第36話、冬休み
休みの期間中に何をするか考えた所で、アンネへのお礼がまだだった事を思い出し、アンネに街を案内して貰いながら何か贈り物をしようと思い付いた。
イヅミから(リリー姉様に報告)と言われたけれど、これは、こないだ教授の所に付き合って貰ったお礼だからね。
アンネに連絡を取ったところ、いつでも大丈夫と返事を貰ったので、その三日後に会う約束をして。その間にコンドール商会のお手伝いや、冒険者ギルドで依頼を受けて過ごした。
そして、約束の日。
「ごめん、お待たせして……」
待ち合わせの場所にちょっと遅れて到着してしまった僕は、アンネの服装に目を惹かれてしまった。
「どうしたの?」
「いや、アンネの格好が素敵だったから見とれてた」
今日のアンナの服装は、水色のワンピースに白のアクセントフリルが付いて、赤いコートとよく似合っている。
「そ、そう? 変じゃないかな?」
「変じゃないよ、とても似合ってる」
アンネは少し照れて嬉しそうにしている。
「それより、街を案内してくれるんでしょ? 僕、こっちに来てすぐに寮に入ったから街は全然見てないんだ。だから今日はとても楽しみにしていたんだよ」
(本当は門を調べるのに歩き回ったにゃ)
(あれは偵察だからいいの、美味しいお菓子の店があるかも知れないでしょ)
「そうね。私もたくさん知っている訳では無いけれど、素敵なお店を案内してあげる。こっちよ!」
と言って歩き出したアンネが、いきなり人とぶつかりそうになる。
「おっと!」
アンネの手を引いて、ぶつかりそうだったのを避ける。
「気を付けてアンネ。そうだ、街を歩いている間は危なくないようにこうしとこうよ」
と言ってアンネと手を繋ぐと。
「!!」
アンネは体をビクッとさせたけれど、直ぐに「そ、そうね。その方が危なくないわね」と言って、手を繋いだまま色々と街を案内してくれた。
そして、そろそろ夕刻近くになり帰らなければならなくなった頃。僕はアンネを家の近くまで送っていた。
「今日はありがとうアンネ、お陰でとても楽しかったよ」
「いいえ、私も楽しかったわ。それに、こんなプレゼントまで買って貰って」
そっと手を触れるアンネの指先には、コートに花のブローチが留めてあった。
小物を売っているお店に立ち寄った時、アンネがジッと見ていたのに買わなかったので、アンネが離れた時にサッと買っておいたものだ。
「ジッと見ていたからね、気に入ったのかと思ってさ」
「とても気に入ってるわ! このお花は私の一番好きな花なんだけど。もっと好きになっちゃった」
(アベルは罪な男にゃ)
(何を言っているんだイヅミは)
「あ、もう着いちゃった」
話しながら歩いていると、あっという間に目的地まで到着した。
門の前で待っていたのか、一人の男性がアンネに気がついて声を掛けてきた。
「アンネお嬢様、おかえりなさいませ。旦那様方がお待ちでしたよ」
そして、その男性は僕の方を向いて。
「アベル様、旦那様がお待ちです。ご一緒に中へどうぞ」
「ありがとうヨハン。アベルもどうぞ、中に入って」
何だろう? リバーシの件かな?
入り口のエントランスから、廊下を進む。あまり派手ではない内装だけど木の香りがとても良いと感じた。
「とても良い木の匂いだね」
そう言うと、先を歩いていたらヨハンさんが振り返り。
「旦那様が一番好きな木材の香りです。そう言って頂けると旦那様も喜ばれると思います」
と説明してくれた。
扉をノックしてアンネの帰宅と僕が来た事を知らせると、すぐに扉が開いて中へと進む。
とても大きなリビングで、広いテーブルには、恰幅の良い男性と素敵な女性が並んで座り、その隣には少し年上そうな男性が座っていた。
アンネはサッと二人に近寄ると。
「お父様、お母様。ただいま帰りました、遅くなってごめんなさい」
二人にハグをして帰宅の挨拶をする。
「いいのよ、約束の時間は過ぎていないわ」
お母様と呼ばれた女性が優しくアンネの頭を撫でる。そしてふとコートのブローチに気が付いて。
「あら? 素敵なブローチね、出掛ける時は無かったようだけど?」
「アベルにプレゼントして貰ったの、今日案内して貰ったお礼だって」
お母様の瞳がキラリとひかり僕を見る。
「アベルさん、初めまして。アンネの母、レーベルです。いつも学園では仲良くして貰っているようでありがとうございます」
レーベルさんはそう言ってから「ほら貴方も挨拶なさい!」と隣の旦那さんをつねる。
「いたっ! 分かっとるよ」
ギシッと椅子を鳴らして立ち上がり、振り返るアンネのお父様。
「アベル君、ようこそ我が家へ。アンネと仲良くしてくれてありがとう、君は学園で一番優秀だそうじゃないか。ぜひ将来はマッターホルン材木商に来ないかね?」
お父様は優しそうな笑顔でそう言うと、右手を出してきたので僕も右手を出して答える。
痛い……いたいですお父様、すこし力を弱めて貰えませんか……。
僕が困った顔でいると、アンネが気が付いてくれて手を離させてくれた。「チッ」お父様、その舌打ちは何ですか?
