頂点を越えて

第31話 新しい世代

eスポーツ親善大使就任から三ヶ月。


矢代秀は、日本のeスポーツイベントに出演していた。


会場は、東京ビッグサイト。


数千人の観客が集まっている。


「では、神崎灯選手による、特別講演を始めます」


司会者の声に、会場が拍手に包まれる。


秀は、ステージに上がった。


「皆さん、こんにちは。神崎灯です」


会場が、歓声に包まれる。


「今日は、eスポーツについて、お話ししたいと思います」


秀が、マイクを握る。


---


「eスポーツは、ただのゲームじゃありません」


秀の声が、会場に響く。


「戦略、反応速度、チームワーク、メンタル……様々な要素が求められる、真剣勝負です」


会場が、静かに聞き入っている。


「そして、何より大事なのは……楽しむこと」


秀の目が、輝いている。


「ゲームは、楽しむためにあります。それを忘れないでください」


会場が、拍手に包まれた。


---


講演後。


秀は、バックステージで休んでいた。


「お疲れ様でした」


スタッフが、声をかける。


「ありがとうございます」


その時――


一人の少年が、スタッフに連れられてきた。


中学生くらいの男の子だ。


「神崎さん、この子があなたに会いたいと……」


「もちろんです」


秀が、笑顔で少年に近づく。


「初めまして」


「は、初めまして……!」


少年が、緊張している。


「僕、神崎さんの大ファンです!」


「ありがとう」


「あの……僕、プロゲーマーになりたいんです!」


少年の目が、輝いている。


「でも、親に反対されてて……」


少年の顔が、曇る。


秀は――少年の肩に手を置いた。


「親御さんは、君のことを心配してるんだよ」


「……はい」


「でも、君が本気なら、きっと理解してくれる」


秀の目が、優しい。


「まず、結果を出すこと。勉強もちゃんとして、ゲームでも実績を残す」


「それができれば、親御さんも認めてくれるはずだ」


少年の目が――再び輝いた。


「はい……!頑張ります!」


「応援してるよ」


秀が、少年の頭を撫でる。


少年は――嬉しそうに笑った。


---


その夜。


秀は、テインメイトのオフィスにいた。


「神崎、お疲れ」


黒木が、声をかける。


「お疲れ様です」


「講演、どうだった?」


「いい感じでした。若いゲーマーたちと、たくさん話せました」


秀が、満足そうに言う。


「そういえば……」


柏木が、ノートパソコンを持ってくる。


「最近、面白い配信者がいるんだ」


「え?」


柏木が、画面を見せる。


そこには、一人の若い配信者がプレイしている様子が映っていた。


「この子、15歳なんだけど……めちゃくちゃ上手いんだ」


秀は、画面を見た。


確かに、プレイが上手い。


反応速度、判断力、立ち回り――全てがハイレベルだ。


「誰ですか、この子?」


「配信名は『ライジング・スター』。本名は公開してない」


「へえ……」


秀は、興味を持った。


「この子、絶対伸びるぞ」


柏木が、確信を持って言う。


---


翌日の配信。


「おはようございます、神崎灯です」


同接:687,394人。


「今日は……最近話題の配信者について、話そうかなと」


チャット欄が、ざわつく。


『誰?』

『気になる』


「『ライジング・スター』っていう、15歳の配信者です」


『知ってる!』

『あの子すごいよね!』

『めちゃくちゃ上手い』


「俺も、昨日初めて見たんですけど……本当に上手いですね」


秀が、感心した様子で言う。


「若いのに、あれだけのプレイができるなんて……将来有望です」


チャット欄も、盛り上がる。


---


数日後。


秀のもとに、一通のDMが届いた。


『差出人:ライジング・スター』


秀は、驚いてDMを開いた。


『神崎灯さん、初めまして。ライジング・スターです。


配信で僕のことを話してくれて、ありがとうございました。


実は、僕……神崎さんに、ずっと憧れていました。


もしよかったら、一度コラボしていただけませんか?』


秀は――少し考えてから、返信を打った。


『もちろんです。ぜひ、一緒にゲームしましょう』


---


一週間後。


秀とライジング・スターのコラボ配信が始まった。


「おはようございます、神崎灯です」


「ライジング・スターです!よろしくお願いします!」


若い、少年の声だった。


同接:812,394人。


過去最高の数字だった。


『きたー!』

『ライジング・スターだ!』

『楽しみ!』


「じゃあ、一緒にゲームしましょうか」


「はい!」


2人は、協力プレイのゲームを始めた。


---


1時間後。


「ライジング・スターくん、上手いですね」


秀が、感心する。


「あ、ありがとうございます……!」


ライジング・スターが、照れる。


