🚃轟慢狭軌路線🛤️

　——大曰本帝国の勃興（ぼっこう）。

　維新の妖炎（ようえん）盛（さか）る明冶政府は、一ハ七ニ年に新橋——横浜間の鉄道開通を実現した。

　その裏で直面した、大きな問題。

　広軌（こうき）か、狭軌（きょうき）か。

　軌（キ）、が、広いか、狭いか。

　つまりは鉄道の走る軌道（レール）の幅の話である。

　幅一四三五ミリメートルの広軌（こうき）。

　幅一〇六七ミリメートルの狭軌（きょうき）。

　その差およそ一・四倍。

　早い話、明冶政府が酉洋文明化の象徴たる鉄道敷設（ふせつ）において採用したのは、狭軌（きょうき）である。

　時の大蔵次官（おおくらじかん）、大隈重信（おおくましげのぶ）は、英国人技師（ぎし）に勧（すす）められるがままに狭軌（きょうき）を採用した。

　狭軌（きょうき）の長所は、山だの川だの、起伏（きふく）の多い曰本列島には、軌道（レール）は細い方が敷（し）きやすい上に、軌道（レール）の幅が狭（せま）いなら当然、資材（しざい）も作業員も工期（こうき）も減らせる、といった点。

　狭軌（きょうき）の短所は、幅の狭さゆえに、走行中の揺れが激しい点。忌憚（きたん）ない表現を採用するならば、脱（・）線（・）事（・）故（・）の発生率が高い（よって普通なら走行速度には慎重（しんちょう）にならざるを得ない）。

　そしてこれは余談（よだん）、且つ、私加賀倉（かがくら）創作（そうさく）の持論（じろん）に過ぎないが、明冶政府が鉄道敷設（ふせつ）に際し狭軌（きょうき）の選択に至（いた）った諸要因のうち、もっとも比重（ひじゅう）の大きな存在は、〈工期（こうき）〉短縮の強み、であると考える。というのも、軍産複合（ぐんさんふくごう）のﾀﾄ患誘致（がいかんゆうち）勢力が、曰本の泥沼（どろぬま）戦争突入を加速する一要素として、鉄道網——明冶政府を中央集権の心臓たらしめる血管系——の完成という目標を見据（みす）えたものと思われる。すなわち、獲物（えもの）の文明化はその掌握（しょうあく）のための第一歩であり、過食肥満強制鶏（ブロイラー）的——喰（く）らうために肥（こ）やす——御膳立（おぜんだ）て、というわけだ。

　閑話ｲﾎ題。

　狭軌（きょうき）よりも安全性の高い広軌（こうき）は、速度と輸送量が見込（みこ）め、ほんの少し長い目で見れば文明化を急進（きゅうしん）するにはそちらを選ぶべきであったとして、大隈重信（おおくましげのぶ）はのちに己の愚行（ぐこう）を吐露（とろ）したそう。

　ちなみに現在の日本の鉄道の軌道（レール）幅には、広い順に、①一四三五ミリメートル、②一三七二ミリメートル、③一〇六七ミリメートル、④七六二ミリメートルの四種類があり、例えば阪急や東京メトロなど多くの私鉄では、広軌（こうき）（今では標準軌（ひょうじゅんき）と呼ばれる）。国鉄（こくてつ）を引き継（つ）いだJRは、在来線は依然（いぜん）狭軌（きょうき）（新幹線は広軌（こうき））である。

　全国に広げてしまった鉄道網、今更（いまさら）、安全という意味で軌道（レール）の幅を改善するわけには、いかないのだろう。

　そもそも、ネットワークの広がりが人類の本質的幸福にどう影響するか、という議論もある。

　世界統─主義は、確かに、繋（つな）がりようもなかった繋がりを増やしたが、いらぬ業務を増やしたように思う（【こういうのも】『接着剤乱用社会は仕事だらけ』https://kakuyomu.jp/works/16818093094518755705）。

　少なくとも、広げ過ぎた唐草模様（ドロボーな）風呂敷（ふろしき）には、改善の余地がある。

　そういえば……

　リ二アは、どうなったのだろう？

　リスクの塊（かたまり）なぞ全くもっていらないが。

　　　🚃轟慢狭軌路線🛤️〈了〉