第9話 2人の冒険
「わあ……すごい……」
リノの感嘆の声が、配信に響いた。
画面には、幻想的な光の森が映し出されている。
木々が淡く光り、無数の蛍が舞っている。
「綺麗ですね」
秀も、思わず呟いた。
2人のキャラクターが、並んで森の中を歩いていく。
同接:95,721人。
『美しい……』
『この2人で見る景色、最高』
『エモすぎる』
秀とリノは、協力プレイモードで『アストラルオデッセイ』の世界を冒険していた。
「秀くん、あそこに何かある!」
リノが指差す先に、光る宝箱。
2人で近づくと――宝箱が開いた。
『アイテム取得:双子の指輪』
「双子の指輪……?」
秀は、アイテム説明を読む。
『双子の指輪:2人で装備することで、互いの力を高め合う。絆が深いほど、効果は強くなる』
「おお、協力プレイ用のアイテムですね。装備しましょう」
「うん!」
2人のキャラクターが、指輪を装備する。
すると――キャラクターたちが淡く光り始めた。
『リンク成立:絆レベル1』
画面にメッセージが表示される。
「絆レベル……?」
秀が首を傾げる。
「これって、一緒に冒険すると上がっていくのかな?」
「たぶん!じゃあ、たくさん一緒に冒険しようね!」
リノの声が、嬉しそうだ。
チャット欄が盛り上がる。
『絆レベルとか最高かよ』
『この2人にぴったりのシステム』
『リノちゃん嬉しそう』
1時間後。
2人は、巨大なダンジョンの前に立っていた。
「ここ、協力しないと進めなさそうですね」
秀が、ダンジョンの入口を見つめる。
入口には、2つのレバーがある。
「同時に引かないと開かない、とか?」
「試してみよう!」
2人は、それぞれのレバーの前に立つ。
「せーの!」
「はい!」
同時にレバーを引く――扉が開いた。
「やった!」
リノが歓声を上げる。
2人は、ダンジョンの中へ入っていった。
---
ダンジョン内部。
薄暗い通路が続いている。
「秀くん、何か出てきそうで怖い……」
「大丈夫です。俺がいますから」
秀の優しい声に、リノが安心したように答える。
「うん……ありがとう」
チャット欄が、温かいコメントで溢れる。
『守ってあげる秀くん』
『リノちゃんの安心した声』
『尊い』
すると――
前方から、複数の魔物が現れた。
「来た!」
戦闘開始。
秀のキャラクターが前に出て、魔物を引きつける。
「リノさん、後ろから魔法で援護を!」
「わかった!」
リノのキャラクターが、魔法を詠唱。
火球が魔物に命中する。
「ナイス!」
秀は、魔物の攻撃を回避しながら、剣で反撃。
2人の連携が、完璧に噛み合っている。
『息ぴったり』
『連携美しい』
『これがトップ層の戦い』
そして――全ての魔物を倒した。
「やった!秀くん、すごい!」
「リノさんの援護が完璧でした」
2人は、お互いを褒め合う。
画面に、メッセージが表示された。
『絆レベルが上がりました:絆レベル2』
「おお、上がった!」
「やったー!もっと一緒に頑張ろう!」
2時間後。
2人は、ダンジョンの最深部に辿り着いていた。
そこには――巨大なボスが待ち構えていた。
「でかい……」
秀が、ボスを見上げる。
『古の守護神』というネームが表示されている。
「これ、2人じゃないと倒せないタイプですね」
「どうすればいいかな?」
リノが、少し不安そうに聞く。
秀は、ボスを観察しながら答えた。
「まず、俺がヘイトを取ります。リノさんは、ボスの背後に回って弱点を攻撃してください」
「わかった!」
戦闘開始。
ボスが、巨大な腕を振り下ろす。
「来た!」
秀は、紙一重で回避。
そして――剣で反撃し、ボスの注意を引く。
「今です、リノさん!」
「はい!」
リノのキャラクターが、ボスの背後に回り込む。
そして――弱点に魔法を叩き込む。
『CRITICAL HIT!』
ボスが、大きく怯む。
「よし、このまま!」
秀とリノ、息の合った連携でボスを攻め続ける。
だが――
ボスが、突然咆哮した。
『全体攻撃!』
画面が赤く光る。
「まずい、これは……!」
秀は、瞬時に判断した。
「リノさん、俺の後ろに!」
秀のキャラクターが、防御スキルを発動。
リノを庇うように、前に立つ。
ボスの攻撃が――秀のキャラクターに直撃した。
HPが大きく減る。
「秀くん!」
リノが、慌てて回復魔法を使う。
秀のHPが回復していく。
「ありがとう、リノさん。助かりました」
「う、うん……ごめんね、私のせいで……」
「いえ、これがチームプレイですから」
秀は、優しく答えた。
チャット欄が、温かいコメントで溢れる。
『秀くん、かっこいい』
『庇うの最高』
『リノちゃんを守る秀くん』
2人は、再びボスに立ち向かった。
激しい戦闘の末――
「今だ!必殺技!」
「はい!」
秀とリノ、同時に必殺技を発動。
2つの光がボスに直撃し――
『VICTORY』
ボスが、崩れ落ちた。
「やったああああああ!」
リノが、歓声を上げる。
秀も、満足そうに笑った。
「完璧な連携でしたね」
画面に、メッセージが表示される。
『絆レベルが上がりました:絆レベル5』
『特別スキル解放:絆の力』
