第12話 新しい仲間たち
テインメイトに所属して、三日目。
矢代秀は、事務所のゲーミングルームにいた。
「すげえ……」
目の前には、最新鋭のゲーミングPC、4Kモニターが3台、そして防音完備の配信ブース。
「これ、全部使っていいんですか?」
秀が、案内してくれたマネージャーに聞く。
「はい。所属クリエイターは、24時間いつでも利用できます」
マネージャーは、20代後半の女性だった。名前は、高橋美咲。
「私が、矢代さんの担当マネージャーになります。何かあれば、いつでもご連絡ください」
「よろしくお願いします」
秀は、改めて挨拶した。
高橋は、にっこりと笑った。
「こちらこそ。あ、そうだ。今日の午後、所属クリエイター同士の交流会があるんですけど……参加されますか?」
「交流会、ですか?」
「はい。月に一度、所属クリエイターが集まって雑談したり、ゲームしたり。強制じゃないんですけど、皆さん楽しみにしてるイベントなんです」
秀は、少し考えた。
「参加します」
「本当ですか!ありがとうございます!皆さん、絶対喜びますよ!」
高橋の嬉しそうな顔を見て、秀は少しだけ安心した。
午後3時。
事務所の大きなラウンジに、20人ほどのクリエイターが集まっていた。
「あ、神崎灯だ!」
「リノちゃんも!」
秀と莉乃が入ると、一斉に視線が集まった。
「み、皆さん……こんにちは」
秀は、少し緊張しながら挨拶した。
すると――
「おお、神崎!待ってたぜ!」
黒木颯太が、ノンアルコールビールを片手に駆け寄ってきた。
「黒木さん」
秀が、少しホッとした顔で答える。
「堅苦しいのはなしで!ほら、こっち来いよ」
黒木が、秀の肩を叩いた。
ラウンジの一角。
ソファに、何人かのクリエイターが座っていた。
「紹介するよ。こっちが、VTuberの天音ミア」
ピンク髪のツインテール、可愛らしい見た目のVTuber。
「こ、こんにちは!天音ミアです!リノちゃんの大ファンです!」
ミアが、興奮した様子で莉乃に握手を求める。
「わ、私もミアちゃんの配信見てます!」
莉乃も、嬉しそうに握手を返した。
「で、こっちが格ゲープロの佐藤陸」
坊主頭、筋肉質の体格の男性。見た目は怖いが、笑顔は優しい。
「よろしく。佐藤です。神崎さん、格ゲーもやってくださいよ。教えますから」
「ぜひ、お願いします」
秀が、丁寧に答える。
「そんで、こっちがイラストレーターの山田蒼」
細身、長髪の中性的な雰囲気の青年。
「山田です。よろしく」
山田が、静かに頭を下げる。
「山田さんのイラスト、Twitterで見たことあります。すごく綺麗ですよね」
秀の言葉に、山田の顔が少しだけ明るくなった。
「……ありがとう。もしよかったら、いつか描かせてほしい」
「ぜひ、お願いします」
黒木が、ソファに座るよう促す。
「まあ、座れよ。飲み物は?」
「コーヒーでお願いします」
「リノちゃんは?」
「私も、コーヒーで!」
しばらくして。
秀と莉乃は、すっかり打ち解けていた。
「神崎さん、世界大会出るんですよね?」
佐藤が、興味深そうに聞く。
「はい。一週間後です」
「俺も見ますよ。絶対優勝してくださいね」
「頑張ります」
秀が、少し照れくさそうに笑う。
「ねえねえ、神崎さん」
ミアが、目を輝かせながら聞く。
「もしよかったら、今度コラボしませんか?私、神崎さんみたいに上手くなりたいんです」
「いいですよ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「やったあああ!」
ミアが、喜びの声を上げる。
その様子を見て、黒木が笑った。
「神崎、お前人気者だな」
「いえ、そんな……」
「謙遜すんなって。お前、本当にすごいんだぞ」
黒木が、真剣な顔で言った。
「俺、お前の配信全部見てる。プレイもそうだけど、視聴者への接し方とか、コメントの拾い方とか……全部勉強になる」
「黒木さん……」
