第47話、検証の検証2

 あの魔法の実験が終わってから四日後、日曜日で授業も休みの筈なのにアルフ先輩がジルヌール先生に呼ばれて訓練場へと向かって行った。


「何をするんだろう?」


 僕は先輩の事が気になって寮の部屋の中をウロウロして、出掛けることも出来ないでいた。


 目の前をウロウロされてちょっと不機嫌なイヅミが、「そんなに心配なら見に行けばいいにゃ」と提案して来たけれど。


「無理だよ、わざわざ日曜日に訓練場に呼び出されるなんて、絶対誰にも見られたく無いからだろ?」


 そんな僕の返答に、イヅミは半目で僕を見る。


「アベルは忘れてるにゃ、あちしはアベルが行った事ある場所には自由に行けるにゃ」


 イヅミ頭いい! と言う事で早速イヅミは訓練場へと移動して、何をしているのか偵察して貰う事にした。


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(アルフがきたにゃ)


(他には誰かいる?)


(ジルヌールとガリレオ教授だにゃ。あと、知らない人が二人いるにゃ)


(知らないって誰だよ?)


(知らないから、知らないって……待つにゃ。自己紹介してるにゃ)


(一人はここの学園長にゃ、もう一人は……騎士団の団長と言っているにゃ)


(学園長に騎士団団長!?)


(やっぱり、あの詠唱を見せる為に呼んでいるみたいだにゃ)


(アルフが騎士団団長と聞いて緊張してる横で、ガリレオ教授が何か説明を始めたにゃ)


(なるほど、今日のこの魔法の詠唱を見て価値があると思ったら、南門の外にある演習地でもっと上位の魔法の実験をさせて欲しいと言ってるにゃ)


(南門の外!?)


(団長はとにかく、この魔法の実験を見てからと言ってるにゃ)


(アルフが的の前に立って魔法を撃つにゃ)


(この前と同じ、的を突き抜けて土壁まで突き刺さったのを見て、団長も学園長も驚いているにゃ)


(今度はジルヌールも詠唱したにゃ)


(ジルヌールの魔法の方がちょっとだけ威力が強いけれど、学生でジルヌールと変わらない威力の魔法が使えると分かってアルフが凄く褒められてるにゃ)


(今度は団長がアルフと何か話し始めたにゃ)


(あれは……きっとアルフに詠唱を教えて貰ってるにゃ)


(『Breeze』が出来たにゃ、次は『Bullet』も行くにゃ)


(……イヅミ、もういいよ。帰っておいで)


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「どうしたアベル? 最後まで見なくて良かったのかにゃ?」


 部屋に戻ってきたイヅミは、猫の姿のまま僕の顔を見上げて聞いてきた。


「今日の魔法の実験は成功さ。騎士団団長も帰ったらもっと上に報告する事になると思う。そうしたら、南門の外でもっと強い魔法の実験をすると言っていただろう? きっとその時は僕も呼ばれると思うんだ、明日にもジルヌール先生から呼ばれると思うので今日はもう大丈夫だよ」


 イヅミも何となく理解した顔をして頷くと、「疲れたにゃ」と言ってベッドに腰掛けていたニヤの膝の上に座ると、収納からニヤの手にブラシを落としてブラッシングを催促していた。


 そんな僕の予想に反して、ジルヌール先生から連絡が来たのはその日の昼過ぎだった。しかもわざわざ寮まで訪ねて来たのだ。


「すまないな、突然訪問して……」


 今、ジルヌール先生は僕の部屋のイスに座っている。内容的に他の人に聞かれたくない話しだと言うので、僕の部屋になったのだけれど。

 先生は、さっきから手持ち無沙汰そうにキョロキョロ辺りを見回して落ち着かないでいる。


「どうしたんですか、先生?」


「ん、いや……あの……イヅミちゃんは?」


 あっ、そうですか……大切な話より猫ですか。


「イヅミ」


「にゃ」


 僕が呼ぶと、イヅミが先生の座っているイスの前に現れた。


「イヅミちゃん!」


 先生の顔が一瞬で惚けて、とても生徒の前では見せられない顔になる。

 まあ僕も生徒なんですけども。


 先生はイヅミを抱え上げると膝の上に乗せて何時もの如くモフモフし始めると、心なしか先生の眉間にあった皺も取れて穏やかになった気もする。


「先生。で、ここに来た要件は何ですか?」


 先生が落ち着くのを待ってから、今日の訪問の目的を聞いた。本当にイヅミに逢いたいだけとかじゃ無いですよね?

 先生は、言われてハッと思い出したように。

 

「ああ、済まない。今日はコレを持ってきたのだ」


 そう言って、何も無い所から本を一冊取り出した。

 さすが『大魔法使い』のスキル持ち、収納魔法くらい使えますよねー。


 ポンっと軽い扱いで渡された本には「中級魔法」と書いてある。

 えっ!? コレって二年生にならないと見せて貰えない本ですよね? 僕が中を見て良いのかアワアワしていたら。


 先生は僕の様子を見て頷いて「アベル君に、この本の詠唱もあの文字で書いて欲しいのだ」と、今日の本当の目的を話し始めた。


 つまりは。この本の詠唱を僕の詠唱の文字で書いて誰かに教える。そして、その人がまた別の人に教えて詠唱を使える人間を増やしてゆくと言う事ですね。


 書かれている文字は読めなくても、直接指導すれば使えるようになるだろうとジルヌール先生は思っている様子。

 

 まあ、当のジルヌール先生も僕の詠唱を聞いて使えた経験者ですもんね。それにあと二人、詠唱が使える人間がいる。

 アンネはまだ一年だから、僕が教えるのはアルフ先輩に、と言う事だろう。先日、アルフ先輩だけが呼ばれたのもそう言う理由ですよね?


 ジルヌール先生は満足するまでイヅミをモフモフすると、サッパリとした顔で「詠唱を書くのも出来るだけ早くお願いしたい」と言い残して帰って行った。

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