四季の妖精とベルとアイの冒険


 冬の森は、静かに雪の毛布をかぶっていました。

 ベルとアイは分厚いコートに身を包み、白い息をはきながら森の奥へと歩いていきます。


「ねえ、ベル兄ちゃん! ほんとに妖精さん、いるの?」

 アイが雪の上をぴょんぴょん跳ねながら聞きました。


「いるよ。おばあちゃんが言ってたんだ。森の奥には、妖精の村があるって」

 ベルは胸を張って答えました。


 冬休みのある日。二人は、探検リュックに水筒とお菓子、懐中電灯と地図を入れて、森の冒険に出かけたのです。


 雪の降る中、木々の間を抜け、凍った小川を渡り、小高い丘を登っていくと……。


 突然、まぶしい光が二人を包みました。

「わっ……!」

「なにこれ、キラキラしてる!」


 目を開けると、そこには小さな家が並んでいました。

木の幹をくり抜いて作った家や、氷の窓がついた家、雪の中にふんわり光るランタン。


 まるで絵本の世界。


「ここ、ほんとに妖精の村……!」

 二人は思わず手を握り合いました。


 そのとき、空からふわりと雪の羽が舞い降りました。

すると、雪の羽が光って、小さな男の子のような姿の妖精が現れたのです。


「こんにちは。ぼくは冬の妖精、ターウィン。

 君たち、ひとの子だね。よくここまで来たね」


「わぁ……しゃべった!」

 アイが目を丸くします。


「おどろかせちゃったかな。でも大丈夫、ぼくら妖精はやさしいんだ」

 ターウィンはにっこりと笑いました。


「村に案内してあげる。きっと大長老も君たちに会いたがってるよ」


 妖精たちの村はとてもにぎやかでした。

雪の結晶を運ぶ妖精、氷の上で踊る妖精、白い小鳥に話しかける妖精……。

人間の目では見えないような世界が、そこには広がっていました。


 ターウィンに連れられて大きな氷の宮殿に入ると、奥の玉座に、真っ白な髭をたくわえた小さな老人の妖精が座っていました。

 それが、妖精たちの「大長老」でした。


「よくぞ来た、ベルとアイ」

 大長老の声は優しく、雪のようにやわらかです。


「わたしたちの名前、どうして知ってるの?」

 アイが不思議そうにたずねると、大長老は目を細めました。


「森の精霊たちが運んできたのじゃよ。勇気ある子どもたちが、妖精の村に来ると――ずっと昔から決まっているのじゃ」


 大長老は、輝く石を二人に差し出しました。

白く透明で、まるで雪と光を閉じ込めたような石です。


「これは『四季の石』。この石を持つ者は、春・夏・秋・冬の妖精と話すことができる」


 ベルとアイは、石を胸の前で大事に受け取りました。


「これで……妖精さんと、ずっとお話できるの?」

「そうじゃ。四季はいつも君たちのまわりにある。春にはチロル、夏にはマーサ、秋にはタム、冬にはターウィン。四人の妖精が、おぬしたちと共に生きることになるじゃろう」


 その言葉を聞いて、二人は顔を見合わせ、目を輝かせました。


 翌日、二人は森の中の丘で四季の石をにぎってみました。


「石さん、妖精さんに会いたいです!」

 アイがそうつぶやくと、ふわりと暖かい風が吹きました。


 雪の下から、小さな芽が顔を出します。

そして、その芽の上に――春の妖精、チロルが現れたのです。


「こんにちは〜! ぼくは春の妖精、チロルだよ!」

 チロルは花びらのような羽を背中にもち、ほっぺたがほんのりピンク色です。


「雪の下で、ずっと春を準備してるんだ。君たちに会えてうれしいな」


 チロルと一緒に、二人は花畑づくりを手伝いました。

冷たい雪をどけ、土に息をふきかけると、ぱっと色とりどりの花が咲きます。


「わぁ! きれい!」

 アイの笑顔が春の花みたいに輝きました。


 夏になると、マーサがやってきました。

「やっほー! ぼく、夏の妖精マーサ!」


 マーサは太陽のような金色の髪と、空色の羽を持っていました。

「ぼくは暑いのが大好きなんだ! 一緒に川で遊ぼう!」


 ベルとアイは、マーサと一緒に川に飛び込み、水しぶきを上げました。

マーサは水面を走ったり、光の輪を作ったりして、二人を笑わせます。


 マーサの明るさは、二人の心を元気にしました。


 秋が来ると、森は赤や黄色に染まり、タムが現れました。

「やあ、ぼくは秋の妖精タム。少ししずかな季節だけど、落ち葉はぼくの大切な宝物なんだ」


 タムは木の葉の冠をかぶり、どこかおだやかな雰囲気の妖精です。

 ベルとアイは、タムと一緒に落ち葉で遊びました。

山のように積み上げた葉っぱに飛びこんだり、落ち葉で冠を作ったり……。


「ねえ、タム。秋ってちょっとさびしい感じがする」

 アイが言うと、タムは優しくほほえみました。


「うん。でもね、さびしさの中には『次の季節への希望』があるんだよ」


 そして再び冬がやってきました。

森は雪で包まれ、ターウィンがふわりと舞い降ります。


「また会えたね」

 ターウィンは、あの日よりも少し大人びた顔をしていました。


 ベルとアイは、妖精たちと過ごした四季の思い出を話しました。

春の花、夏の川、秋の葉っぱ、冬の雪――どれもキラキラと胸の中に残っています。


「ベル兄ちゃん」

「ん?」

「また、妖精さんたちに会えるかな」


「もちろん。ぼくら、四季の石を持ってるんだ。季節がめぐるたびに、きっと会えるよ」


 雪の中で二人は、そっと四季の石をにぎりました。

ほんのりあたたかい光が手のひらを包み、森の空にふわりと舞い上がります。


 空の上では、チロル、マーサ、タム、ターウィンの四人が、手を取り合って笑っていました。


 こうして、ベルとアイの冬休みの冒険は終わりました。

けれど、それは「終わり」ではなく――「はじまり」。


春が来れば、また花が咲き。

夏が来れば、川がきらめき。

秋が来れば、葉っぱが踊り。

冬が来れば、雪が語る。


 四季はいつも、二人のすぐそばにあるのです。


おわり


ーーーーあとがきーーーー


登場人物


ベル(10歳):元気で頼もしい兄。冒険心が強い。


アイ(7歳):好奇心いっぱいの妹。少し甘えん坊。


大長老:妖精たちの長。四季の石を授ける。


春の妖精 チロル:花と芽吹きの妖精。


夏の妖精 マーサ:太陽と水辺の妖精。


秋の妖精 タム:落ち葉と実りの妖精。


冬の妖精 ターウィン:雪と静けさの妖精。


これからも続編があります。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る