第15話 情報収集
(※新浜隆之視点)
5時間目終了後の休み時間。
「ねぇ、僕も大橋先輩について気になることがあるんだけど聞いてもいいかな? 」
僕は幸運にも席の近い花見と柚木に平然を装いながら話し掛ける。昼休みに受けた山内先輩のアドバイスを行動に移す。
「新浜君も大橋先輩に興味を持ち始めたの!! 」
最初に柚木が僕の言葉に強い関心を示す。
「うん。それはいいこと。新浜、やっぱり分かる男」
続いて花見も嬉しそうに何度か頷く。
花見も柚木も大橋先輩のことになると普段以上に饒舌になり、食い付きも強くなる。ここまでは想定内。
「うん。1つ気になったことがあったね」
僕は胡散臭さが出ないように注意しながら同意する。
「いいよいいよ! 何でも答えるよ! 」
「唯花だけじゃないからね! 私も居るからね!! 」
花見と柚木は僕にウェルカムな態度を作る。いつでも話を切り出すことが可能な空気を整えてくれる。こういうのがいい。しっかりとした配慮も、この2人は出来る。何て魅力的な女達なんだ。
「花見と柚木は大橋先輩からトレーニングの指導を受けているみたいだけど。トレーニングはいつしてるの? 」
僕は花見と柚木の言葉に甘え、本題を切り出す。全ては大橋先輩と2人に関する情報収集のために。
「そうなの! うちと七瀬ちゃんは、あの大橋先輩にトレーニングの指導を受けてるの。トレーニングは、2日前から始まって毎日ある感じかな。今は2日連続でトレーニングを実施してるの」
柚木が喋れない気持ちを抑えられないように僕の疑問に回答する。ここまで柚木が積極的に話すのは今まで目にした経験は無かった。中学からの付き合いの僕が思うのだから間違いない。何て羨ましい。大橋先輩め。絶対に許さない。
「トレーニングって言っても大橋先輩の後を私達が追い掛けてランニングする形だけどね」
花見が柚木の説明に補足を加える。
なるほど。なるほど。知らない事実が2人のおかげで少し明らかになった。貴重な情報だ。
「そうなんだ。どこでやってるの? 場所とかも気になる」
僕は聞き役に徹し、あくまで話を聞き出すために疑問を投げる。2人の口から情報収集するために。
「朝の5時に始めてる。私は朝が苦手なんだけど、頑張って唯花と一緒に10分前に学校の最寄り駅の足羽高校前に集まってるよ。まあ、私達よりも先に大橋先輩が待ってるんだけどね」
今度は花見が僕の疑問を解消してくれる。過去を回想するように楽しそうに語ってくれる。
なるほど。朝の5時に足羽高校前か。しかも毎日か。
今日の夜からスマホのアラームを4時30分にセットしないとね。
「大橋先輩は早朝でも眠そうじゃないし、堂々として余裕があって。トレーニングで2キロ走っても疲れを一切見せないの。凄い体力があってかっこいいよね~」
「唯花。それ分かる~」
「ねぇ~〜」
花見と柚木は大橋先輩の称賛に共感し、互いに楽しそうに僕の立ち寄れない空気を生み出す。
あぁ~。もういいんだよ~〜!! いちいち大橋先輩の凄さを語るのは!!
もう分かったからさ~!
僕は内心で苛立ちを覚えながらも、表情には出さずに胸中に怒りを留める。
また、この怒りの矛先を明日から実行する計画にぶつけることを決意する。計画のストーリーラインを頭の中で未来予想しながら思い描く。
大橋先輩、覚悟しとけよ。絶対に2人は渡さないからな。
それと花見と柚木。待っててね。絶対に僕の下に君達を取り戻すから。
さらなる関係性の発展のために以前と同じ状態に戻そう。
僕以外の異性と話さず、話題にも出さない。中学時代のあの頃のように。
まずはそこから。
変わった日常は元に戻さないといけない。僕の望むように。
そのために上手くやらないと。
だから明日の早朝が勝負。
必ず好スタートを切ってやる。
僕の計画の完遂のために。
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