「私には二十年前の記憶がない。記憶を呼び起こしてくれた方に全財産を譲渡する」

　謎多き敏腕経営者・真壁氏がSNSで発信したこの一言は瞬く間に世間の注目を集めた。

　皆、競い合うように真壁氏宛てに「二十年前の懐かしい言葉」を書いたメッセージを送信した。これらの言葉が彼の記憶を呼び覚ますことを期待して。

　着メロ。フロッピー。チョベリバ。パケ放題。

　皆、二十年前の記憶を必死で遡った。そのうちに人々はスマホよりもガラケーを愛用するようになり、プリクラやナタデココが流行した。時代が巻き戻ったのだ。

「なるほど、これが二十年前の世界か」

　真壁氏は笑った。全ては彼の計算通り。

　彼が若干二十歳であることを世間はまだ知らない。

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