手放す勇気
紫紺色の雲の向こうに三つの真紅の太陽が眩い光を放っている。
僕と彼女は互いにしっかりと手を握り合いながら、空を眺めていた。
「ねぇ、放して」
彼女は僕の掌の中でもぞりと指を動かした。
「そろそろ目覚めないと死んじゃうよ」
分かっている。かつて僕は現実が嫌になって、自ら体を凍らせた。長い眠りにつき、そして、まだ目覚めていない。
「この手を放す勇気を持って」
夢の中の恋人にこんな説教をされたくはなかった。手を放したらこの美しい世界も彼女も消えてしまう。
でも……。
現実世界への僅かな執着が僕の手を開かせる。
ぬくもりが消えていく。
彼女の微笑みがさらさらと砂のように崩れていくのを虚な意識の中で見送り、僕は目覚めた。
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