第42話、魔法の検証
「お前は、また何かやらかしたようだな」
今日も、授業の終わりに「後で私の研究室に来るように」と言われてジルヌール先生の研究室へと来ています。
研究室に入ったとたん干し肉を見せると、イヅミに出て来るように言ってモフり始めました。本当は僕よりイヅミに会いたかったんじゃないかな?
イヅミをモフる手は止めず、僕には鋭い視線を飛ばしてくるジルヌール先生。
「いや、ちょっと気になって。あの詠唱の言葉を友達に真似して貰っただけなんですけど……」
ジルヌール先生の目がずっと僕を見ている。僕はヘビに睨まれたカエルのように脂汗が止まらない。
「それだけで、基礎魔法の「ぶりーず」が初級魔法の「ガスト」になったと言うのか?」
さらに眼に力が入ったジルヌール先生、もう僕は眼力だけで刺し殺されそうだ。だと言うのに、イヅミをモフる手はとても優しそうでイヅミもとても気持ち良さそうにしている。
「せっ、先生も……詠唱してみます……か?」
今度は視線が生暖かいものに変わった。
「ほう、この私を試そうと言うのか……良かろう。では、ここでは不味いから、訓練場へ移動しようか」
ジルヌール先生がイヅミを抱いたまま立ち上がり、研究室を出て訓練場へと向かう。その後ろを、ゆっくりと付いていく僕。
学園校舎から離れた場所に建てられた訓練場は、魔法の訓練をする為に作られた建物で、広い室内は等間隔に硬い壁で仕切られて、もし失敗しても周りに被害が広がらないように出来ている。
『ぶりーず』
ジルヌール先生が詠唱すると、ふわっと風が流れる。完璧な微風の基礎魔法『ぶりーず』だ。
僕が先生の事を感心して見ていると、先生も僕の事を見ていた。あっ、詠唱を教えろって事ですね。
「では、言いますね『Breeze』」
僕が発声した後、先生は直ぐには真似をせず。少し考えている様子だったけれど。
『Breeze』
ブワァ!
先生を中心に突風がわき起こる。
自分が起こした魔法なのに、驚いた目をしているジルヌール先生。
(イヅミ、どうだった?)
(やっぱりにゃ、今ので結構な因子が無くなったにゃ)
と言う事は、僕の予想通り詠唱の発声によって因子が使われる量が変わり、使われた因子の量で魔法の強さが変わるって事かな?
「次、「ぶりっと」はいけるか?」
先生が訓練場の区分けの一つへと移動しながら聞いてきた。攻撃魔法は、安全のために土壁が用意された場所でのみ使用可能となっている為だ。硬い壁で仕切られてさらに土壁が盛ってある前に的が立っている。
先生が的の前に立つ、的まで約三十メートル。
入学テストでジルヌール先生と初めて会った時に、僕が収納を使って石礫を飛ばしたのと同じ距離だ。
先生のスキルは『大魔法使い』、全ての属性の魔法を使えるけれど、特に得意にしているのは土魔法。だからか、僕が飛ばした石礫に強く興味を持たれてしまっているのだろう。
「『Bullet』です」
さっきと同じように考え込む先生、頭の中で反芻しているのかな?
「Buりっと」
おしい。
「もう一度聞かせてくれ」
「『Bullet』」
的に向けて手を伸ばす先生。
『Bullet』
ヒュッ!
バギッ!! ドスッ!
三十メートル先の的を破壊して、土壁にまでめり込んだ石礫。
「これは」
僕には『ばれっと』の威力は分からないけれど、入学テストの時に言われた十五メートルで破壊、三十メートルで当てるだけだったら、三十メートルで破壊して後ろの土壁にまで穴を開けているのは、かなり威力が強いと言う事なんだろう。
その証拠にさっきからジルヌール先生は黙って的と土壁を見てるだけになっている。
「アベル、この詠唱を知っているのはお前だけか?」
「僕と『Breeze』だけなら昨日一緒だったアルフと、アンネも聞いている筈です」
「よし、とりあえずこの事は他には言わないようにしろ、残りの二人にも他言しないように伝えておくように」
ジルヌール先生は真面目な顔で、絶対に他の人には言わないようにと何度も念押しされた。
実験が終わった後の寮までの帰り道。
(イヅミ、この詠唱って何だろう?)
(あちしにも分からないにゃ。ただアベルの記憶の中で似たような言葉は聞いたような気がするにゃ)
(また僕の記憶か……これもいつか分かる時が来るのかな)
いつもの寮のいつもの食堂では、アンネとアルフ先輩とニヤが夕食を食べていた。ニヤには毎日のお小遣いを渡していて、僕が授業の間は部屋にいて掃除をしたり、食堂でオヤツを食べたりして過ごして貰っている。
最近では、ニヤがいつも食堂にいるので食堂のおばちゃんとも仲良くなって話し相手になってくれているみたい。こんど何か差し入れでも持ってくるかな。
「お疲れ」「お疲れ様アベル」「アベルおかえり」
いつものように食事を受け取ってから席に座ると、今日の事を簡単にアルフ先輩とアンネに説明して、あの詠唱は人前では絶対に使わないようにとお願いする。
それから……もしかするとジルヌール先生の研究というか実験に、二人も呼ばれてしまうかも知れないと謝ると。二人には怒られるどころか感謝された。
ジルヌール先生の研究室は、先生が『大魔法使い』と言うこともあり、その研究室に入れる事は学園生には憧れだと言う。特に魔法の素質があれば尚更だと水魔法に適性のあったアンネは喜んでいた。
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