「コンドール商会には遣いを出してある。後で送って行くので、一緒に食事をどうかと思ってね」
お父様がそう言うと。
「まあ素敵、お父様ありがとう! 私、まだアベルと話しがしたかったの。アベルもいいでしょ?」
既にコンドール商会に連絡されていると言う事で、僕はこちらで夕食を頂いてから馬車で送ってもらう事になりました。
どうやらアンネは、家に帰るたびに僕の事を話していたようで、お父様もお母様も「一度その男を連れて来い」となっていたご様子。
そして、アンネが隣にいるせいで、僕の目の前にはお兄様が座られており。先程から鋭い目線が飛んできているのです。
「アベル君、君はアンネの恋人なのか?」
「「ブフーッ!!」」
アンネと僕が一斉にお茶を吹き出す! 何を言っているのだこの兄は! アンネにだって失礼だろう! それに、アンネは
アンネがアワアワしているので、僕が「違いますよ」と答えると、アンネが急にションポリしてしまった。
ちょっと場が静かになってしまったので。
「そう言えば、このお屋敷は木のとても良い匂いがしますね」
ちょっと空気を変えようと呟いただけだったのに……。
「おっ!? そこに気がつくか! この家に使った木材は北の〜〜〜〜」
・
・
・
ここでも話しの長い人がいた……。
「アンネ、今日は本当にありがとう。食事も美味しかったし、久しぶりに楽しかったよ」
「こんなに遅くまで引き留めてしまってごめんなさい。だけど、私もアベルと沢山のお話し出来て楽しかったわ」
夕飯の後の話が長引いてしまい、遅くなってしまったけれど。家族皆で見送りまでしてくれて、とても良い家族だと言うのが伝わってきた。里の両親を思い出すなぁ。
「ではヨハン、アベル君をコンドール商会まで送ってくれたまえ。夜道だし、気を付けて行くんだぞ」
「心得ております。では、アベル様もしっかりお捕まりください」
御者台のヨハンさんの隣に座り、馬車でコンドール商会まで送って貰う。
パシッ!
ヒヒヒン! ガタ、ガタッ!
流石に王都の街中なので夜といっても街灯もあり、意外と明るい。東門街から中央広場に出て北へ曲がってすぐの大きなお店、コンドール商会の王都支店へと到着。
僕はここで大丈夫だと言ったのだけれど、御者台にいたヨハンさんも降りて付いてくる。商会の裏手に回り裏口の戸を叩く。暫くすると戸が開いてアジさんが顔を出した、僕が帰宅を伝えるとアジさんは後ろに立っていたヨハンさんに気付き少し待つように伝えて僕と共に家の中へ。アジさんは急いで三階へと上がり、少ししてコンドールさんと一緒に一階へと降りてきた。
「こんばんは、アベルを送り届けてくれてありがとう。貴方はたしかマッターホルン材木商のヨハンさんだね」
「コンドール商会の商会長様に名を覚えてて貰い光栄です。アベル様の帰宅が遅くなってしまった事、主人からもお詫びしますと言使っております」
「無事に送り届けて頂けたので気にされなくて結構ですよ、アベルも今日は楽しめたようですし、マッターホルン殿にもよろしくお伝え下さい」
無事に送り届けましたよ。受け取りましたよ。の挨拶が終わると、ヨハンさんが服の中から一枚の手紙を取り出してコンドールさんに手渡す。
「主人からコンドール様にと、こちらを預かって来ております。良いお返事をお待ちしております」
「確かに、明日にでも返事を持たせて使いを走らせますよ」
「その言葉、主人も喜ぶかと。では、夜分に失礼致しました」
と言う大人のやり取りが行われて、本日のお出掛けは終了となりました。
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