最後のピンクと次のダンス

あおじ

最後のピンクと次のダンス


 友人の企画したダンスパーティに参加した。かつて貴方が選んでくれた淡いピンク色のドレスを着て。


 シャンパンゴールドのホールの中で、貴方は誰よりも輝いている。そしてそんな貴方と共に踊るのは、同じ位輝いている素敵な女性。貴方が今一番大切している女性ヒト

 ホール中の視線を集める貴方達に背を向けて、私はバルコニーへと出る。幸せな貴方達を眺めているだなんて私には出来ない。

 星空を見上げるふりをして、溢れ落ちそうになる涙を堪える。するとコツコツとこちらへ近づいてくる足音がした。


「ユリ、俺と踊ってくれないか?」


 やって来たのは貴方。その声色は私を心配しているようだった。私はもう貴方の大切な女性ヒトではないのに、本当にお人好しだ。

 私は振り変える。そして振り向きざまに微笑んでみせた。そう、貴方に贈る最後の微笑みだ。


「いいえ、結構よ。貴方は早く彼女の所へ戻ってあげなきゃ」


 私がそう言うと、貴方は安心したような戸惑ったような顔をして明るい場所へと戻って行く。

 私は貴方の背中を胸がぎゅっと締めつけられる思いで見送る。


 貴方と彼女の元へ大きな花束が運ばれてくる。ピンク色の薔薇の花束は婚約祝のプレゼントだ。

 貴方と彼女は幸せそうに笑っている。きっと私では貴方をこれほど幸福には出来なかっただろう。

 次のダンスパーティにはシックなドレスを着よう。ピンク色はもう私には似合わないから。




《終》

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最後のピンクと次のダンス あおじ @03-16

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