「俺も、もっと上手くなりたいんだ。だから、色々教えてくれよ」
黒木の真剣な目を見て、秀は頷いた。
「こちらこそ、黒木さんから学びたいことがたくさんあります」
「お、マジか!じゃあ、今度一緒に配信しようぜ!」
「ぜひ」
2人は、握手を交わした。
その時――
「あの、すみません……」
小さな声が聞こえた。
振り返ると、一人の少女が立っていた。
背が低く、黒髪のロングヘア。控えめな雰囲気。
「君は……?」
秀が聞くと、少女は恥ずかしそうに答えた。
「あの……VTuberの、雪村ユキです……」
「雪村さん、ですか。初めまして」
秀が、優しく挨拶する。
「は、初めまして……あの、神崎さんの配信、いつも見てます……」
ユキの声が、小さく震えている。
「ありがとうございます」
「あの……もしよかったら、いつか……コラボ、してもらえませんか……?」
ユキが、顔を真っ赤にして聞く。
秀は、少し驚いた。
この子、すごく緊張しているんだな。
「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「……!ほ、本当ですか!?」
ユキの顔が、パッと明るくなった。
「はい。いつでも連絡してください」
「あ、ありがとうございます!」
ユキが、深々と頭を下げる。
莉乃が、ユキに優しく声をかけた。
「ユキちゃん、私ともコラボしようよ!」
「え、え!?リノさんとも!?」
「うん!3人でやろう!」
「わ、わあああ……夢みたい……」
ユキが、涙目になっている。
秀と莉乃は――顔を見合わせて笑った。
交流会は、夜まで続いた。
途中、皆でゲーム対戦をしたり、雑談したり。
秀は――心から、楽しかった。
こんなに自然体でいられる場所。
こんなに温かい人たちに囲まれる環境。
「テインメイトに来て、よかったな……」
秀は、心からそう思った。
夜10時。
交流会が終わり、秀と莉乃は一緒に帰路についていた。
「今日、楽しかったね」
莉乃が、嬉しそうに言う。
「ああ。皆、いい人たちでした」
「うん。ミアちゃんもユキちゃんも、すごく優しかった」
「佐藤さんも黒木さんも、気さくでしたね」
2人は、並んで夜道を歩く。
「秀くん」
「はい?」
「私、テインメイトに入ってよかったって思う」
莉乃が、真剣な顔で言った。
「皆と出会えて、色んな刺激を受けて……これから、もっと成長できそう」
秀は――優しく笑った。
「俺もです。ここなら、もっと楽しくゲームができそう」
「うん!」
2人は――これからの未来に、期待を膨らませていた。
翌日。
秀は、事務所のゲーミングルームで配信をしていた。
「おはようございます、神崎灯です」
同接:128,594人。
「今日は……特別ゲストがいます」
画面に、黒木颯太のアバターが表示される。
「どうも、黒木颯太です!よろしく!」
チャット欄が盛り上がる。
『黒木颯太!?』
『FPSの神じゃん!』
『このコラボ熱い!』
「今日は、黒木さんとFPSをプレイします」
「神崎、お手柔らかに頼むぜ」
黒木が、笑いながら言う。
「こちらこそ、教えてください」
2人は、FPSゲームを起動した。
30分後。
「うおおおお!神崎、お前強すぎるだろ!」
黒木が、驚きの声を上げる。
画面には、秀のキャラクターが敵を次々と倒していく様子が映っている。
「いえ、黒木さんの動きを真似してるだけです」
「真似だけであのエイム!?化け物か!」
チャット欄も、盛り上がっている。
『神崎灯、FPSも強いのかよ』
『黒木が驚いてるの珍しい』
『このコラボ最高』
「でも、黒木さんの立ち回りは本当に勉強になります」
秀が、真剣に言う。
「どういうこと?」
「敵の位置を予測する動き、味方との連携、全てが完璧です」
黒木が――少し照れくさそうに笑った。
「お、おう……ありがとな」
「こちらこそ、ありがとうございます」
2人の掛け合いに、視聴者たちも温かいコメントを送る。
『この2人の関係性好き』
