異世界転生したと思ったら守護霊だったので憑いてるコイツを見守っていく

BES

第1話 転生失敗?

 夜勤バイト終わりにコンビニで本を立ち読みしていた。読んでいるのは週刊の漫画雑誌。子供の頃は毎週の楽しみだったが、今はコンビニに寄った時に読む程度になってしまった。これが“大人になる”という事なのか?いや、単純に他の事に時間を割いているだけか。


 パラパラと流し読みを終えて雑誌を元の場所に戻す。必然的に目に入ってくるのは興味の沸かない分野の雑誌の陳列。その中の一つに目が留まる。華やかな表紙、結婚雑誌か。子育て特集って書いてあるな。まあ、結婚なんて俺には縁のない話だな。


 相良透、現在二十五歳フリーター。彼女なし。縁などあるはずもない。縁は自ら掴み取るものと言われても、その一歩が踏み出せないのだから我ながらしょうもない性格だ。


「子供に恥じない生き様だっけか……悪いけど俺には無理だな」


  心の中で先人に謝りつつコンビニを出た。その時だった。


「ぐっ!?」


 突如胸が激しく痛みだした。何だ、これ……。あまりの激痛に思考がままならない。


 痛みはどんどんと増していき、立っていることも困難になりアスファルトへ倒れ込む。


 これは……ダメだ……。恐らく、もう助からない。

 

 そうか。これが人生の終わりか。呆気ないな……。


 突如として俺を襲った激痛はそのまま俺の意識を刈り取った。




* * *




 沈んでいた意識の中で、突然の眩しい光に瞼を開く。死んだはずだと思ったんだが……。助けられたのか?というかまず、此処は一体何処なんだ?雰囲気からして地獄ではないのは確かだが。


 身体全身を浮遊している感覚。暗い海の底のような……何もない空間。それがこの場所で俺が感じる事。上を見上げればそこには頭上から照らす光。


 俺はその光に吸い込まれるように、あるいは光が近づいてきたのか。どちらでもいいが、とにかく俺はその光の中へと誘われた。


「あら?カインちゃん。起きたのね」


 光の中は建造物の内部へとつながっていた。見たところ木造の家屋だ。和風というよりかは西洋風の家屋。窓もあるし陽の光は入ってきているのに少し暗めだ。電気はないのか?


 それよりまずは目の前の人型の巨大生物だ。いや、違うか。俺を標準とすると縮尺が大きく感じる以上、巨人サイズでない限りは小さくなったのは俺だと考えるべきか。


 そして人が小さくなるなんて事はありえない現象だ。

 それに目の前の若い女性が呼んでいたカインという名前。


 俺は仰向けに寝ているのか天井付近しか見えないが、明らかに日本ではない家屋。どころか時代も近代ではない。あえて言えば中世が近いか。


 これらの情報から導き出される結論は……。


 ……転生……か……?俗にいう異世界転生じゃないのかこれは。異世界の赤ちゃんに転生してチート能力貰って無双したり、領地経営とか。俄然楽しみに……ん?推定母上に動きが。


「あら〜、どうしたの?カインちゃん。ママの手をぎゅって握って〜。寂しいのかな?」


 ……どういう……事だ……??というか、今更なんだが


『くそっ、身体よ!動け!!……ダメかぁ』


 自分の体ならいくら赤子とはいえ少しは動くはずだが、全然、動く気配はない。


 不思議な感覚だ。俺の脳は体が自在に動いていると認識している。しかし赤子は俺のしたい行動を受け付けてない。


 『もう一度だっ!!せめて腕一本だけでも動かす!!うおおおおおおおおお!!』


 などど滾ってはいるのだが、やっている事は赤子の腕を動かす為に腕を振り回しているだけ。滑稽なことこの上なし。……だが無意味だったかというと、そうでもなかった。


「うおおおおおおお!!ってなんか生えた!!?」


 赤子から腕が出てきたのだ。勿論赤子から腕が生えたわけではない。その腕は半透明な成人男性の腕だった。もっと言えば、コレ、生前の俺の腕だった。


「あれ、抜けれそうだわ」


 腕が動いた事で少しコツを掴んだようだ。その後体はスルスルっと赤子から飛び出した。近くでは推定母上改めカイン母がカインをあやしている。こんな不審者が急に現れたら怖がるに決まっている。


 しかし、こちらもようやく出てこれたんだ。カイン母には悪いけどまずは状況確認だ。……と、思ったけどおかしい。何者かの配慮で服を着てはいるけど、こんな不審者が家に出たら普通反応するよな?


 だけどカイン母は無反応だ。こちらを見もしない。見ようとしてないわけでもない。まるで誰ももいないかのようだ。彼女に俺の姿は見えていない。透明人間ではない。透明人間なら姿が見えないだけで音まで消すわけじゃないからだ。


 俺の中で一つの推論が立った。俺=幽霊説。普段ならこんな話鼻で笑うところだが、さっきまでの現象と経験がその確率を高めていた。


 ……認めるしかないか……。俺は異世界に霊として転生したと。


 それに唯の霊じゃない。この赤子、カインに取り憑いた霊だ。恐らくだが、目を覚ましたのはカインの中の意識の海のような場所で、光は表世界とのゲートの役割だとすれば納得がいく。

 

 カインの体を動かせなかったのも、俺が取り憑いただけの霊体だというなら理解できる。半透明なのもそういう理由だろう。


『はぁ、これからどうするかな……』


 誰にも聞こえない愚痴を漏らす。転生して二度目の生?を受けたのはありがたい。前世の知識を持っているのも最高だ。だがしかし、霊体とはどういう事なのか。転生させた神が目の前にいたなら小一時間詰めてたところだが、いない以上、俺はこの困惑と今後に対する不安、孤独感等々に対してどう向き合えばいい?どう霧散させろというのか?


『くそっ!!』


 怒りに任せて壁を叩こうとするが、腕は壁をすり抜けていく。物にもあたらせてくれないのか。バランス崩して上半身だけ外に出ちゃったし……ほんともう最悪だな。


「カインちゃん。壁ばかりみて、何か見つけたのかな?」

『っ!?』


 それは一筋の光明だった。まさか……。いや、あり得る。頼む。そうであってくれ……!


 カインに近づき反応をみる。


『やっぱり……お前、俺が見えるのか……?』


 カインにゆっくりと人差し指を近づける。カインはそれを確かに握ろうとするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る