メリケンサックと根性で怪異を除霊(物理)するあの娘。

sid

第1話 メリケンサック少女、見参

とある偏差値県内最底辺の終末高校にて。

そこはいわゆる不良高校だ。

今日も不良たちが校舎裏で集会を開いている。


「や、やばいっすよアニキ……。

まさか加藤さんがやられるなんて…!!」


下っ端の1人が震えながら言う。

それを腕を組み聞く、番長の野田。


「……分かってるよ。あいつは2年最強の男だったからな。中学でも負け無しだったらしい」


「どっ、どーするんすか!これじゃメンツガタ落ちっすよ!!それも……女にやられたなんて!!!」


「甘ったれるなぁっ!!!」


番長の怒号に、その場の全員が硬直する。


「…いいか、『女だから』ってアイツを舐めた奴はな、全員病院のベッド1ヶ月コースになった……。

俺は見てたんだ。加藤がアイツにやられる様をな!!」


「えぇっ!?そりゃどんな……」


番長の野田は、汗を流し、生唾を飲んでその時の様子を語り出した。


「ひでぇもんだった……。まず加藤から仕掛けたんだ。奴のお得意のアッパーブローさ。

しかしアイツときたら……防御をしねぇんだ!

アッパーブローはクリティカルヒットしたさ。

だが……アイツはピンピンしてやがった!!」


「そ、そんな!?加藤さんのアッパーブローを!?」


「そこで加藤は怯んじまったのさ……。

その隙に、メリケンサック仕込みのとんでもねぇ顔面パンチをお見舞いされたのさ。

すげぇ音がしたぜ……。あまり思い出したくねぇが、ゴチャッ、みたいな……とても人間を

殴った音じゃなかったよ」


その場にいた全員が再び震え上がった。


「それで、その……加藤さんは?」


「ありゃ整形外科じゃなきゃ無理だな…。

ありえねぇ方向に鼻が曲がっちまってたからな。多分頭蓋骨もイッちまってるだろう…。

あと、そのまま窓ガラス突き破って3階から

落ちたから、3ヶ月コースってとこだな」


「1階ごとに1ヶ月、ってことすか!?」


「まぁそうとも言えるな……。

とにかく、いいかオメェら!!

あのメリケン野郎は俺が必ず始末する!!

手ェ出すんじゃねぇぞ!!!」


「お願いしますアニキ!!」

「やっちまえ番長!!」

「もう野田さんしかいねぇーー!!!」


不良たちが大盛り上がりし、特大のヨイショを

された野田もふんぞり返っている。


「ガハハ!!それじゃあまずはアイツの居場所を突き止め」


       「呼んだか?」


不良全員が言葉を失った。

番長野田の背後には、そう、彼女が立っていたのだ。


「うおおおっ!?て、てめぇいつから!?」


「探すの手間だろうからこっちから来てやったぜ、番長さんよ」


「(マ、マジか……!!全く気配を感じなかった!!)へ、へっ!!上等だ……。

今ここでケリつけてやらぁっ!!!」


野田が剛腕を奮い襲い掛かる!!!


「うぉりゃああああああっ!!!」


メキョッ、というような、グロテスクな音が

響き渡り、血しぶきが噴出する!!

不良たちは盛り上がりを取り戻し、喝采を上げた。


「うおおおやっぱりアニキはすげーー!!」

「あのパンチはひとたまりもねぇぜ!!!」

「ざまぁみやがれメリケン野郎ーー!!

………ん、え、えっ?」


ワナワナと震えているのは……。


「いっ、いってえええええ!!!!

ひいいいいいい!!!」


野田の方だった。


「えっ、ええええ!?あ、アニキ!?」


野田の指は、骨がめちゃくちゃに折れ、大量に

出血していた。

あの血しぶきは、野田のものだったのだ。


「うっ、ううう!!て、鉄かコイツ……!!」


「…なかなかいいパンチだけどよぉ、ひとつだけ足りねぇものがあるな」


「ひっ!!や、やめ、やめ」


バゴキャッ!!!


「でべええええええええええ!!!!!」


ギャグ漫画のような鼻血を出し、野田は数m

吹っ飛んだ。

不良たちは、初めて人が宙を舞う姿を見た。


「てめぇに足りねぇものは……根性だ!!」


不良たちは戦慄していた。

最強であるはずの番長野田が、一撃でぶっ飛び

痙攣している。

メリケンサックをした小柄な少女が、地獄からやって来た修羅の鬼のように見えた。

ちなみに、失禁している者もいた。


「……おい」


不良たちの身体が跳ね上がる。


「な、ななななななんでしょうか???」


「オレはこの学校の番張る気はねぇ。ただ、

てめぇらがそうしてぇなら勝手にしな」


「ハ、ハイ……。(オレッ娘なんだ…)」


下っ端は動揺のあまりつまらないことを思考した。








_____その日からだった。

その少女の噂は県内すら飛び越え、日本中に

知れ渡ることとなる。

メリケンサックと根性で、どんな相手も一撃でぶっ倒してしまう、真っ赤なジャージを着た最強の女がいる、と。

そしてその少女は、たとえ戦場においても

メリケンサックひとつで飛び込んでいくだろう、という意味合いを込めて……



『戦争にメリケンサック』という異名が付けられた。



____翌日。

ボロボロの部室、扉には「オカルト研究部」という張り紙がされてある。

そこに、1人の不良が立ちはだかっていた。


「おいおまえら、パンとジュース買ってこい。

1分以内な。」


眼鏡を掛けた、弱々しい少年、石川 洋太。

彼が、このオカルト研究部の部長であった。


「うぅ……はい…」


「おいコラ佐々木!!!」


不良はもう1人の部員、佐々木 透のみぞおちに、膝蹴りを叩き込む。


「うぐっ!!!」


「な〜にボケっとしてんだ?てめぇもだコラッ!!!」


「っ!!ぐっ……」


「ところでよぉ、てめぇ俺への上納金はどうしたんだよ?

