第21話 永遠を誓う番

 戦いは終わった。


 神殿騎士団は武装を解除し、団長のギデオンは全ての責任を取る形で、獣人の国に身柄を預けることとなった。

 彼の口から語られた長老の悪行の全ては、人間の国にも伝えられた。

 聖子の命を贄に不老不死を得ようとした長老は、民衆と諸侯の怒りを買い、その地位を追われ、神殿の奥深くに幽閉されることとなる。

 神殿は、腐敗した上層部を刷新し、獣人の国との間に、正式な和解と不可侵の条約を結ぶこととなった。


 獣人の国には、穏やかな平和が戻ってきた。

 戦いで傷ついた者も、ユンの力と国の薬師たちの尽力によって、皆快方へと向かっている。

 そして、国を救った最大の功労者であるユンもまた、ガロウの献身的な看病により、奇跡的な回復を遂げていた。

 命を削った代償は大きく、しばらくは安静が必要だったが、その表情は晴れやかだった。


 数週間後、獣人の国では、二つの大きな儀式が同時に執り行われることになった。

 一つは、ガロウが父から族長の座を受け継ぐ、襲名の儀。

 そしてもう一つは、新たな族長が、その運命の番を迎える、祝福の儀だ。


 国中が、かつてないほどの祝祭ムードに包まれていた。

 誰もが、新たな族長の誕生と、国を救った聖なる番の誕生を、心から祝福していた。


 儀式の日、ユンは獣人の国の職人たちが、彼の糸と国の最高の素材を使って織り上げた、美しい白銀の礼服に身を包んでいた。

 その姿は、神殿の聖子としての衣装よりも、ずっと彼に似合っているように見えた。


 満天の星が輝く夜、国の中心にある広場に、全ての民が集まっている。

 その中央に設けられた祭壇に、族長の証である見事な装飾を身につけたガロウと、ユンが並んで立った。


 現族長が、厳かにガロウの族長就任を宣言すると、民衆から地鳴りのような歓声が上がった。

 そして、次に彼はユンに向き直り、その手を優しく取った。


「聖子ユン殿。改め、我らが国の至宝、ユン。あなたは、その聖なる力と、何よりも深い慈愛の心で、この国をお救いくださった。我ら全ての民は、あなたを新たな族長の唯一無二の番として、心から歓迎し、永遠の忠誠を誓う」


 その言葉に続いて、ガロウがユンの前に膝をついた。

 そして、ユンの手を取り、その甲に敬愛を込めて口づけをする。


「ユン。俺の光。俺の魂。俺の全てだ。俺と、永遠を共に生きてほしい」


 その真っ直ぐな金色の瞳に見つめられ、ユンは込み上げてくる幸福感に、涙を浮かべながらうなずいた。


「はい。喜んで」


 ユンがそう答えた瞬間、広場は再び割れんばかりの歓声と祝福の拍手に包まれた。

 色とりどりの花びらが舞い、美しい音楽が奏でられる。


 ガロウは立ち上がると、ユンを優しく抱き寄せ、あの決戦の前夜と同じように、深く、そして甘い口づけを交わした。

 今度はもう、不安も恐怖もない。あるのは、未来への希望と、揺るぎない愛だけだった。


 役立たずと蔑まれ、神殿の片隅で孤独に生きてきた聖子。

 そんな彼を見つけ出し、その価値を誰よりも信じ、一途な愛を注いだ狼獣人の王。


 多くの困難を乗り越えた二人は、今、ここに結ばれた。

 満天の星空の下、全ての民からの祝福を受けながら、二人は永遠の愛を誓うのだった。

 彼らが紡いでいく未来は、きっと、どんな困難も乗り越えていける、温かく幸せなものになるだろう。

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