「絆の力……?」
秀は、スキル説明を読む。
『絆の力:2人の絆が最高潮に達した時、発動できる特別な合体技。2人の力を合わせ、強大な敵を打ち倒す』
「合体技……!」
リノの声が、興奮している。
「これ、使ってみたい!」
「次の強敵で試してみましょうか」
チャット欄が盛り上がる。
『合体技とか熱すぎる』
『絆レベル5!』
『この2人の絆、強すぎる』
3時間後。
2人は、美しい湖のほとりで休憩していた。
夕日が湖面に映り、幻想的な光景。
「秀くん、今日すごく楽しかった……」
リノの声が、しみじみと響く。
「俺もです。リノさんと一緒だと、いつも楽しい」
秀は、自然とそう答えていた。
リノが――少し沈黙した後、小さく言った。
「あのね……秀くん」
「はい?」
「私……ずっと言いたかったことがあって」
リノの声が、少し震えている。
秀は、少しだけ緊張した。
「何でしょう?」
リノは、深く息を吸って――
「私、高校の時から……秀くんのこと、好きだったの」
秀は――固まった。
「え……」
「ゲーム部の部室の前、いつも通ってたって言ったでしょ?あれ……秀くんの声が聞きたくて、わざと通ってたの」
リノの声が、恥ずかしそうに続く。
「秀くんが楽しそうにゲームの話してる声……すごく好きだった」
秀は、何も言えなかった。
「それで……神崎灯の配信を見た時、すぐにわかったの。この声、秀くんだって」
「莉乃さん……」
「コラボしたのも……秀くんと一緒にゲームしたかったから」
リノの声が、少し泣きそうになっている。
「だから……これからも、ずっと一緒にゲームしたい。ずっと、秀くんのそばにいたい」
沈黙。
チャット欄も、完全に静まり返っていた。
そして――
秀は、ゆっくりと口を開いた。
「莉乃さん……俺も、同じです」
「……え?」
「俺も……莉乃さんと一緒にいると、すごく楽しい。ゲームも、配信も、全部」
秀の声が、優しく響く。
「これからも……ずっと一緒にいたいです」
リノが――小さく泣き出した。
「秀くん……ありがとう……」
チャット欄が、温かいコメントで溢れた。
『泣いた』
『おめでとう』
『2人とも幸せになってくれ』
『これは祝福するしかない』
秀とリノは、画面の向こうで――笑い合っていた。
配信終了後。
秀は、スマホを見つめていた。
莉乃からのメッセージ。
『今日、本当にありがとう。嬉しかった』
秀は、返信を打つ。
『こちらこそ。これからも、よろしくお願いします』
送信。
すぐに返信が来た。
『うん!これからも、ずっと一緒だよ!』
秀は、笑いながらスマホを置いた。
そして――窓の外を見上げた。
夜空には、満天の星。
「ゲームって……人生を変えるんだな」
秀は、心からそう思った。
三年前、燃え尽きて引退した自分。
だが今――こんなにも幸せだ。
VTuberとして配信し、世界中の人と繋がり、莉乃と出会った。
全ては、ゲームがくれたものだ。
「これからも……楽しんでいこう」
秀は、そう決意した。
翌日。
Twitterのトレンドが、爆発していた。
『#神崎灯』『#白雪リノ』『#告白』が1位、2位、3位を独占。
『神崎灯と白雪リノ、配信中に告白』
『2人の関係が公式に!』
『おめでとう!祝福する!』
『VTuber界の伝説カップル誕生』
秀は、タイムラインを見ながら――苦笑した。
「まあ、配信中だったしな……」
だが、後悔はなかった。
むしろ――あの場で言えて、よかったと思った。
ピロン、とDM通知。
開発会社の田中からだった。
『矢代さん
昨日の配信、素晴らしかったです。
視聴者の反応も最高でした。
実は……弊社から、正式にお願いがあります。
アストラルオデッセイの公式アンバサダーに、就任していただけないでしょうか?
もちろん、白雪リノさんも一緒にです。
報酬等の詳細は、別途ご相談させてください。』
秀は、少しだけ考えた。
公式アンバサダー。
それは、大きな責任を伴う。
だが――
秀は、莉乃に連絡を入れた。
「もしもし、莉乃さん」
『秀くん!おはよう!』
「実は、開発会社から公式アンバサダーのオファーが来たんですが……一緒にやりませんか?」
『え!?本当!?やる!絶対やる!秀くんと一緒なら!』
莉乃の即答に、秀は笑った。
「じゃあ、決まりですね」
『うん!楽しみ!』
秀は、田中に返信を打った。
『了解しました。2人で、アンバサダーを引き受けます』
そして――
数日後、公式発表があった。
『アストラルオデッセイ 公式Twitter』
「【重大発表】
神崎灯さん、白雪リノさんが、『アストラルオデッセイ』公式アンバサダーに就任!
2人の冒険は、これからも続きます!
発売日:2026年3月20日
#アストラルオデッセイ #神崎灯 #白雪リノ」
Twitterが、爆発的に盛り上がった。
『おめでとう!』
『絶対買う!』
『この2人が公式とか最高』
『発売が楽しみすぎる』
秀と莉乃は――これから、新たな冒険を始める。
ゲームと共に。
そして、2人で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます