愛のゆくえ
とな
第1話 出会い
夏の午後。
庭の蝉がけたたましく鳴いている。
ひなは家の前で、空とぶつかった。
「ちょっと、どこ見て歩いてるの!」
ひなの声は、怒りと驚きが混ざっていた。
空は一歩下がって、目を丸くした。
「わ、わるかった……!」
でも、ひなは腕を組んで睨んだまま。
「謝れば済むと思ってる? ふざけないでよ!」
空は小さく頭を下げたけれど、どこか憎めない顔をしていた。
「……うん、ごめん」
ひなは小さくため息をつく。
「ほんとに……もう、次から気をつけてよね!」
空は無言でうなずいた。
でも、心の中では、ちょっと面白いと思っていた。
それから二人は、よくぶつかるようになった。
けんかをすることもあれば、言い争うこともある。
でも、どこかお互いを意識しているのも確かだった。
ある日、ひなが空を平手打ちした。
「何回言えばわかるの!」
空はしばらく固まったあと、泣き笑いのような顔をした。
「……ひな、強いな」
その瞬間、ひなも心の奥で少しだけ照れている自分に気づいた。
幼い二人はまだ、
これが「特別な関係」になることを知らない。
ただ、夏の庭で、ぶつかり合い、笑い、泣き、
少しずつ心を通わせていた。
蝉の声が、今日も二人の小さな戦いを見守っていた。
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