後先の菩提薩埵①

————————車窓しゃそううつぼくかお


🐦‍⬛————————————


————記憶きおくなか父親ちちおや


——それによくている。


 今日きょう日曜日にちようび

 彼女かのじょ——ひとみ講義こうぎがなしということで、二人ふたりでおかけだ。

  

   電車でんしゃ

   大日だいにち鉄道てつどう早見線はやみせん


 ぼくは、わけあって、可能かのうならこの路線ろせん使つかいたくなかったのだが、ひとみ今日きょうきたいとっている場所ばしょは、この窮屈きゅうくつ電車でんしゃくのが一番いちばんアクセスがいいから、仕方しかたない。

 車内しゃない乗車じょうしゃ瞬間しゅんかんからほとんど満員まんいんで、ゆずゆずらないのはなしではないほどに、空間くうかんまっている。空気くうきは、乗客じょうきゃく頭部とうぶ天井てんじょう隙間すきま——それはさかりのパイプオルガンの管束かんそくみたく凸凹デコボコとしている——くらいだ。

 くわえて、あんじょうというべきか、電車でんしゃはやけにスピードをしている。あんじょう、そう、なぜかあんじょうおもってしまうのだが、原因げんいんがはっきりしない、それが不快ふかいであり、愉快ゆかいであり、興味きょうみぶかい。

 ぼくは、意図いとせず眉間みけん——そこには第三だいさんとやらがありそうなものだ——にめてしまっていたちからいて、鏡面きょうめん反射はんしゃ父親ちちおやかおから、ひとみかおへと、双眼光そうがんこう宛先あてさきうつえた。


「ねぇ観太かんたくん、早見はやみのお団子屋だんごやさん、たのしみだねー。ていうかひとおおいね、みんなも団子屋だんごやさん目当めあてかな?」


 ひとみ小声こごえでそうった瞬間しゅんかんぼくは、周辺そとがわの視野しやに、見覚みおぼえのある老婆ろうば姿すがたがした。

 見覚みおぼえのある、というのは、はる彼方かなたむかしの、おぼろげな記憶きおくぎないのだが。

 老婆ろうば

 こし非道ひどまががった、つえつきの老婆ろうば

 誇張歪曲こちょうわいきょく——デフォルメ——されたおさな余熱よねつ程度ていど記憶きおくなかにおいて、老婆ろうばは、三本足さんぼんあし一瘤ひとこぶ駱駝らくだである。

 老婆ろうばは、きゅう——いまではそう接頭語せっとうごともなわせる——国鉄こくてつぎらいであるということが、ぼくにはなぜだかわかり、そういう意味いみで、ほとんど初対面しょたいめん他人たにん共通きょうつう趣味しゅみっている、みたいなしたしみをかんじる。

 ぼくだって、この大日だいにち鉄道てつどう早見線はやみせんが、はっきりってだいきらいだ。

 ん?

 ん??

 ん????

 いや、て、そもそも……



 ———老婆ろうば記憶きおく本物ほんものか?



 ぼく第一だいいち頸椎けいつい第二だいに頸椎けいついじく——こうべ——を、女児じょじ玩具がんぐ痩身そうしん洋人形ようにんぎょう機構システムおなじくして、左右さゆう二〇〇にひゃくる。


 いや予感よかん


 ああやはりそうだ。


 老婆ろうばなど見当みあたらなかった。



   〈つづく〉

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