無気力高校生の異世界スローライフ計画は全然上手くいかない。
けろり。
プロローグ 来世は石になりたい
キーンコーンカーンコーン。
終わりのチャイムが鳴る。それは、俺のスタートの合図だ。
誰よりも早く、教科書とノートをカバンに詰め込む。
よし、完璧。今日も最速。
「お、オサム!この後カラオケどうだ?」
「わりい、パス」
「倉科―!悪いけど部活の助っ人頼めないかー?」
「だるいから無理」
背後から飛んでくる声を全部スルーして、教室のドアに手をかける。
俺の至福は、ただ一つ。『何もしない』こと。
家に帰って、録画した深夜アニメを見て、ソシャゲのログボを回収する。
意味もなくネットの海を漂って、眠くなったら、寝る。
これ以上の幸せがあるか?
いや、ない。断言できる。
ガラッ、とドアを開けて廊下に出る。
ああ、解放感。俺は自由だ。
「……」
校門を出て、いつもと同じ通学路を歩く。
今日の夕飯、なんだっけな。
ああ、そういや今日発売のゲーム、どうすっかな。まあ、急がなくてもいいか。
そんな、心底どうでもいいことを考えながら、横断歩道の前で足を止める。
チカチカと点滅する、赤い人型のランプ。
ポケットからスマホを取り出し、特に見るものもないSNSを指でだらだらとスクロールする。
ふと、視界の端で信号が青に変わったのが見えた。
一歩、踏み出す。
いつもと同じ、退屈で、平和な一歩。
その、はずだった。
――キィィィィィッ!!!
鼓膜を突き破るようなブレーキ音。
顔を上げる。目の前には、トラックのデカい顔面。
(え、信号、赤だったろ? なんでだよ)
「マジかよ……」
ドンッ、と腹の底から響く鈍い衝撃。
身体が、紙みたいに宙を舞うのが、やけにスローモーションで見えた。
アスファルトが、空が、ぐるぐると回る。
(ああ、だる。受け身とか、無理だわ)
地面に叩きつけられる。
痛ぇはずなのに何も感じねぇ……。
視界がどんどん暗くなっていく。
遠くで誰かの悲鳴が聞こえるけど、もうどうでもよかった。
(来世は……)
(……石とかに、なりてえなあ……)
そこで、俺の意識は完全に途切れた。
▼
「……ん?」
次に目を開けた時、俺は真っ白な空間にいた。
床も、壁も、天井も、全部真っ白。
なんだここ。
病院にしちゃ、殺風景すぎだろ。
「
声がした方を見ると、いつの間にか金髪のやたらと綺麗な女が立っていた。
背中に、天使の羽みたいなのも生えている。コスプレか?
「申し訳ないです!ちょっとした手違いで貴方を死なせてしまいました!」
女は軽く手を合わせ、拝むように頭を下げている。
とてもじゃないが、誤って人を死なせたヤツの態度とは思えない。
(は?手違い?死なせた?)
…ああ、そうか。
俺、死んだのか。トラックに轢かれて。
「はあ、そうですか」
とりあえず、思ったことをそのまま口にする。
なんつーか実感が沸かなすぎてパニックすら起きん。
「で、俺どうなんの?」
「え?」
「手違いで死なせたんなら何かしら誠意を見せてもらわないと」
貰えるものは貰っとけ。ケチな親父が口酸っぱくして言ってた言葉だ。
こういう相手に非がある場合は強気に出るべし。そう教わった。
「え、あ、あの…。普通、怒ったりとか、泣いたりとか…」
「いや別に。死んだんならもう関係ないっしょ」
というか元々感情が無いと言われてきたくらいだ。
死んだところで陽気になるワケがない。万年帰宅部舐めんなよ。
振り返ってみても、俺の人生、まあ、あんなもんだったし。
今さらどうこう言うのも、だるい。
それより、この状況を早く終わらせてほしい。
「あ、う、は…はい!」
女は、俺の無気力さに完全にペースを乱されているらしい。
慌てた様子で咳払いを一つ。
「わ、私は神です! 今回のお詫びとしまして、
「へー」
異世界に、チート、ねぇ。
ラノベでよく見るやつだ。天界のトレンドなのか?
「じゃあ能力は『何もしなくても生きていける』やつで。金持ちニート希望です」
「それは世界の
即答された。ちっ、使えねえ。
なんつーケチな神様だ。
「ふざけんな、じゃあ死に損だろ」
「代わりに!あなたの『楽をしたい』という魂の本質を究極に高めたスキル、【最適化】を授けます!きっと、あなたのスローライフの役に立ちますよ!」
自称神様が何やら自信満々にそう言う。
最適化?なんだそれ。よく分からん。
「はあ…。もうなんでもいいや。それでいいです」
「ちなみに使い方はですね…あ、もう面会時間は終わりみたいです。それではお元気で!」
「……は?」
そういうと女は雑に手を振って、どこかへと飛び立っていった。
どうすんだよこれ。
と思っていたら、俺の足元に魔法陣みたいなものが浮かび上がる。
「う、おおお…」
身体が、紙みたいに宙に浮く感覚。ってまたかよ。
今度は反対に目も開けられないくらいの光に全身が包まれる。
(今度はもっと長生きさせてくれよな)
気怠げに溜息を付きながら、やがて俺の意識も光に溶けていった。
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