追放男の追加報告
K-enterprise
追放
「ウガクさん、あんたをパーティから追放する」
カルド迷宮第三層攻略記念祝賀会の冒頭、四級パーティ“燐光”のリーダーであるカイルは、テーブルの対面に座る中年の男に宣言した。
「おいちょっとまってくれ、そんないきなり!」
迷宮ギルド内にある個室飲食スペースで、今まさに乾杯を行おうとジョッキを掲げていたウガクと呼ばれた男は驚いた顔でカイルを凝視する。
「これはパーティメンバー全員の総意だ」
「ホントかよ、ライアン、ソウモ、二人も同意してるってことかよ」
ウガクはテーブルの左右に座る軽弓士のライアンと魔法士のソウモに声をかける。
二人とも神妙な顔で頷く。
「なあカイル、理由を教えてくれよ」焦り顔を強くしたウガクが立ち上がってカイルに問う。
「第三層攻略ボーナスでギルドから魔法鞄を手に入れた。ウガクさんに荷物を持ってもらう必要はなくなった」
魔法鞄は空間拡張と重量軽減効果が付与された魔導具で、カルド迷宮の三層を越えたパーティに迷宮ギルドから支給される報奨だ。
「そんな、荷物持ち以外にもメシを作ったり警戒とかもしてただろ?」
「確かに温かい食事はありがたかったが、別に迷宮の中なら保存食でも十分だし、警戒だってライアンの探査能力の方が高い。何より、野営の当直で寝ちまうだろ、あんた」
「そ、そりゃあ目をつぶってただけだぜ」
「何度か魔獣の接近に気づけずに慌てたこともあって、ライアンどころか、熟睡中の俺が起きることもあったけどな。なあ、これまでルーキーパーティの俺たちを支えてもらったことには感謝してる。だけどろくに戦えないあんたの経験だけじゃこの先は、足手まといなんだよ」
「足手まとい……」
「あんただって四層には行ってないんだろ? 同じ分配金を払うなら治療士を入れた方がマシなんだよ」
「……どうしても気は変わらないのか? 二年間、一緒にやってきたのに、なあ、オレは明日からどうやって稼げばいいってんだよ、なあ、なんでもするから、なあ、もう一度考え直してくれよ!」
ウガクはその場で土下座をしながら懇願する。
「やめてくれよ、これ以上失望させないでくれ。ライアン、ソウモ、もう行こう」
カイル達三名はテーブルの上にある食事や飲み物もそのままで、早足に個室から出て行った。
空気の動きが止まってからウガクはゆっくり立ち上がり、席に座り直しジョッキの酒を飲み干して呟く。
「二年か、今回は、まあ早い方だったな」
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