『お互いリスペクトしてる感じがいい』
『テインメイト最高だな』
配信終了後。
秀と黒木は、ラウンジで休憩していた。
「いやー、楽しかったな」
黒木が、ノンアルコールビールを飲みながら言う。
「俺もです。また一緒にやりましょう」
「おう!次は格ゲーもやろうぜ。佐藤も呼んでさ」
「いいですね」
2人は、今後のコラボ計画を話し合った。
そこへ――
「あ、あの……」
雪村ユキが、恥ずかしそうに現れた。
「ユキちゃん、どうした?」
黒木が、気さくに声をかける。
「あの……神崎さん、少しお時間いいですか……?」
「もちろんです」
秀が、優しく答える。
ユキは、モジモジしながら――小さな紙を差し出した。
「これ……コラボ企画書です……もしよかったら、見てもらえませんか……?」
秀は、紙を受け取った。
そこには、丁寧な字でコラボ内容が書かれていた。
『ホラーゲーム協力プレイ』
『神崎さんに守ってもらいながら、ゲームをクリアする企画』
秀は――少し驚いた。
すごく、丁寧に考えられている。
「ユキさん、これすごくいいですね」
「ほ、本当ですか!?」
ユキの顔が、パッと明るくなる。
「はい。ぜひやりましょう」
「やったああああ!」
ユキが、喜びのあまり飛び跳ねた。
黒木が、笑いながら言った。
「ユキ、よかったな」
「はい!すごく嬉しいです!」
秀は――この光景を見て、心が温かくなった。
テインメイトに来て、本当によかった。
こんなに素敵な仲間たちに出会えて。
「これから、もっと楽しくなりそうだ」
秀は、そう確信した。
その夜。
秀は、ベッドに横たわりながら――今日のことを振り返っていた。
黒木とのコラボ。
ユキの企画書。
そして、温かい仲間たち。
「テインメイト……いい場所だな」
秀は、スマホを手に取った。
莉乃へのメッセージ。
『今日も楽しかったですね。これから、もっと色んなことに挑戦していきましょう』
すぐに返信が来た。
『うん!秀くんと一緒なら、何でもできるよ!おやすみなさい!』
秀は――笑いながら、スマホを置いた。
窓の外には、満月が輝いていた。
矢代秀の新しい日々は――確実に、充実していた。
翌日。
秀は、事務所のミーティングルームにいた。
桜井代表、高橋マネージャー、そして数人のスタッフ。
「矢代さん、白雪さん、お集まりいただきありがとうございます」
桜井が、資料を配った。
「実は……アストラルオデッセイの世界大会について、公式から特別なオファーが来ています」
「特別なオファー、ですか?」
秀が聞く。
「はい。大会の実況解説を、お2人にお願いしたいと」
「実況解説……?」
「ええ。お2人は選手として出場しますが、それ以外の試合では実況席に座って、解説をしてほしいとのことです」
秀と莉乃は――顔を見合わせた。
「どうでしょう?もちろん、断ることもできますが……」
桜井の言葉に、秀は少し考えた。
実況解説。
それは、今までやったことのない役割だ。
だが――
「やってみたいです」
秀が、答えた。
「本当ですか?」
「はい。新しい挑戦、面白そうです」
莉乃も、頷いた。
「私も、やってみたい!」
桜井が、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。では、大会運営に連絡しておきます」
会議が終わり、秀と莉乃は廊下を歩いていた。
「実況解説、か……」
秀が、少し不安そうに呟く。
「大丈夫だよ、秀くん。私たちなら、できるよ」
莉乃が、励ますように言う。
「そうですね。頑張りましょう」
「うん!」
2人は――新しい挑戦に向けて、歩き出した。
……………………………………………………………
『更新』
(月火木金)7:22 19:22
( 水 )7:22 13:22 19:22
( 土日 )7:22 13:22 19:22 22:22
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