50話 親衛隊隊長たち①

「りんご」

 

「ゴンドラ」

 

「らっぱ」

 

「パリピのピエロ」

 

「ろば」

 

「バリキャリなパセリ」

 

 慎英しんえいカイネは、くるりと向き直った。

 

「おい、パリピのピエロだって見逃したのに、バリキャリなパセリとはなんだ」

 

「じゃあバリバリなキャベツ?」

 

「そういうことじゃない」

 

 菊王子きくおうじ雪斗は、おどけて眉をあげる。

 カイネはため息をついた。

 

 月影山ダンジョンを出て、二日。歩きどおしの二人は、こうしてしりとりなどで気を紛らわせながら、東京へと歩き続けていた。

 夜の街は明かりもなく、ストアで買った強力な懐中電灯で前を照らす。

 

 電車の路線沿いに歩いていたのだが、途中からマップを見ながら住宅地に入っていた。

 

「ひとけがないな」

 

「みんなダンジョンなのかなぁ」

 

 街の中は、どこか廃墟めいていた。

 電車や車が動いていないからか、静かすぎて何か怖い空気が張りつめている。

 

「なんか、世界はほんとに変わっちゃったんだな……」

 

 雪斗は、呟きながら歩く。

 分かっていたはずのことだ。少なくとも動画を見ていたカイネには。

 

「おいっ!」

 

 急に飛び出してきた影を発見して、とっさに雪斗の体を引っ張る。

 影は、まだ小さかった。

 

「きみ、一人?」

 

 雪斗が強くひかれた腕をさすりながら、しゃがみこんで目を合わせる。

 相手は、子供だった。

 

「オレ、有希ゆうき。一人じゃない」

 

「僕は雪斗。こっちはカイネ。有希はどこにいくの?」

 

「政聖小学校に、みんなで避難してる……」

 

 雪斗は、有希の手を握る。

 このまま見放すには、少年はあまりにも小さすぎた。

 

「名前が似てるもの同士、一緒にいこうじゃないか」

 

「似てない……」

 

 急遽行く先が変わったが、どちらにしても今日の寝床は必要だ。

 雪斗は言葉巧みに、有希から情報を聞き出す。中学生の兄がいて、両親と共に避難していることや、大勢の近所の人たちが避難していること。体育館倉庫がダンジョンになったことや、ポイントで食事の配給などがあることを知った。

 

 雪斗は前世でも、気軽にこうして民の声を聞いていた。

 今の姿と過去の姿を思わず重ねる。

 

「有希!どこ行ってたんだ!」

 

 声変わり途中のような声がして、Tシャツ姿の少年が現れた。見た感じ中学生だろう。

 すぐに、カイネたちに警戒の顔を向ける。

 

「にーちゃん」

 

「有希のお兄ちゃんか。僕は雪斗。こっちはカイネ。通りすがりなんだけど、どこか泊まれる場所はないかな」

 

「……ポイントがあるなら」

 

 雪斗がD端末を見せようとするのを、カイネは止めた。

 雪斗は270ポイント。カイネは160ポイントだ。雪斗を狙われては困る。

 

 カイネのマイページを見せると、少年は目を見開いた。

 

「……すみません、このポイント数なら人を脅迫したりしないですよね。案内します」

 

 すでに、過去にごたごたは起きたのだろう。

 有希の手を握って歩いていたこと以上に、懸念されるポイントの強奪。

 

「オレは小太郎といいます。有希の兄です」

 

 小太郎と名乗った少年は、有希から出てこなかった情報を教えてくれた。

 

「そっか、避難しているのは、父兄以外に警察官もいるんだ。非戦闘の人は、食事の当番や清掃の担当して、戦える人たちはダンジョンにいくんだね」

 

「はい……前にも部外者の人が何度か立ち寄って……寝る場所は、教室を開放してるんですけど」

 

 昨夜は、テントの中で寝たので床があるのはありがたい。

 有希は、カイネがぶらさげている紅王絶華こうおうぜっかと、雪斗の弓を見ている。収納イベントリに入れずに、持っていて良かった。

 

「……戦える人?」

 

「まあ、そうだ」

 

 突然話しかけられて、カイネは戸惑う。あまり子供にすかれる質ではないので、雪斗ならともかく自分に聞かれると思わなかった。

 

「……つよい?」

 

「まあ、な」

 

