第6話 お仕事よ!

「佐藤さん。業務計画書、作ってみた?」


「ん、一応」


「どれどれー」



1.下期の目標 : がんばる

2.目標への具体的案 : がんばる事をがんばる

3.具体的な成果物 : 出来てからのお楽しみ

4.チームへの貢献度 : ムリ



うん。知ってたさ。

でもこういうの書くイライザ、好きよ。



「一応上司として、色々言っていい?」


「いや、ダメだ、言うな」



「……あのね。何をどう頑張るか?それが欲しいのよ。資料とか渡してるでしょ?」


「じゃあその資料を見ればいい。なんでわざわざ書き写さなきゃならないんだ?業務の計画は自分で立てるもんじゃ無くて、会社が命令すればいいじゃないか。計画まで個人に立たせておきながら、最終的に評価は会社がやるなんて、責任転嫁もいいとこだ」



ホント、それな。

でも私じゃなくて、もっと上に言ってくれ。



「そりゃそう思うわよね。私だってそう思うもん。いいや、私が適当に作っておくわ」



元々、会社の仕事の為に来てもらってるんじゃないからな。しょうがない。



「……なんか、気に入らない」



ん?



「ちょっと返してくれ。作り直す。誰にも、何も言えないくらい完ぺきに」



いや、急に燃えられても……。



「この会社でテッペンとったるわ」



急な路線変更、やめて。



「うーん、まあ、じゃあ頼むわ」



次に提出してもらったら、何も言わずに受け取っておこう。私が作るほうが色々面倒くさくない。



***



「間宮係長!出来ました!」


「お、おう。どれどれ……」



見えない。1mm角くらいの文字でびっしり書いてある。『ゼンチィム、イチガン、ドリョク』とか、『ワレ、ウリアゲ、タツセイスベシ』とか。


待て、戦時中かよ。意味は何となく分かるけど、現代語に直してくれ……内容が入ってこねぇ。



「とりあえず努力はグッジョブ。内容を見させてもらうから時間ちょうだい」



虫めがね使わないと……。

最悪だわ。絶対に周りから『老眼』って思われてるに違いない。私、まだ27歳よ……。



***



「次の会議、ちょっとした報告が必要なんだけど、イラッち、大丈夫?」


「たぶん……」



不安そうだなぁ。

一応なんて言えばいいか資料は渡してあるんだが、最悪なのは周りからの質問な。分かってるくせに、意地悪なこと言ってくるやつがいるんだよなぁ。



「いい?資料にない質問されたら?」


「うん、“すみません。確認してから後ほど別途報告します” な」


「そう、それでいいの。全部、それでね」




「……あのさ、UZI持っていってもいい?」


「絶対にダメ」



会議が淡々と進んでいく。

無難な業務報告と、無難な質問。無難な答え。



『どう?みんな、全然たいしたこと言ってないでしょ?』


『……クー……クー……』


「寝るな!」



***



「では次、間宮係長お願いします」


「はい、では新人の佐藤から報告させて頂きます」



イライザが立ち上がる。

会議室のプロジェクターに、資料が映される。



「あ……あ……あの……」


『がんばれ〜、お姉ちゃんがついてるからな〜』



「そ、それではまず。ぎょ、ぎょうむせいせきから、ほ、ほうこくしますぅぅ」



途中、ちょいちょい私がフォローを入れながらも、なんとか乗り切った。


イジワル質問コーナーでは、スーツの下に隠していたデリンジャーを何度も取り出そうとしていたが、一生懸命耐えてくれた。


正直、私も撃っちゃってもいいかと思ったが。



「ふへーー。綾音はすごいな。あんな事をずっと続けているのか。ボクには無理だよ」


「まあね〜。あんまり重く考えなきゃいいのよ。私は独り身だし、守るものなんて無いしね〜。別に会社クビになったって、たぶんなんとかなるでしょ」


「そんな楽天家なのに、どうして係長までなれたんだ?」


「運とタイミング、それとヤル気スイッチね。20代前半って、突然変なスイッチが入る時があるのよ。1週間くらい限定で。ほら、あなたが業務計画書を書いたときみたいな。懐かしいわぁ〜、5日で100時間労働突破したとかね〜」



イライザのやつ、頬杖ついて外を眺めている。自分から振っておいて、その態度かよ。まあ、人の武勇伝なんて誰も聞きたくないのは分かってるけどさ。



「まあいいわ。こんな感じでこれからも宜しくね〜」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る