大樹と妖精の試練編・第二章 -----季節の祠の目覚め-----



森の奥深くにそびえ立つ大樹——千年を超えて生き続けるその存在は、今日もゆっくりと風に枝葉を鳴らしていた。

ベルとアイの兄妹はその根元に座り、大樹の声に耳を傾けている。


前回、兄妹は大樹と妖精たちが乗り越えた「第一の試練」の話を聞いたばかりだった。

それは、森を覆う暗闇を払い、妖精たちが互いの力を信じる大切さを学んだ物語。


しかしその続きは、もっと大きく、もっと深い運命へつながるものだった。


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◆1 大樹の語り、再びはじまる


「さあ、ベル、アイ。今日は“第二の試練”を語ろう」


大樹の声は、木の幹の奥から響くあたたかな音だった。

枝葉がふるえ、森全体が耳を澄ますように静まり返る。


「第二の試練は、季節の祠が眠りから覚めた日……。

 あれは、私がまだ若かった頃、妖精たちも今よりずっと未熟であった時のことじゃ」


ベルが目を輝かせ、アイはごくりと唾を飲んだ。


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◆2 四つの祠の伝説


昔々、森には四つの祠があった。


春の祠


夏の祠


秋の祠


冬の祠


そこには季節の気配を司る“古の紋(ふるのもん)”が眠っていた。

紋はふだん大地の奥で眠り、季節がめぐるとわずかに目覚め力を放つという。


「けれど、そのころ祠は長い年月のうちにすっかり力を失い、季節の巡りが乱れはじめてのう」


森の若き妖精たち——


春の妖精 チロル


夏の妖精 マーサ


秋の妖精 タム


冬の妖精 ターウィン


彼らはそれぞれの季節の気配を保つ役目を持っていたがまだ力は弱く、祠の乱れを正すほどではなかった。


「そこで、私と妖精たちは“季節の祠”を再び目覚めさせるため、四つの祠をめぐる旅に出たのじゃ」


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◆3 第一の祠──春の紋章が沈黙するとき


最初に向かったのは、森の東にある「春の祠」。


祠は藤色の蔦に包まれ、小鳥の歌が響いているはずだった。

しかしその日は、風一つ吹かず、空気が重かった。


「チロルが祠に近づくと、花々がつぼみのまま固く閉ざしておった」


チロルが祠に手を触れた瞬間、激しい光が弾け、祠の中から声が響いた。


『春の力、失われつつある……試練に打ち勝ち、巡りを整えよ』


その声とともに、祠の奥から“春の紋章”が現れたが、白く濁り輝きがなかった。


「チロルは泣いていたよ。

 『どうしたらいいの? 春が……春が動けない!』と」


その時、大樹はまだ若く細い幹を震わせながら答えた。


『春を呼ぶのは、芽吹きを信じる心だ。

 チロルよ、お前は花の声を聞けるはずじゃ』


チロルは深呼吸し、祠にそっと話しかけた。

最初はかすかな声だったが、次第に風が吹き、どこからともなく春の香りが漂った。


やがて――


春の紋章がひかりを取り戻した。


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◆4 第二の祠──夏の試練と、マーサの涙


次に向かったのは、森の南の崖にある「夏の祠」。


「ところが、夏の祠には強すぎる日差しと熱気がこもり、植物たちがぐったりしていたのだ」


マーサは得意げに胸を張った。


「夏のことなら任せてよ!」


しかし祠に近づいた瞬間、熱風が渦を巻き、マーサは吹き飛ばされてしまった。


祠が言う。


『夏を操る者よ、力を誇るだけでは夏は保てぬ。

 優しき影と涼風を示せ』


マーサは初めて、自分の力が“強すぎる”ことで生き物を苦しめていると知った。


「マーサは泣きながら、そっと祠に日陰をつくり、水を捧げた。

 その優しさにこたえるように、夏の紋章が光を放った」


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◆5 第三の祠──秋の迷いとタムの成長


秋の祠は森の西の丘にあった。

本来なら美しい紅葉に包まれているはずが、色がくすみ、風は冷たすぎ、木々は震えていた。


「祠の声はタムに問うた。

 『おまえの秋は、誰のための秋か?』とな」


タムは迷った。

秋の風が冷たすぎれば動物たちは冬の準備が間に合わず、暖かすぎれば実りが遅れ、冬に備えられない。


「そこでタムは、森の動物たちに話を聞いてまわった。

 それぞれが求める“ちょうどよい秋”を知り、祠に風の調和を流した」


紅葉が一気に色づき、秋の紋章が蘇った。


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◆6 第四の祠──冬の孤独とターウィンの決意


最後に向かった「冬の祠」は北の氷壁の奥深くにあった。


ターウィンはもともと無口で、冬の妖精としての誇りが高かった。

祠の試練は厳しかった。


『冬とは静寂。

 だが孤独ではない。

 お前は何を守りたい?』


ターウィンは凍える祠の中でひとり震えながら答えを探した。

そのとき大樹が声をかけた。


「ターウィンよ、お前が守りたいのは……森の命だろう?」


その言葉にターウィンの心がふっと温かくなった。


そして祠にそっと雪を降らせ、森の冬の眠りを整えた。


氷が溶け、冬の紋章が深い青白さで輝き始めた。


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◆7 祠の力が一つに戻るとき


四つの季節の紋章が蘇ったとき、森全体が大きく息をついた。


鳥の声、葉の揺れ、風の香り、雪の静けさ……

季節が自然な形で巡り始めたのだ。


若き大樹はその中心で、ゆっくりと枝を広げた。


そして妖精たちは、自らの役目が“季節を動かす者”ではなく

“自然の巡りを整える者”だと知った。


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◆8 語り終えた大樹と、ベルとアイ


物語を聞き終えたベルは拳をぎゅっと握った。


「ぼくたちも、季節の祠を守れるくらい強くなりたい!」


アイも胸を張る。


「うん! 妖精さんたちみたいに、森を大事にしたい!」


大樹は優しく枝葉を揺らした。


「その心こそが、祠を守り、季節を動かすのだよ。

 人間も妖精も動物も、みな自然の一部。

 だからこそ力を合わせて生きるのじゃ」


森の風が吹き抜け、どこかで妖精たちの笑い声が聞こえた。


ベルとアイの胸には、季節の祠の物語が深く刻まれていた。


---おしまい−−

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