。畜生、刺さったままだったらあれが貰えたのか。悔しいが仕方ない。次だ、次頑張ろう。
俺は参加賞で貰ったタワシを握りしめ、次こそはと気合を入れる。
「それじゃあ、二回目いくわよ~?」
「ちょ、ちょっと待ってください! これだと何回やっても抜けて飛んで行っちゃうので、何とかなりませんか?」
せっかく刺さっても、これだとまた抜けて飛んで行ってしまう結果になるのは見えている。
「う~ん、そうね~。それじゃあ、こうしましょうか。」
女神様が軽く手を振ると、俺が持っているダーツの矢の先が、針から吸盤に変化した。
「その吸盤は、当たったところにしっかりピッタリとくっついて、一週間ぐらいは絶対に取れない神器なの~。それなら外れて飛んで行っちゃうことも多分ないと思うわ~。」
「おお、女神様、ありがとうございます!」
さっきの投げ方でルーレットには当たるはずだ。そしてこの矢であれば、確実にチートスキルが手に入るに違いない。よし、気合を入れるぞ!
「じゃあ回すわね、え~いっ!」
ギュオオオオオォォォォォオオオ~~~~~~~~ンッ!
「ちょ、ちょっと! さっきよりも回転が速いです!」
「細かい事を言ってると、女の子にモテないぞ~。」
くっそう、ここはさらに気合を入れるしかない。
「とりゃっ!」
へろへろへろ~~~ん ぴたんっ!
今度も俺の投げた矢はしっかりとルーレットに当たって、しっかりとくっついたようだ。
「また当たったわね、えらいえらい! それじゃあ、止めて確認ね~! え~~いっ!」
ギュリギュリギュリッ ギギギギギーーッ!
先ほどよりもはるかに濃い煙が上がる。
バリッ!
そしてルーレットから何かが剥がれて飛んで行った。
「また残念~! 当たった所が
剥がれた場所には、大賢者完全セット(美少女奴隷つき)、と書かれてあった。もちろん貰えない。貰えるのは参加賞のタワシだけだ。
これは非常にまずい。このままではスキルは何もなく、タワシ三つを手に抱えて異世界を渡り歩くことになってしまう。
「女神様……、お願いです、もうちょっとゆっくり回して貰えませんか? ルーレットが壊れるほどの高速なんて、そんなの人間には無理です……」
「あらら、軟弱ね~。ゆっくり回すから、今度こそしっかり狙って当てるのよ?」
女神様はそう言うと、ルーレットを手で回すのではなく、軽く息を吹きかけた。竜巻を起こすことなく軽く回り始めたルーレットを見て、俺はこれならいけると確信した。
この最後の一本、当てさえすればスキルが貰えるのだ。絶対に外してはいけない。そう思うとだんだん緊張が高まってくる。
精神統一のため、軽く目を閉じる。こういう時はなんだっけ、そう、たしか無念無想だ、心眼だ。
俺は雑念を全て捨て去り、心眼で最後の一本となった矢を投げた。
「キエエ~イッ!」
へろへろへろ~~~ん ぴたんっ!
しかし矢はルーレットから大きく外れていた。
「いやんっ!」
全ての雑念を捨て去ったはずなのに、俺の投げた矢は、女神様の豊かな胸のふくらみの、その先っぽ辺りにぴったりと貼りついていたのだった。
くそう、心眼、破れたり!
「ああん、残念~。タワシ三つ目ですね~。」
「ちょ、ちょっと待ってください! ハズレじゃなくて女神様、女神様に当たったんだから、これは女神様が貰えるのでは!」
タワシを持ち歩くことを避けるため、俺は必死になって食い下がった。もしも女神様が貰えることになれば、少なくとも俺の代わりにタワシを一個は持ってもらえるはずだ。もうこうなったら、それに賭けるしかない。
「えええ~私ですか? それは困りましたね~。」
「そこを何とか! だって当たった物が貰えるってルールだったじゃないですか。」
「えっとですね、私が貴方の物になるのば別に良いのですけれど、ちょっと困った問題があるんですよ~。」
なんと、女神様を俺の物に出来るというのか! このムチムチぷりんぷりんな美少女が俺の物になるなんて、ああ、生きていて良かった! 異世界転生ってことは、もう死んでいるのかも知れないけど!
女神様を俺の物にしたら、タワシ一個と言わず、二個とも女神様に持って歩いて貰うのだ。
「それで、問題というのは何でしょうか? ちょっとぐらいなら融通利かせられますけど。」
「下界の人間が女神の体に直接触れたり、女神の体を直接見たりすると、パァンってなってしまうんですよ~。」
「もしもパァンってなったらどうなるんですか? また別の異世界で転生することになるんでしょうか。」
「いえいえ~、パァンってなったら魂が砕け散って、チリ一つ残りません~。もう転生できない、本当のご臨終ですよ~。」
なんと! それは確かに問題だぞ。別にエッチなことをしたいとか、そういうことではなくて、いや、それもあるにはあるんだが、近くにいたら間違って触ってしまうことは幾らでもあるだろう。
これは何とかしなければならないな。
「ええっと~、良く考えてみたら、この矢は私じゃなくて、私の服に当たっていると思うんですよね~。だから貴方にあげるのはこの服になります~。」
確かに、そういう見方もあるのか。
「今から脱ぎますから、後ろを向いてて下さいね~。振り返っちゃ駄目ですよ、私を直接見たら、パァンってなっちゃいますからね!」
女神様に言われて、俺は急いで女神様に背中を向けた。服を脱ぐ、衣擦れの音が聞こえてくるが、俺は絶対に振り返ることがないように精神を統一する。しかしあまりの誘惑の強さに、まるで背中から眼が生えてくるような思いだ。
「んしょ、んしょ。あれ、何か引っかかっちゃった、ちょっと待ってて下さいね~。」
女神様、それって、もしかして
ほら、今だって鉄の味が俺の口の中いっぱいに広がっている。と思ったら、俺の目からは血の涙が流れていた。これは涙の味だったか。
血の涙も枯れて、真っ赤に染まっていた俺の視界が薄いピンク色に落ち着いた頃、また俺の目の前に、女神様とは違う別の一人の若い女性が突然出現した。女神様に非常に良く似た感じだが、なんだか少し年上で女子大生っぽいお姉さまだ。
何故かわからないが、そのお姉さまは柳眉を逆立てているようだ。あれ? なんだか怒っていらっしゃる?
「良くも妹に不埒な真似をしてくれたわね!」
パァン!
俺は何も言い訳する暇もないまま、そのお姉さまに盛大なビンタを食らわされていた。同時にまるで超新星爆発するかのような衝撃が、頭の中を駆け巡った。
これって、もしかして俺、また死んだの?
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