昨日言ったよな?明日までに3万用意しろってよ?」


「そんな金……あるわけねぇ、だろ……」


不良は、倒れ込む佐々木をさらに蹴り付ける。


「うぐあああっ!!」


「このカスがっ!!!親の財布から盗ってくるなりしろやっ!!!殺しちまうぞ〜佐々木くぅ〜ん!?」


「ぐっ、あぁっ!!!」


「ちょ、ちょっとやめてよ!!」


止めに入った石川を蹴り飛ばす。


「ぎゃあっ!!!」


「てめぇら調子乗りやがって……なぁ〜にが

オカルト研究部だ!?

うちの学校の恥晒しなんだよこのゴミ共!!!

ギャハハハハハハハハ!!!!」


石川と佐々木は悔しさに震えていた。

こんな風にずっと、2人は激しいいじめに遭ってきたのだ。

しかし、それを打開する強さも、勇気も彼らには無かった。


「(あぁ〜気持ちいいぜ!野田のやつが病院のベッド送りになってから、俺はさらにのびのび

お小遣い稼ぎ出来るんだからよぉ!!)

さぁ〜ておまえら、腹パン100回コースだ

立てオラ」

「(うぅっ…‥誰か、誰か!)」


コツ、コツと聞こえる足音。


「(助けてっ……!!!)」


「ギャハハハハハハ!!!……ん?」


「おい」


「!!!!????」


不良の背後には、真っ赤なジャージに黒いモジャモジャ髪、傷痕だらけの顔、メリケンサック…

彼女がいた。


「う、あ、あ……せ、戦メリ…!!!」


ボゴォッ


「ぎゃうんっ!!!」


彼女は、不良に痛烈な金的をお見舞いした後、めちゃくちゃに蹴り付けた。


「戦メリってなんだオラッ!!そりゃいい曲

じゃねぇか!!!ふざけんな変なあだ名つけやがってこのボケッ!!死ねっ!!」


あまりに強烈な蹴りに、不良は痙攣し失禁していた。

そんなことはお構い無しに、彼女は髪を掴み片腕で持ち上げた。


「ア……ウ、ア…」


「おい、さっき腹パン100回とかなんとか言ってやがったよな?

じゃあオレは80億回コースだ!!!

歯ぁ食いしばれっ!!!」


「やめてくださいっ!!!」


暴走する彼女を止めたのは、石川だった。


「…あん?んだてめぇ」


「も、もう……もう十分です!!」


「…………。」


彼女は、髪を掴んだ手を離した。


「ウウウウウ………」


不良は、もはや逃げる気力すら無い。

彼女はそんな不良を、再び髪を持ち上げうざったそうに片手で放り投げた。


「……てめぇいい度胸じゃねぇか。でもなんか弱っちそうだからてめぇにはなんもしねぇよ」


彼女は、そのまま部室を出ようとする。


「待ってください!!」


「…んだよ、まだなんかあんのか」


「オカルト研究部に入部してください!!!」


部室の時が止まった。

石川のあまりの奇行に、流石に佐々木も止めに入った。


「お、おい石川…おまえいくらなんでもそれは……」


「佐々木!!今の見ただろ!?あの不良をコテンパンにしちゃう所を!!

お願いします、入部してください!!

というより、僕たちを強くしてください!!!」


「っ!…石川、おまえがそこまで言うなら…。

頼む、ウチに入ってくれ!!」


「うん、普通に嫌だ。普通にな」


またまた部室の時が止まった。


「…え、えぇっ!?」


「いや『えぇっ!?』じゃねぇだろ。なんで

おまえが驚けるんだよ。頭おかしいのかてめぇ…」


彼女は冷ややかな視線を送り、部室を出ようとした。


「待ってくださいよ!!!」


必死こいてしがみつく石川。


「なっ!?てめぇコラッ!!離せボケ!!」


思いきり背負い投げされる石川。


「うぎゃっ!!!」


「……!?(コイツ…)」


石川は地面にへばりつきながらも、必死に勧誘を続ける。


「お、お願いします……オカルト研究部には、

あなたの力が必要なんです!!!」


「…俺からも頼む」


彼女はしばらく黙り込み、そして、大きくため息を吐いた。


「……分かったよ、入る。入りゃいいんだろ」


2人の表情が一気に明るくなり、飛び上がって喜んだ。


「やったあああ!!!ありがとうございます!!!」


「これからよろしく頼む!!」


「ちっ、うるせぇ奴らだな……」


「あ、あの、ひとついいですか?」


「…んだよ?」


「あなた、名前はなんていうんですか?」


「……山茶花。白木 山茶花(しらき さざんか)だ」


「山茶花さん!!これからよろしくお願いします!!

そして、ようこそオカルト研究部へ!!!」


そのキラキラした眼差しに、山茶花は心底

めんどくさそうな顔をする。


これは、メリケンサックと根性を武器に、

様々な怪異たちを除霊(物理)する物語である!!

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