第15話 忍者

 次の日、朝食を済ませて、外に出ると、空気がひんやりとしていた。


「おはようっす」

「おはよう……今日元気だな」


 俺とリーアを待っていたのか、歩いていたら、木の後ろから金髪が現れた。


「おはよう」


 リーアが金髪に挨拶すると、金髪が首を傾げた。


「なんか、雰囲気が違うねーー、あのきつい感じない!?」

「そ、そうかな〜? 変わらないと思うよ」

「昨日サウナで勝ったのは、あたしですよね」

「えーと、私が勝ったよ。金髪さんはサウナで倒れてたから、その……更衣室に移動しておいたよ?」

「ふーむ、確かに合っている。が、まあいいやーー」


 金髪は項垂れるように身体を横に前に倒して、歩き始めてた。

 やはり、金髪は俺達と行動を共にする気満々のようだ。俺達は一言も一緒に行動するとは言っていないのにな。

 

 昨日は偉そうな方のリーアだったから、永遠とデザードを食べさせられたが、普通のリーアはどちらかと言うと観光をメインに行動している。金髪も最初は戸惑っていたが、なんとか切り替えたようだ。


 「ちょっとトイレしたいから探してくる」


 今から天龍寺に行くとか、金髪が言い出したので、その前にトイレに行く事にした。

 

「うん、わかった」

「はいです。良き、トイレライフを!!」


 とりあえず、トイレ標識があるお店を探す事にした。ここは京都の端っこ辺りなので、お店が少なく、住宅地が広がっている。


「あれは!?」


 歩き回って、ついにトイレ標識があるお店を発見した。そのお店の襖を開いて、中に入るとそこは皿やお茶碗などの食器を売っているお店だった。


「トイレ借ります」

「どうぞ」


 トイレは昔の時代を再現していなく、壁も床も黒で知っているトイレだった。


「なんだか落ち着くな」


 京都は普段過ごしている世界とは違いすぎて、疲れてしまっていたみたいだ。

 和服でのトイレは慣れないな、最初はやり方が分からなく、ネットで検索をしたよ。

 手を洗っていると、床が揺れた気がした。


「なんだか騒がしいな」


 トイレは防音されている為、外の音はあまり聞こえないようになっている。

 トイレの外を出ると、店員達がうずくまって、震えていた。


「に、逃げろー、うぁぁ」

「いやーーーーうッ」


 外からバタバタと誰かが走っている音、悲鳴が聞こえてくる。

 なんだ? 外で何が起きているだ?

 外を覗こうと入口がある襖の方に歩く事にした。


「待て、そこの若い人、今出ない方が良いぞ」

「そうよ、ここで隠れた方がいいわよ」


 俺がどうするか迷っていると、周囲が静かになっていた。違和感を感じ、警戒していると、突然前の襖が10cm程開かれた。そこには黒い布を着た怪しい人が俺を見ている。次の瞬間、斬撃が俺に向かっては放たれた。


「ーーッ!?」


 斬撃で襖が真っ二つに切れた。

 俺は構えていた腕で、その斬撃をガードした。その斬撃の重さが想像に大きく、後方に飛ばされる。並べてあった商品に当たり、皿やお茶碗がバリンッと音を立てて割れていった。和服での戦闘になれていなく、和服に何かが引っ掛かり、体勢を起こすのに時間が掛かる。相手は何かを投げてきた。その攻撃を腕でガードをする為に構えたが、俺のところには来なかった。


「うぁぁぁ!!」

「ひぇぇ!!」


 相手が投げた黒い何かは、最初俺に向かって放たれたが、軌道を変えて、1つはおじさんの店員のところに、もう1つはおばさんの店員の方に飛んで行き、そのまま頭にクリーヒットし、頭から血が吹き出した。

 おじさんの頭を見ると、手裏剣が刺さっていた。相手の姿を見た時、なんか見たことがあると思っていたが、手裏剣を見たことでハッキリした。


「お前、まさか忍者なのか?」


 情報として知っていた、昔日本にいたとされている名称を言った。

 忍者は俺の問に返事を返さないで、俺に向かって短刀で切りかかってきた。

 それを左足で止めて、身体を捻って、忍者を蹴った。しかし蹴りは忍者に受け止められていた。一旦離れて、体勢を立て直す。

 忍者は俺をじーと見ているだけで、発言はしなかった。

 突然動き出したと思ったら、壁に向かってジャンプしたと思ったら、壁を走っている。


「まじか」


 壁をジャンプして、そのまま俺に切りかかる。相手の全体重が短刀に込められていた。

 俺はその攻撃を腕をバッテンするように交差して、前腕部で受け止めた。


「目的も、誰だか分からないが、明らかに関係なさそうな人を殺すには相応しい理由なんだろうな」


 するっと横にズレて、忍者の攻撃が地面に向かった時、忍者の腹に向かって蹴りを入れた。


 「ぐふッ」


 少し浮いた忍者に向かって、足に力を入れて、正拳突きを相手に食らわした。襖が破れて忍者が外に放り出される。飛ばされた忍者は平然と受け身をとり、立ち上がり、手を後方に回して、武器を構えながら、俺を見ている。

