第20話 運命の勝利
ユンの生命力から紡がれた黄金の糸は、ガロウの体を完全に包み込んだ。
それは、まるで黄金の繭のようだった。呪いの瘴気は完全に浄化され、深かった傷も跡形もなく塞がっていく。
だが、それだけでは終わらなかった。
黄金の糸はガロウの体へと溶け込み、彼の銀色の毛皮を、眩い黄金の鎧へと変えた。
それは物理的な鎧ではない。ユンの聖なる力と生命力が具現化した、神聖な力の結晶だった。
次の瞬間、繭が内側から弾け、新たな姿のガロウが雄叫びと共に立ち上がった。
その体は一回りも二回りも大きくなり、全身が黄金の光に包まれている。その瞳には、神の怒りにも似た、凄まじい力が宿っていた。
神聖な力を完全にその身に取り込んだ、神獣の顕現だった。
「ユン……!」
ガロウは、力を使い果たし、ぐったりと倒れているユンの姿を見つめた。
彼の白くなった髪、失われた血の気。愛する者が、自分のために命を懸けた。その事実が、ガロウの怒りを臨界点まで高めた。
彼は、ユンに短剣を投げつけた私兵の隊長を、燃えるような瞳で睨みつける。
恐怖に駆られた男は、逃げようとするが、もはや遅かった。黄金の獣と化したガロウの動きは、神速を超えていた。
一瞬でその背後に回り込むと、罪に対する罰を与えるかのように、その爪で悪しき魂を浄化した。
その圧倒的な力に、戦場にいた誰もがひれ伏すしかなかった。
長老の私兵たちは完全に戦意を喪失し、武器を捨てて降伏する。
ギデオンもまた、神の化身のようなガロウの姿を前に、自らの剣を地に突き立て、深く頭を垂れた。
事実上、戦いは終わった。獣人たちの勝利を告げる雄叫びが、戦場に響き渡る。
しかし、ガロウの心に勝利の喜びはなかった。
彼は急いで人型に戻ると、意識のないユンの元へ駆け寄った。その体は、氷のように冷たくなっている。
「ユン! 目を開けてくれ、ユン!」
ガロウは、涙ながらにユンの名を呼び、その体を強く抱きしめた。
温もりを分け与えるように、自分の魔力を注ぎ込む。しかし、ユンの瞼は固く閉ざされたまま、開くことはなかった。
ブルクやリリィも、泣きながらユンに駆け寄る。
国の誰もが、自分たちの英雄であり、恩人である聖子の身を案じていた。
勝利の歓声は、いつしか悲痛な祈りへと変わっていた。
ガロウは、ユンの白くなった髪に顔を埋め、声を押し殺して泣いた。
やっと出会えた運命の番。彼を失うくらいなら、こんな勝利に意味はない。
「頼む……逝かないでくれ……。お前がいなければ、俺は……」
その時だった。ガロウが流した一筋の涙が、ユンの頬にぽたりと落ちた。
それは、ただの涙ではなかった。運命の番を想う、魂からの叫び。
その一滴が、ユンの体に残っていた最後の黄金の糸に触れた瞬間、奇跡が起こった。
黄金の糸が、淡く、そして温かい光を放ち始めたのだ。
その光は、ユンの体を優しく包み込み、失われた生命力を、ゆっくりと、しかし確実に呼び戻していく。
白くなった髪に、少しずつ亜麻色の色彩が戻り、青白かった肌に血の気が差し始めた。
ガロウが流した「愛」という名の雫が、ユンが残した最後の「命」の灯火に、再び火を灯したのだ。
やがて、ユンの指がぴくりと動き、固く閉ざされていた彼の瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
「……ガロウ、さん……?」
か細い、しかし確かなその声を聞いた瞬間、ガロウは言葉にならない嗚咽を漏らし、愛しい番を、壊れ物を抱くかのように、優しく、優しく抱きしめたのだった。
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