第26話 殿下のたわむれ

  カイネは、突然目が覚めた。

とっさに掴んだのはしりポケットのD端末。時刻は夜中の二時を過ぎている。

 

戦闘の途中で、確か気絶するように寝入ったのが最後の記憶だ。

D端末からマイページに飛ぶと、175ポイントも溜まっている。元が20ポイントであったにせよ、大量の討伐ポイントだ。

 

疲れるのもさもあらん。変な体勢で寝込んだせいで、体の節々が地味に痛い。

ダンジョン前に転がっているのは、カイネ一人だ。上着だけ、上からかけられていた。

 

「雪ッ」

 

雪斗は――キャンプ地に座っていた。

酷くご機嫌で。

 

周囲に散らばっているものをみて、がとうとう爆発したのを悟った。

 

「貴様〜〜! いったい、どれだけポイント無駄遣いした!?」

 

「え、わかんない」

 

ビール缶を片手に、雪斗がケラケラ笑う。

これも前世から引き継がれたが、雪斗は酒を生きがいにするタイプの酒豪だ。しかも困ったことにザルときてるので、半端ない量を飲む。

 

足元には、幾つもの缶ビール。ハイボール。ワイン。日本酒の瓶もあった。

カイネは慌ててD端末のストアを開く。生活必需品ではないせいか、缶ビール一本で2ポイント。日本酒の瓶は5ポイントと高額だ。

 

「これでも、常温のビールのせいでゆっくり飲んでんのよ」

 

「バカタレー!! なんっっで、こう、お前と言うやつは〜〜!! 生存費はあるんだろな? あるといえ、この馬鹿!!」

 

雪斗とマイページを開かせると、カイネはD端末を奪い取った。

 

――――――――――――――――

菊王子雪斗 レベル/レベル7 ポイント40

マジックアーチャー

スキル /火矢(中)風矢(中)雷矢(大)

 反響定位エコロケーション(小)

体力:LvD

筋力:LvD

敏捷:LvE

防御:LvD

器用:LvE

走力:LvE

幸運:LvA

――――――――――――――――

 

「40????」

 

カイネの声が上擦る。雪斗は午前中のポイントの割り振りもサボっていたので、キラーバットの戦いもいれて150はゆうに越えているはずであった。

 

――まさか全部呑んだ?

 

よく見ると、雪斗の背後にはダンボールがゴロゴロ転がっている。

 

「あっ勝手に開けないでよー」

 

「うるさい、黙れ、バカタレ!」

 

出てくるのは、酒、酒、酒。

見事に酒ばかりで、大きめの杏露酒しんるちゅうの瓶にはギョッとした。

 

「おまっこれストレートでこれだけ飲む気だったのか!?」

 

「バカ言わないでよ、炭酸水も買ってあるしー」

 

「どっちが馬鹿だ!!」

 

重たいのは何かと思えば500ミリの炭酸水が幾つも転がりでた。ポイントが大幅に消えるわけだ。

 

「やってくれたな貴様……!!」

 

「生存ポイント足りてたでしょ」

 

「足りなかったら、お前は死んでただろうがッッ!」

 

この悪癖封じの為に、寝る前までに最低限以外――とりあえず必ず10ポイント――スキルなりなんなりに振らさせて無駄遣いを避けてきたのに。

スキルを乱用すると疲れるとは言った。だんだん力が抜けてくるとも。

 

雪斗は確信犯でこれを狙ったのに違いない。

無邪気な顔をして飲んでいるが、この数日、禁酒させたせいでタガが外れたのだろう。

 

「いいか、一日せめて一杯にしろ。当分は買わずに今日の残りを飲め」

 

収納インベントリに雪斗のやらかしたものを閉まっていくと、雪斗が悲痛な声をあげた。

 

「ああっまだ飲んでるのに!! 一日一杯って酷くないか?」

 

「馬鹿野郎、これでも譲歩してるんだ! ポイントの価値を思い出せ! 今後も同じ勢いでポイント取れるとは限らないんだぞ」

 

今はセーフティエリア越しに攻略しているから楽に稼げるのだ。

今後、ここを無事に出れたとして同じだけ稼げると思うのは甘く見すぎだろう。

 

上の階を突破したら、ポイントの割り振りはもっと慎重にやらなくては行けない。

ダンジョンマップが出来たから、ダンジョンには困らないにせよモンスターが全て手に終えるかは誰にも分からないからだ。

 

「どうしても、分からないのか?」

 

怒りを極限まで溜め込んだカイネの声に、雪斗はしょぼくれて口をとがらす。

 

「……すみませんでしたぁ」

 

「飲むなとは言わん、酒量だけ落とせ」

 

すぐに対応が甘くなるのはダメだと思いつつも、前世からの酒の固執はよく理解しているので全否定はできない。

明日からは、キラーバットを倒しつつ上階へ探りをいれるべきだ。

 

「カイネだって、たまには甘いもの買っても僕は怒らないよ」

 

水筒に足した水を飲んでいたカイネは、吹き出した。

前世では親衛隊長として外では甘いものを食べず、ユットジーン王太子の前でだけ甘いものをこっそり食べていたものだ。

 

今世は、そこまで隠すことなく食べていたが実は密かにストアでチェックしていたことはバレていたらしい。

 

「……俺は我慢できるからいい」

 

「我慢してたんかい!」

 

生き死にに関わるのだ、ここで贅沢は言ってられないだろう。

最後の一本を惜しむように飲み干す雪斗を見て、明日はもっと厳しく雪斗を監視しようと心に決めた。

 

――脳裏に浮かぶ、ポイントを失った末路。

 

あれだけは、防がなければ。

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