ずれる

ねね

闇と光、混迷

「ず・れる」

[動ラ下一][文]ず・る[ラ下二]


1 元あったところから、少しすべり動いて移る。あるべき位置から少し動いたり、基準の位置に合わない状態になる。「背骨が—・れる」「印刷が—・れる」


2 標準や基準から少しはずれる。また、考え方などに隔たりができて食い違う。「雨で開始の時間が—・れる」「ピントの—・れた発言」「時代感覚が—・れている」


出典:デジタル大辞泉




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ひとりぼっちだったわたしの前に現れたのは、救いの手ではなく悪魔の囁きだった。



ひとり風俗街を彷徨うわたしに声をかけ、闇の世界に引きずり込んだ。


あいつには世話になったのに、名前すら知らない。


名前を訊くと、いつもあいつはこう言って笑う。



「まぁ、いつかその時が来たら教えてやるよ」



「その時」なんてこないまま、わたしは光のなかに連れ戻された。


風俗街で過ごした日々は、光ある世界にいるときより刺激的で、幸せだった。


毎晩違う男と寝るのも、借金で首が回らなくなって最下層に売り飛ばされるのも、そこから這い上がるのも。ぜんぶ、わたしの生きる意味で、楽しさだった。


でも、世間はそれを許さなかった。


まだ中学生のわたしが此処にいるのはおかしい、間違いだなどと言い、わたしを光のもとに連れ出した。


わたしは抵抗した。


だって、此処にいるのが楽しくて、幸せだったから。


辛かったでしょう、もう怖いことはないんだよなんて、何も知らないくせに。


わたしは施設に入れられた。


親? そんなものはじめからわたしの世界には存在しない。


施設では、あそこと違って毎日ご飯がでた。


温かくて美味しいはずなのに、私には、あのゴミ箱を漁って見つけだした安い消費期限切れの弁当のほうが美味しく感じられた。


絶対、いつかあいつのもとに還る。


たとえそれが常識からずれていたとしても、世界の掟に逆らってでも、わたしはあいつのもとに還る。


なにが常識だ。なにが掟だ。


ここはわたしの世界だ。


わたしが基準だから。わたしは、ずれてない。


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