 困惑しているカイネを見て、雪斗がゲラゲラ笑う。

 カイネのぎこちなさが、かなりツボだったらしい。

 

 笑っているところで、目的の小学校に到着した。物々しい服装に、バールをもった大人たちが門扉を固めていた。

 

「小太郎、知り合いか?」

 

「いえ、さっき知り合った人で。泊まりたいそうです」

 

 さっき雪斗が大笑いしていたせいもあるのか、丁寧にリュックの中身だけチェックされて返された。

 中は、意外と女性も多かった。年配者も多くいる。

 

 視線を感じながら、中に進むと2-3の教室に案内された。

 

「なんだか、監視社会みたいだな」

 

「しゃーない、ヨソモノだからねー」

 

 小太郎たちは家族のもとに行き、二人だけの空間で伸びをする。

 机などは撤収されて、黒板以外何もない。

 

 机やいすはバリケードに使われているのかもしれない。

 寝袋を敷くと、すぐにやることがなくなった。大量の肉や炊飯器は、出せない。荷物になかったうえに、この大人数の中で出しては混乱を起こしそうだ。

 

「東京を目指しながら、ダンジョンも潜らないか?」

 

「今のポイントを保持じゃダメか?けっこう持つだろ?」

 

空牙くうが たちに、また送るかもしれないだろ」

 

 雪斗はD端末を持ったまま、しばし悩む。

 この小学校ダンジョンを見ていると、それなりに周囲の人たちの狩場になっているだろう。

 

 大き目なダンジョンでないと、自由に入れないのかもしれない。否、それすら規制されているかもしれない。

 

「カイネ、ダンジョンの深層だけにしない?」

 

「一階や二階は人が多いからか?」

 

「うん、ポイントの争奪にはかかわらないほうがいい」

 

 寝袋の上に座って、雪斗は腕を組んだ。

 端正な顔に真摯な表情が浮かぶ。

 

「僕らはジョブに恵まれてるし、さんざんレベル上げもしてきた。その他の力もある。でも普通はそうはいかないだろう?リーチがある分、僕らは出来るだけ奥にいくべきだ」

 

「わかった、それでいい。奥を目指そう」

 

 ここの小学校のメンバーはおそらく、カイネたちをダンジョンには入れないだろう。

 初期のメンバーだけしか、入れない。そういう独特な空気がある。

 それでも、それは仕方ないことなのだ。ポイントには、命がかかっているのだから。

 

「……ゆきと、ごはんどうする?」

 

 ひょい、と有希の顔が教室に覗く。雪斗になついたと見える。

 

「Dストアでお弁当を買うつもりだよ」

 

「2ポイントで、下の給食室でカレー、食べれる」

 

「へえ、ありがとう」

 

 ポイントを出し合って、米や野菜などを買っているのだろう。それにしても2ポイントは安い。住民限定のような気がする。

 行って、相手に気まずい顔をされるのも何か嫌だ。

 

 礼だけ言って、D端末のゲームを立ちあげると有希は帰らず座ってそれを眺める。

 

「ゆきと、ゲームとくい?」

 

「まあね」

 

「オレの問題むずかしい」

 

「どれどれ?」

 

 雪斗が自分のゲームを終わらせると、有希に向き直った。

 雪斗には簡単なクイズだったらしい。口頭で指示を出すと、二問、三問と解いていく。

 

 そこに迎えに来た小太郎も居座ってしまい、数十分もしないうちに教室は子供だらけになった。

 手助けをできないカイネは、憮然としてその光景を眺める。

 

「ゆきとさん、こっちもわかんない!」

 

「ゆきとさんすげえ、もう四問解いてる!」

 

 大人気の雪斗が囲まれていると、血相を変えた大人が顔を出した。

 

「あんたたち、戦えるんだってな!?ちょっと助けてくれ!」

 

 雪斗は弓を掴み、カイネももう紅王絶華を片手に立ち上がる。

 警備員のような出で立ちの男は、挙動不審になりながらもカイネたちをダンジョンに案内した。

 

 道中、モンスターを倒すリーダーが大けがをしたそうだ。

 

 大盾で守っているが、攻撃の主軸が倒れたので撤退が遅れた。仕方なしに一人だけ抜け出して伝令をしたが、皆五階と聞いて腰が引けているという。

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転生王子と親衛隊隊長。プラス転移聖女は今日もダンジョンです 相木ナナ[カクヨムコン参加中] @ainyan

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