第46話 最後の話③

 夜の参道を、凛は一人で上っていた。

 あの二人はきっと近いうちにどこかへ行ってしまう。

 

「あたしだって……!」

 

 精霊も増えた。ステータスもあがった。あの二人には比べようがないけど、邪魔にならない程度でついていきたい。

 カガリの件で助けられたのもあるが、ジュリたちには何か心から安心できるものがあった。

 

「あれ、戻ってきたのかい?」

 

「あ、クロダさん! ジュリさんたちまだいますか?」

 

「テントに明かりがついていたよ」

 

 クロダが何かの荷物を担いで移動してくるのに出くわして、凛はしばし立ち止まる。

 クロダは周囲をきょろきょろして、真面目な顔をして手招きした。

 

「あの人たち――すごい強いけどスキルなにか知ってるかな?」

 

「いえ……ステータス画面は見てないですし」

 

「そう……モンクなのかな……」

 

 魔法を使ったり、拳を使っていたり。凛は密かに隠しジョブみたいなものだと思っていた。

 ジュリは物語の主人公のように見える。

 

 凛がそばに居たいのは、優しさだけではないあのカリスマ性だった。

 

「なんとか、もう少しここのダンジョンに残ってもらえないかな……? 肉を配布してもらってみんな大盛り上がりだよ」

 

「どうでしょう……何か探してる方がいそうですから……」

 

 あまりあの二人のことを、話してはいけないような気がした。周囲に人気はない。

 クロダはカガリと違って親切だったが、一緒に暗闇に居たいとは思えなかった。

 

「じゃあ、あたし……」

 

「……5ポイント勿体ないけど、仕方ないね?」

 

 バールで殴られたと分かるまで、凛には時間がかかった。

 ジュリからもらったせっかくの防具は、マジッグバッグの中にある。

 

「そうそう、マジッグバッグね、回収しないとね。有意義に使わせてもらうから安心してね?」

 

 ケモミミパーカーを出そうとする凛から、クロダはバッグをひったくる。

 痛みで凛は膝を折った。冷たい地面に、熱い血が滴った。

 

「ポイントも、死ぬ前に譲ってもらおうか?」

 

「んー……!!」

 

 声を出そうと口をあけて、そこから血潮が噴き出る。クロダがさらに内臓に向かって何度バールの出し入れをするので、凛は苦痛のあまり意識が遠ざかっていった。

 

「あ、そうか。実家にポイントを置きに行ったんだもんな。ないならいいや。マジッグバッグだけでも十分おつりがくるよな」

 

 バールで凛の体をつつく手は止まらない。

 凛はもう、血を吐きながらあえぐだけだった。

 

 自分から流れる鮮血が、どんどん体を染めていく。

 

 ――ジュリさん、助けて。

 

「マジッグバッグももらったし、もう用はないな。あとで境内のどこかに埋めてやるよ。寺で死ねるなんて、恵まれてるよな」

 

 ――ジュリさん、たすけ……。

 

「あーあ、手が汚れちまった。あ、もしもしタケル?スコップあっただろ。カヨさんとスコップもってすぐにこっち来てくれ。あの外人二人には絶対に気が付かれるなよ」

 

 ――ジュリ……さん……。

 

「そ、いつものやつ。今回は例のガキ。マジッグバッグも持ってるよ」

 

 ――たす、けて、ジュ……。

 

 凛の意識は消えた。

 

 もう痛みはどこにもない世界へ。

 

 最後まで、ジュリエッタの名前を呼びながら。魂はかそけく、消えていく。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る