星をひとつ くださいな

むかしむかし、夜になると空いっぱいに星がかがやく、小さな村がありました。

その村に、リナという女の子がすんでいました。


リナは星が大好きで、夜になると毎晩、丘の上にのぼって空を見上げるのが日課でした。

星のひかりを見ていると、なんだか胸がポカポカして、悲しいことも、さみしいことも忘れてしまえるのです。


ある夜のこと。

リナは、いつものように丘にのぼって星を見上げていると、空からひときわ明るい光がスーッと落ちてきました。


「……あっ、流れ星!」


リナが目をこらすと、その光はただの流れ星ではなく、小さな光の玉になって、目の前の草の上にふんわりと落ちました。

近づいてみると、それは手のひらほどのちいさな星でした。

丸くて、ほんのりあたたかく、まるで心臓のようにトクトクと光を放っています。


「……きれい……!」


リナがそっと手のひらにのせると、星はふるえるように光り、やさしい声がきこえました。


『ぼくは 星の子。空の世界から おちてきちゃったんだ』


「星の子……?」


『うん。ぼく、もとの場所にもどらないと だめなんだ。でも、力を なくしちゃって……』


リナはまよわず、ぎゅっと星の子を抱きしめました。

「じゃあ、わたしが力を取りもどすおてつだいをする! いっしょに空へ帰ろう!」


星の子はパッと光を強くしました。

『ほんとうに?』


「もちろん!」


こうして、リナと星の子の夜のぼうけんが始まりました。


星の子が空にもどるには、「夜のなかで いちばんきれいな 3つの光」を集めなければならないといいます。

「きれいな光」……それはいったいどこにあるのでしょう?


まず、ふたりがむかったのは村はずれの森でした。

森の奥には、よるになると花をひらく「月光草」がさいています。

その花びらは月の光をすいこんで、まるでランプのように光るのです。


けれど、花の周りにはこわい声をあげる「夜フクロウ」がいました。


「この花の光、ほしいけど……フクロウさんに怒られないかな」


リナが小声でたずねると、星の子はにっこりして言いました。

『ぼくたちは うばいにきたんじゃない。お願いして ちょっとだけ もらおう』


ふたりは花のそばにいき、そっと声をかけました。

「フクロウさん、こんばんは。この花の光を少しだけ分けてもらえませんか?」


フクロウはキラリと目をひからせましたが、リナのまっすぐな目を見て、コホンとせきばらいをしました。

「勇気ある子だな。いいだろう。花の光を分けてやろう。ただし……夜の花をふまないでいっておくれ」


リナは注意ぶかく足もとを見ながら、花びらからひとしずくの光を小瓶に集めました。

それはまるで、しずくのように透きとおった白い光でした。


次にふたりが向かったのは、村をながれる川です。

夜になると川の水面には星がうつり、まるで星が川を泳いでいるように見えます。


『この川の光は、すごくきれい。ここにも力があるはずだよ』


ところが川のほとりには、年老いたカメがいました。

「この川は わしの 大事な場所じゃ。勝手に光を持っていくことは 許さん」


リナは星の子と顔を見合わせました。

どうすれば、光を分けてもらえるのでしょう?


星の子がそっと川にふれ、小さな光の輪をうかべると、リナはやさしくカメに話しかけました。

「わたしたちは光をうばいにきたんじゃないの。お空に帰るために、ほんの少し、力を分けてもらいたいの」


カメはじっとリナを見つめたあと、ゆっくりとうなずきました。

「……おまえさんの声は川の音に似ておる。わしの光をわけてやろう。ただし、この川をこれからも大切にしてくれ」


リナは笑顔で「約束する」と言い、川のしずくをもうひとつの小瓶に集めました。

川の光は、まるで青い宝石のようにキラキラしていました。


最後にふたりがむかったのは、村のうしろにある風の丘。

丘のいちばん上には、夜になると小さな風車がまわり、空の風を集めて光に変える不思議な石がありました。


けれどその丘には、風の精がすんでいます。

透明で、きれいだけれど、きまぐれな精霊です。


リナと星の子が丘にのぼると、風の精がすぐにふたりを見つけました。

「この光がほしいんでしょう? でも、そんなにかんたんにはあげないわ」


風の精は、リナのまわりをくるくるとまわりました。

「もし、この風の歌を いっしょに歌えたら、光をあげる。でも できなければ ここからお帰り」


リナは不安そうに星の子を見ました。

「わたし、風の歌なんて知らないよ……」


星の子はリナの手をぎゅっとにぎりました。

『大丈夫。きっと できるよ。耳をすまして』


リナは目を閉じ、風の音をききました。

ヒュウ、ヒュウと草がゆれ、木の葉がふるえ、どこか遠くの鐘の音のようなリズムが聞こえます。

リナはゆっくりと口をひらき、風の音にあわせて歌い始めました。


その歌は、ことばにならないけれど、とてもやさしい音でした。

星の子もいっしょに光でリズムをつくります。


すると風の精は目をほそめ、うれしそうに手をひらきました。

「うつくしい歌だったわ。あなたにこの光をわけてあげる」


リナは3つめの小瓶をうけとりました。

風の光は透明で、まるで羽のようにかるく、さわるとすーっと手の中にとけこみました。


3つの光がそろうと、星の子の体がふわりと光りかがやきました。

『ありがとう、リナ! これでぼく、空に帰れる!』


リナはちょっぴりさみしくなりました。

「もう……いっちゃうの?」


星の子はやさしくリナのほっぺにふれました。

『きみとすごした時間、ぜったいにわすれないよ』


そのとき、空から流れるような光の道があらわれました。

星の子はその道にのりながら、ふりかえって手をふります。


『リナ、空を見上げて。ぼく、いつでもそこにいるから!』


「うん! ぜったいに見る!」


星の子はまばゆい光となって空へととびたち、夜空のいちばん明るい星になりました。


その日から、リナは毎晩、丘の上で夜空を見上げます。

村の人たちは、その明るい星を「リナの星」とよんでいます。


夜の空は今日もきらめき、リナの胸の中には、星の子と歌ったあの風の歌が、静かにのこっていました。


🌟 おしまい 🌟

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る