【警告⚠️胸糞展開にご注意くださいませ】

　俺（おれ）は今日（きょう）も、ホームの地面（じめん）と車両（しゃりょう）の床（ゆか）との間隙（かんげき）を跨（また）ぐ。

　車内（しゃない）を見渡（みわた）し、すぐに優先座席（ゆうせんざせき）に若（わか）い女性（じょせい）が座（すわ）っているのに気（き）づく。

　どちらかと言（い）えばふくよか、と形容（けいよう）する他（ほか）ない女性（じょせい）で、女性（じょせい）は腰（こし）のあたりまである髪（かみ）を枝垂柳（しだれやなぎ）みたく散（ち）り下（さ）げている。

　観察（かんさつ）、そう、観察（かんさつ）だ。

　でもジロジロは見（み）るな、変質者（へんしつしゃ）になってしまうから。

　俺（おれ）は、その女性（じょせい）の、河豚（ふぐ）の白子（しらこ）のように絹白（きぬしろ）にむっちりとした腕（うで）に、半回捻転（メビウス）の輪（わ）で絡（から）んだバッグの取手（とって）、そこにまあるいキーホルダーのようなものを認（みと）めた。

　———マタニティ・マークだ。

　そうか、なら仕方（しかた）ない。

　そこで車両（しゃりょう）は赤暗（あかぐら）い隧道（トンネル）に突入（とつにゅう）した。

　車両（しゃりょう）側面（そくめん）中程（なかほど）、黒（くろ）の光沢面（こうたくめん）、鏡（かがみ）同然（どうぜん）の窓（まど）ガラス。

　そこに反射（はんしゃ）して、女性（じょせい）の弄（いじく）るスマホ画面（がめん）が水平反転（かがみうつし）で投影（とうえい）される。

　俺（おれ）はそれを意識的（いしきてき）に覗（のぞ）き込（こ）もうとしたわけではなかった。

　不可抗力的（ふかこうりょくてき）に、俺（おれ）の見開（みひら）いた両眼（りょうめ）に世俗的（せぞくてき）な文章（ぶんしょう）の塊（かたまり）が飛（と）び込（こ）んできた。

　————————————————————————

🟣馬場ばば子（破天荒ライフハック女子☝️👵💕）

　@babababa_hatennko☑︎・19m

　やった、電車座れた〜！🚃💺😎

　祝日だしライブ会場まで立ってないとなかと思ってたけど、ラッキー✌️

　ま、私ってちょっと太ってるから、カバンにマタニティマークつけててら

　どのみち席譲ってもらえるんだけどね、ほんとこのマーク便利だわ👶💕

　　💬2　　♻️5　　❤️25　　📶369　　⬆️

　————————————————————————

　俺（おれ）はまたしても見誤（みあやま）った。

　とんだ阿婆擦（あばず）れだった。

　観察（かんさつ）というのは、難（むずか）しい。

　そこで……

　目（め）が合（あ）ってしまった。

「あの、ちょっとぉ、おじさん、なに人（ひと）のスマホ覗（のぞ）いてるんですか！？」

「えっ！？　いや、の覗（のぞ）いてませんよ？」

「あああっ！！！　アンタこの前（まえ）、満員電車（まんいんでんしゃ）であたしのカラダにベタベタ触（さわ）ってきたオッサンじゃないの！　顔（かお）、おぼえてるわよっ！！！」

「え、そんなことはなかったですよ！」

　そうか。

　長髪（ちょうはつ）の巨漢（きょかん）だと思（おも）ったのは、女性（じょせい）だったんだ。

「いいや、触（さわ）りました！　あん時（とき）は大事（だいじ）な用（よう）があったから見逃（みのが）してあげたけど、明（あき）らかに、息（いき）が荒（あら）かったですもんね！　アンタの吐（は）く息（いき）で窓（まど）ガラスが何回（なんかい）も曇（くも）ってましたもんね！」

「ご、誤解（ごかい）だ！」

　俺（おれ）は、乗客全員（じょうきゃくぜんいん）の視線（しせん）を一斉（いっせい）に浴（あ）びた。

　そして目（め）の前（まえ）が真（ま）っ白（しろ）になった。

　　　〈つづく〉