【短編小説】死を望んだ花は、今夜も豆を挽く
風上カラス
第1話 俺とコーヒー
「マスター、ゴールデンウィークが明けたのに、今日もお客さん来ないですね」
アルバイトの
「昨日はひとり来たから、今日“も”ではないよ」
精いっぱいの抵抗をしてみたが、実際に客がいないのはその通りなので、
俺の名前は、
目の前にいる生意気なアルバイトは、
史郎――俺の師匠は天才だった。……少なくとも、俺はそう信じている。
信じられないかもしれないが、世界には――
10年前、
この店――「すのうどろっぷ」を始めるきっかけになったのも、
そんなこんなで付き合いが続き、気がつけば俺は
「こんなにお客さんいなくて、このお店、大丈夫なの?」
思い出にふける俺に、心春ちゃんが話しかけてくる。まぁ、人口が200万人いる
「心春ちゃんが心配することはないよ。副収入もあるし」
嘘は言っていない。実際、若いころに溜めた金が、
「私はそれより、金曜日の夜にこんなふうに時間を過ごしてる心春ちゃんのほうが心配だよ。たまには早上がりして、映画とかカラオケに行ってきてもいいんだよ」
……その台詞を口にした瞬間、俺は後悔した。時間の過ごし方は人それぞれ。
「いいの。私はこれで」
俺の
ふと壁にかかった時計に目をやると、夜の7時を過ぎている。
「お、もうこんな時間か。
「うん!」
心春ちゃんの目の色が変わる。
「よし、じゃあ、このあいだ食べたいって言ってたトルコ料理の新作、試食してもらおうかな? 心春ちゃん、飲み物は?」
「いつもので!」
満面の笑みで答える心春。“いつもの”――そう、それは店を始めた頃からずっとある、心春ちゃんが考案したオリジナルのカフェラテだ。コーヒー3、牛乳7の割合で作るそれは、エスプレッソすら使っていないので、厳密にはカフェラテでも、カフェオレでもない。
ただの――コーヒー牛乳だ。
だが、心春ちゃんが
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