「でも、神崎さんには全然敵いません……」


「そんなことないですよ。君、すごく才能ありますよ」


秀の言葉に、ライジング・スターは――嬉しそうだった。


「本当ですか……?」


「ええ。このまま頑張れば、絶対トッププレイヤーになれます」


チャット欄も、温かいコメントで溢れる。


『いいコンビ』

『ライジング・スター、頑張れ』

『神崎灯の後継者だな』


---


配信終了後。


秀とライジング・スターは、DMで話していた。


『今日は、ありがとうございました!』


『こちらこそ。楽しかったです』


『あの……神崎さん』


『はい?』


『僕、将来プロゲーマーになりたいんです。でも……親に反対されてて』


秀は――少し前に会った少年のことを思い出した。


『親御さんを説得するには、結果を出すことです』


『結果……』


『勉強もちゃんとして、ゲームでも実績を残す。そうすれば、きっと認めてくれます』


『……はい!頑張ります!』


秀は、笑った。


『応援してますよ』


---


数週間後。


秀は、テインメイトの会議室にいた。


「実は……新しいメンバーを迎えたいと思っています」


桜井代表が、言う。


「新しいメンバー、ですか?」


「はい。若い才能を発掘して、育てていきたい」


桜井の目が、真剣だった。


「そして、神崎さんに……その指導役をお願いしたいのです」


「俺が……指導役?」


「はい。あなたなら、若い才能を伸ばせると思います」


秀は――少し考えた。


そして――


「わかりました。やらせてください」


桜井が、嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます」


---


一ヶ月後。


テインメイトに、3人の新メンバーが加わった。


全員、10代の若いゲーマーたち。


秀は、彼らの指導を始めた。


「まず、基本的な立ち回りから教えます」


秀が、画面を見せながら説明する。


「ここで、こう動くと……」


若いメンバーたちは、真剣に聞いている。


「わかりましたか?」


「はい!」


全員が、元気よく答える。


秀は――少し懐かしい気持ちになった。


「俺も、昔は誰かに教わってたんだよな……」


---


その夜の配信。


「おはようございます、神崎灯です」


同接:721,483人。


「今日は、テインメイトの新メンバーを紹介します」


画面に、3人の若いメンバーが映る。


「初めまして!タカシです!」


「ミユです!よろしくお願いします!」


「レンです……」


チャット欄が、盛り上がる。


『新メンバー!』

『若い!』

『頑張れ!』


「これから、俺が彼らを指導していきます」


秀が、真剣な顔で言う。


「次世代のトッププレイヤーを、育てたいと思います」


チャット欄が、応援のコメントで溢れた。


---


数ヶ月後。


秀の指導のもと、新メンバーたちは急速に成長していた。


「タカシ、そこの動き、良くなったな」


「ありがとうございます!」


「ミユも、判断が早くなってる」


「えへへ……神崎さんのおかげです!」


「レンも、自信がついてきたな」


「……はい」


秀は――彼らの成長を、嬉しく思っていた。


「みんな、よく頑張ってる」


---


ある日。


秀は、一人で考え込んでいた。


「俺、今……何を目指してるんだろう」


世界チャンピオン、eスポーツ親善大使、指導者。


様々な役割を果たしている。


だが――


「次の目標は……」


秀は、まだ見つけられていなかった。


その時――


スマホが鳴った。


カザマからだった。


「もしもし?」


『矢代、久しぶりだな』


「カザマさん、どうしたんですか?」


『実は……新しい大会の話があるんだ』


「大会?」


『ああ。"レジェンド・トーナメント"っていう、歴代の世界チャンピオンだけが出場できる大会だ』


秀は――目を見開いた。


「歴代の世界チャンピオン……」


『お前も、招待されてるはずだ。出ないか?』


秀は――少し考えた。


そして――


「出ます。必ず」


秀の目が、輝いた。


---


その夜の配信。


「おはようございます、神崎灯です」


同接:748,392人。


「今日は……大きなお知らせがあります」


チャット欄が、ざわつく。


「"レジェンド・トーナメント"という、歴代世界チャンピオンだけが出場できる大会が開催されます」


『おお!』

『レジェンド大会!』


「そして……俺も、出場します」


チャット欄が、爆発した。


『やった!』

『応援する!』

『優勝しろ!』


秀の目が、真剣だった。


「この大会で、もう一度……世界最強を証明します」


---


窓の外には、満天の星。


矢代秀の新たな挑戦が――始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る