エンゲージ・ヒューチャーガール6
「先輩、なんでこんなとこにいるんですか?珍しいっすね」
城ヶ崎 千佳は科学部の後輩だ。入学式では新入生代表として式辞を読んでいた。その上、城ヶ崎は運動神経も良かったはずだ。部活動の体験入部期間では、彼女の周りによく人だかりができていたことを覚えている。
文武両道で高嶺の花。数多ある勧誘を拒否してまで科学部に入部した理由は定かではないが、光は城ヶ崎のことが苦手だった。なぜならば、
「先輩もついにお洒落に目覚めたんすねぇ。ここは私がひとはd……その女誰っすか」
ツァイトを見つけた城ヶ崎が、抑揚のない声で光に問いかける。光が数少ない友人と話すたびにこれなのだ。おかげで今では、友人と呼べるのは幼馴染の丸岡だけになってしまった。教員たちが才女と呼び持て囃している城ヶ崎の欠点を挙げるとすれば、この性格だろう。
ツァイトに銃を突きつけられた時とはまた違った緊張を感じながら、光は努めて冷静に返答する。
「私は時空系さt『この子従兄弟なの!外国人とのハーフでツァイトちゃんって言うんだけど、仲良くしてあげて!』……。」
光が口を開くより、ツァイトの自己紹介のほうが早かった。慌ててツァイトの口を押さえ、極めて不機嫌そうな雰囲気を醸し出すツァイトを無視して城ヶ崎を騙しにかかる。頼む、騙されてくれ……!
「私、先輩に従兄弟がいるとか初耳なんですけど。おかしいっすよね。説明してくださいよ」
何がおかしいんだ。城ヶ崎に家蔵構成を話した記憶などない。
「りょ……伯父が再婚して!一週間前くらい前に従兄弟になったの!ね?そうだよねツァイトちゃん?……そうだよね?」
「……ほうれふ」
口元を強く押さえ過ぎたらしい、ツァイトは満足に発話できなかった。が、意味は十分伝わったようだ。城ヶ崎の目に生気が戻る。
「……なんだぁ。先輩、そうなら早く言ってくださいよ。変な勘違いしちゃたじゃないですかぁ」
「ハハハ……そうだね、ごめんね……」
なんとか乗り切れたようでホッとする。よりにもよって城ヶ崎と遭遇するとは、タイミングが悪いことこの上ない。
「ツァイト、この子は科学部の後輩の城ヶ崎ちゃん。仲良くできる?」
そうツァイトに問いかけつつ、城ヶ崎にバレないよう囁きかける。
(お願い、今だけ言うこと聞いて。あとで絶対埋め合わせするから……!)
「……従兄弟のツァイトです」
「ツァイトちゃんっすね、私は科学部一年の城ヶ崎 千佳っす。先輩のいとこさんっすよね?呼び方はなんでもいいっすよ」
囁きながら手をどけると、無愛想な声色でツァイトが言った。幸い城ヶ崎は気にしていないようで、朗らかに返事を返してくれた。
「……にしても、ツァイトちゃんかわいいっすねぇ。お人形さんみたいっす。見てるだけで眼福っすねぇ……。モデルとかやってらしたりするんですか?」
「いえ、特には。あまり興味がないので」
「もったいないっすねぇ。良かったら写真撮ってもいいですか?」
若干躊躇しながらツァイトがコクリと頷くと、城ヶ崎が携帯を手にとって近づいてくる。そのまま光の横まで来ると、背伸びをしつつ自撮りを始めた。
「なんで私が真ん中なの?」
「……うるさいっす。写真撮ってるんですから笑っててくださいよ」
横にいるツァイトに視線を向けると、いつもの無表情が返ってきた。なんで私が真ん中なんだろうか……?疑問を感じながらしばらく笑顔でいると、写真を撮り終わったのか城ヶ崎が携帯をポケットにしまった。
「じゃあ、私この後予定あるんで。お邪魔したっす」
そう言うと、城ヶ崎はツァイトに少しだけ手を振った後、逃げるように早足で去っていった。
ポツンと二人残された光とツァイトだったが、先に口を開いたのはツァイトだった。
「……随分と積極的な方ですね。まあいいです、資源の補給に戻りましょう。次は4階の画材コーナーです。高いものだとラピスラズリなどの宝石資源がありますからね。……買ってもらいますから」
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