第2話 次の日の登校
休み明けの次の日。
俺は重い足取りで普段の通学路を進みながら、足羽高校に向かう。足羽高校は中堅の進学校であり、俺の通う学校である。県内では程々に有名な高校だそうだ。知らんけど。
俺は内心で玲奈や山内と遭遇することを恐れつつ、平然を装いながらクラスの教室に向かう。だって、遭遇すると気まずいだろう。それに怒りが再発してしまうし。
正門を通過し、たくさんの生徒の流れに従うように昇降口に到着し、スニーカーから上靴に履き替える。
廊下を進み、面倒な何段もの階段を上がり、3階に到着して、再び廊下を進み、2年5組の教室に後ろの戸から入室する。
不幸中の幸いは玲奈とは違うクラスだということだ。それが唯一の幸運だ。同じクラスだと必然的に顔を合わせる羽目になる。玲奈の顔など2度と見たくはない。あんな浮気野郎、思い出すだけで腹が立つ。怒りが爆発しそうだ。
俺は学生カバンを片手に自身の席に腰を下ろし、登校後の支度を始める。
「おい。大橋」
俺が支度に取り掛かる途中に真後ろのクラスメイトの男子が声を掛けて来る。
「うん? 」
俺は作業を止め、ゆっくりと振り返る。
「大橋。お前、羽鳥と別れたのまじ? 」
俺の真後ろの席の山梨が触れられたくない話に触れる。
「…誰から聞いた? 」
俺は不機嫌さと怒りを心の中で留めて抑えつつ、普段の平静な口調で対応する。おそらく山梨には罪がないだろう。こいつは好奇心で話し掛けてきたにすぎない。
「実は…山内がクラスメイトに言いふらしてたから。やっぱりそうなのか? 」
山梨は気まずそうに眉間に皺を寄せる。申し訳なさが山梨から伝わる。悪い奴ではないのだろう。
野郎……。
俺は山梨から視線を外し、既に登校済みで友人と楽しそうに雑談を交わす山内に目を向ける。あいつは俺に喧嘩を売っているのだろうか。昨日の男みたいに殴り掛かってきたら、返り討ちにしてやりたいぐらいだ。それほど、俺が別れた事実を奪った本人が拡散するのは腹が立った。まじでムカつく。
「ああ。玲奈とは別れたよ。彼女から別れを切り出されたよ」
俺は先ほどよりも増幅した怒りを内部に収めて、普段の口調で何事も感じてない態度で回答する。
「そうか。そうだったんだ。すまんな。傷を抉るような形で聞いてしまって」
山梨は申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
「気になったんだろう? なら、しょうがないんじゃね? 」
「そ、それは…」
俺の対応に困惑した表情を浮かべる山梨。困るんなら聞いてくるなよ。他者視点で物事を考えろよな。
俺は体勢を戻し、再び教科書やノートを机に仕舞う作業に着手する。
「あ、あの人って。もしかして――」
「うん。間違いなさそうだよ」
教室の外に居る女子生徒2人がヒソヒソと会話を交わしながら室内を覗き込む。どうやら1人の男子生徒に注目しているようだ。
「し、失礼します」
「失礼します」
女子生徒2人は緊張した面持ちで俺のクラスの教室に前方の戸から入室する。
2人は周囲を見渡すと、俺の姿を発見し、早歩きで俺の席に向かう。
「す、すいません。昨日、私達を助けてくれた方ですよね? 」
女子生徒の1人が代表して俺に声を掛ける。
「お、おい。なんであいつに声なんか掛けてるんだよ」
「どんな接点だよ」
「あの人達って1年生の」
「ああ。学年ビック2の美少女と呼ばれる新入生」
男女関係なくクラスメイト達の視線が先ほど入室した2人の女子生徒に注がれる。2人は注目の的である。
2人の女子生徒は俺の席の付近に佇むため、自然と俺も注目を浴びることになる。
「うん? もしかして、あの時の? 」
俺は昨日の記憶を頼り、目を細めて2人の女子生徒の顔を確認する。
その結果、昨日にナンパから助けた美少女2人だと分かった。
一方、そんな美少女2人に接触を受けた俺に驚きを隠せない後ろの席の山梨であった。
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