第17話、繋がってた先

 コンドール商会にトギリコ草を納品して三日後、僕はコンドールさんのお店へ呼ばれて来ていました。今日はトギリコ草を収めた、あるお方の屋敷へ報酬を受け取りに行くのだそうです。


「よし、ではこれに着替えるんだアベル」


 いつの間に作ってあったのか、僕にピッタリのその服は、どこのお坊ちゃんかと言うピカピカの仕立て服だった。


 姿を消したイヅミがメチャクチャ笑っていたので、後でお仕置きモフモフさせて貰うよ。


 コンドール商会の個室のソファよりフカフカな椅子に座って落ち着かないでいたら。コンドールさんから「落ち着け」って言われたけれど、だってこんな所来たことないんだもん。心臓はドキドキだし落ち着ける訳ないよ!


「お待たせ致しました、旦那様がお会いになります」


 コンドール商会の番頭さんよりビッとした服を着た執事さんがご主人の到着を知らせて扉を開ける。


 コンドールさんがサッと立ち上がったので、僕も慌てて立ち上がる。


「待たせたな。座ってくれ」


 今日のコンドールさんも立派な服を着ているけれど、入ってきた主人は一目で豪華と分かる服を着ていた。


 コンドールさんは、言われても立ったまま背中を少し伏せて、左足を引いて膝を少しだけ曲げ、右手を胸に当てる格好をして「コンドール。お呼び立てに対し参上致しました、御当主様に……」


 「堅苦しい挨拶はよい」


 コンドールさんの挨拶を途中で静止した主人、えっ? いま御当主様って言った? 御当主様って、この領の領主様?


「娘の命の恩人の前だ、今日だけは堅苦しい挨拶は無しで構わん。座ってくれ」


 御当主様がそう言うと、コンドールさんが一瞬だけチラッと執事さんを見ていた。


 目を伏せたまま、首を縦に振る執事さん。


 それを見て、諦めたように椅子に座るコンドールさん。それに合わせて僕も席に座る。


「そちらの少年が、此度このたびの品を入手した本人か?」


「左様で御座います」


「少年よ、名は何と言う?」


 僕は直接答えていいものか分からず、コンドールさんの顔を見ると。


(さっさと答えろ)ボソッ


 グワっとした顔で睨まれた。


「あ、アベルです!」


(と申します、だ)ボソッ


「アベルと申します」


 僕のワタワタした返答にも、御当主様は優しく微笑みながら僕を見ていた。


「アベルか。此度このたびは難しい依頼を受け、見事に入手してくれて感謝する。また、一人の子を持つ親として礼を言う。本当にありがとう」


 そう言うと、御当主様が深く頭を下げられた。隣の執事さんも深々と礼をしている。それを見て、目を剥いて驚くコンドールさん。


「あっ、頭を上げて下さい! 僕は……頼まれた依頼を受けて自分のできる事をやっただけです。それで誰かの役に立ったのでしたら、それはとても嬉しいです」


 とにかく慌てて頭を上げて貰ったんだけど。御当主様は「その自分の出来る事が問題なんだがな」とフッと笑みを見せた。


 そして、やっと全員が椅子に座って落ち着くとメイドさんが持ってきたお茶とお菓子を頂く。その美味しさに感動していると、コンドールさんが領主様に今回の依頼の最大の関心事を聞いてくれた。

 

「あの、お嬢様のご様態は」


 領主様は、カチャリと茶器をテーブルに置くと。


「昨日までで症状は完全に落ち着いた。今朝は食欲も出て、朝食を食べられる迄に回復したぞ、これもアレを手に入れてくれたお陰だ。本当に礼を言う」


 ここでまた頭を下げる、上げて下さいを繰り返したんだけど、お互いに笑顔で楽しいやり取りになっていた。


「とにかく、アレ程の品を今の時期に手に入れてくれた事に感謝しているのは事実だ。薬師も『まるで今朝採ってきたような鮮度だ』と驚いておったぞ」


 そう言われると、僕は苦笑いをするしか無かった。


 それを見た領主様がニヤリと笑って。


「まあ、誰しも何らかの手段があると言う事だ詮索はすまい。そのお陰で、娘は助かったのだからな」


 そう言って、隣に立っている執事さんに「あれを」と声を掛けると。執事さんがサイドテーブルに用意されていた革袋を僕とコンドールさんの前に置いた。


「謝礼だ、コンドール商会とアベルの分を分けておいた」


 あの……明らかに僕の前に置かれた袋の方が大きいんですけれど?


 コンドールさんはサッと革袋を取って懐にしまっていたけれど、僕は袋の大きさに慌てていると。


「謝礼だけでは失礼だと妻に言われてな、良ければコレも貰って欲しい」


 続いて執事さんがテーブルに置いたソレは。


「領主様……」


 思わずと言う感じでコンドールさんから声が漏れていたけれど、綺麗に刺繍された布袋。コレはなんですか?


 領主様がテーブルに置かれた布袋を手に取り、慣れた手つきで結び目を解いて中の物を取り出して見せてくれる。


 「キレイ」


 思わず声が出る。真っ黒に塗られた鞘が金で装飾され、何か家紋も描いてある。鞘を抜くと五cm程の小さな刃がついたナイフで、ナイフの背にも装飾が施されていた。


「グリードル子爵家の家紋と客人の印だ。アベルが困った事があればこの鞘の紋を見せると良い。ある程度の相手であれば効果があるだろう。そして、この街にいる間はこの館で過ごすと良い。食事の世話も全てさせて貰うぞ」


 うええ!? そんな物、貰って良いんですか?!


 僕がさらに困った顔でいると、隣からコンドールさんの手が伸びてきて、僕の頭を下げさせる。


「謹んで拝領はいりょうさせて頂きます」


 そう言って僕の頭を上げ、子爵様から客人の印のナイフを受け取る様に合図する。


 僕は、恐る恐る手を出して「謹んで拝領させて頂きます」とコンドールさんのセリフを真似る。


 小さいながらズシっとした重さが手のひらに伝わる。子爵様から渡された客人の印。


 ほぇーっ、コンドールさんの指輪を拾った『わらしべ長者』実はここまで繋がってたの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る