第20話 主役は花見と柚木

 4日目のトレーニング。


 本日も新浜が先頭を走る。実力を見せつけるように圧倒的な大差をつける。時折、後ろを振り返る。俺の位置を確認する。


 再びスピードを上げる。


「新浜のことは気にするなよ。自分達のペースで走るんだ」


 俺は並んで走る花見と柚木に声を掛ける。


「…はい」


「…了解です」


 花見と柚木は息を荒らしながらも返事をしてくれる。


 しかし、自然と2人の視線は前方の新浜の背中に向く。どうしても気になってしまうようだ。無理もない。先頭に引っ張られる気持ちを抱くのは当然の現象だ。


 これは早いところ対策が必要だな。

 

 俺は現在の状況に問題意識を持ちながら、花見達2人の隣を走り続けた。新浜の背中にターゲットを絞って。



☆☆☆



 いつもの2キロのランニングが終わった。


 俺達4人は、いつも利用する公園で休憩を取る。


 花見と柚木は普段と同じようにベンチに腰を下ろす。本日もぐったりした様子だ。2人共に頭が垂れている。おそらく先頭を走る新浜に気を取られた疲労が原因だろう。


「2人共、今日も僕の走りはどうだった? 」


 一方、新浜は元気そうな表情で隣に座って花見達に声を掛ける。前回と同様に自身の走りに対する評価を求める。2人の状態など全く気に掛けず、お構いなしだ。おそらく自分のことしか考えていない。


 これは潮時だな。


 俺は無言で新浜の近くに移動する。


「なあ、新浜。明日からトレーニングへの参加は遠慮してくれないか」


 俺は単刀直入に新浜に切り出す。


「は? …どうしてですか? 」


 新浜は僅かな沈黙の後、不機嫌な口調で尋ねる。


「悪いが。このままだと花見と柚木のトレーニングにならない」


 俺は理由を説明する。


「はい? 花見と柚木のトレーニングにならない? 何を言ってるんですか? 2人はサボらずにしっかりと走ってるじゃないですか? 2人をバカにするのも良い加減にしてくださいよ! 」


 新浜は勢いよくベンチから立ち上がる。俺を鋭い眼光で睨み付ける。


「いいや。お前が力を見せつけるように先頭を走るせいで花見達2人は、どうしてもお前の背中を気にしてしまう。すると自然と2人のペースが乱れる。だからトレーニング後に今みたいに大きな疲労が出るんだ」


 俺は新浜の言い分を否定する。新浜の睨みにも屈しない。


「このトレーニングの主役は花見と柚木なんだ。お前ではない。その点を考慮した上での提案だ」


 俺はストレートに新浜へ伝える。


「っ。…話にならない! 花見も柚木も何とか言ってよ!! 僕の必要性を訴えてよ!! 」


 新浜が2人に助けを求める。


「「…」」


 花見と柚木は気まずそうに視線を逸らす。沈黙を貫く。


「う…あ…。どうして…」


 新浜の沈黙の意味を理解してしまう。動揺を隠せずに弱々しい声を漏らす。


「そういうことだ。どうする? 俺の提案を受け入れてくれるか? 」


 俺は新浜に尋ねる。


「っ!? いい気になって! 」


 新浜は鋭い眼光を俺に走らせる。まるで全て俺のせいにするように。


「…じゃ、じゃあ! 僕と勝負してくださいよ! 」


 新浜は俺の顔を勢いよく指す。


「内容は? 」


 俺は疑問を口にする。


「もちろん長距離走です! どちらが2キロを速く走り切るか。この条件でどうでしょうか? 」


 新浜は俺の疑問を解消するように条件を勝手に提示する。


 なるほど。トレーニングと同じ距離の勝負か。


「いいだろう」


 俺は少し考えた末、新浜からの勝負を承諾した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る