 忍者が俺をめんどくさい敵だと判断したのか、家の屋根に飛び移って、逃げた。

 俺は忍者が逃げた方向に目を向けて、一瞬周囲の状況を見た時、なにか見てはいけないものを見た気がした。


「最悪だ……」


 忍者の行動を見るのに夢中で気づかなかったが、周囲には人間の死体がいくつも転がっていた。観光客にその護衛をしていたと思わしき姿。酷い悪臭が周囲にたち込めた。


「これはめんどくさい事になるぞ」


 京都では殺人など大きな事件が起きた時、京都のゲートを封鎖する事になっている。今京都をで 出なければ、1ヶ月以上京都に閉じ込められる事になる。

 まだ、事件が起きたばかりのはずだ。早くリーアを探して、京都から逃げないと行けない。

 リーア達がいる方は忍者が逃げた方と同じになる。

 リーアは大丈夫だと思うが、金髪の方は大丈夫だろうか? 金髪はうるさいが、流石に守るだろう。

 リーアが居そうな方に走り出した。忍者は派手にやったようで、歩く道には死体ばかりあった。仕事的に死体には慣れているが、なんも関係が無さそうな一般人の死体は慣れることはないだろう。

 大通りの方に行くと、さっきの光景が嘘だと感じるくらいに普通だった。

 通りを歩く人達の中にリーアと金髪を見つけた。


「リーア!!」


 リーアは片手にアイスクリームを持って、必死な顔で自分の名前を呼ばれて、顔を傾けている。金髪も俺の存在を認識したようだ。


「リーア前!!」


 リーア達の背後に黒い布を纏った忍者が現れた。

 リーアが前を向いて、忍者と顔を合わせた。

 金髪はまだ俺の方を見ており、背後にいる忍者の存在に気づいていないようだ。

 忍者が金髪に向かって走り出した。


「おい!! 金髪避けろ」


 俺は走って手を伸ばした。手が届かなくても。

 忍者の短刀が振り下ろされた。

 赤い血がリーアの方に飛び散った。

 切りつけられた金髪は首を斬られて、言葉をひと言も発しないで倒れた。

 忍者は躊躇いもなく、金髪の隣にいる、リーアに向かって短剣を切りつけた。

 その攻撃をリーアは左手の親指と人差し指で止めた。リーアの髪型がいつの間にか、ロングヘアーに変わっていた。

 忍者は短刀を外そうとするが、動かなく、驚きの表情をした。忍者がリーアを見た時、リーアは顔を忍者の耳元に近づけた。


「ここじゃないところで暴れてくれるかしら」


 忍者が短刀から手を離すと、リーアも短刀を離して、忍者の手首を握った。逃げれなくなった忍者に向かって、リーアは思いっきり殴った。

 忍者はそのまま後方に飛ばされて、家すらも跨いで飛んで行った。


「さぁ、ここから逃げましょう? そろそろ私の服のクリーニングも終わっている頃だわ」

「あ、ああ」


 金髪の血がリーアの顔から胸にかけて、掛かっていた。リーアは一切、地面で倒れている金髪を見ようとはしなかった。

 確かに、金髪とは仲が良かったという訳では無いが、2日とはいえ、一緒に過ごした中じゃないのか、何故そんなに冷静で居られるのか……。

 やはり、リーアと俺とでは考え方に違いがある。


「なに、突っ立ってるのかしら?」

「あ、ああ、急がないとな」


 金髪の死体を置いて、和服を借りた場所に急いで向かうなか、俺はリーアについて考えていた。

 偉そな方のリーアは人体実験を行った影響で現れた人格と言っていた。しかし、本当にそうだろうか、躊躇いもなく、平気で人を殴ったり、腕を飛ばしたり、顔見知りが目の前で死んだのに、一切無反応で応じた。それはあまりにも人間らしくないと思った。

 仮説だが、普通のリーアは人体実験に成功したのに、戦闘をあまりしたがらなく、せっかく理想の能力を持った身体が完成したのに、計画が無駄になると考えた研究者が、新たに人格を作り、植え付けた。そして戦闘を可能になった。と考えれば、説得力がある気がする。まず、人格を植え付けるのが可能なのか、についてひとまず置いておく事にする。

 しかし、偉そうな方リーアも自分がお金もな事をドヤ顔をしたり、甘い物を沢山食べたり、笑顔を出すことがある。それらは作られた人格で表現することは可能なのだろうか。

 分からない、リーアのことはよく分からない。

 

 後方では建物がウィーン、ガチャガチャと音がすると、木造建築の建物の1部から、銃口が現れた。

 京都の建物は緊急性に応じて、迎撃できるようになっている。

 古き日本の景色から要塞都市に変わっていった。

 

 

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