KillING me

晴なつちくわ

KillNG me



 月明かりが、ほろほろと窓から落ちている。

 そんな中で、一人の青年が気を潜めながら、そっと扉を押し開けた。

 音もなく開いた扉の先。その部屋の主であるターゲットが、ベッドの上で山を作って眠りこけている。

  間違いなく今日こそやれる。

 逸る心臓を抑えながら、足音を立てないように近付いて、手に持っていたナイフを振り上げる。ターゲットの心臓目がけて振り下ろしたのと、眼前に布団が迫ったのは同時。

「ッ!?」

 息を呑んだと同時に目の前が暗くなる。

 ワンテンポ遅れて、己の視界を覆っているのが布団だと気付いた。布団で体の自由が思うように利かない。クソッ、と吐き捨ててナイフで切り裂いたら、羽毛が飛び出てきて、更に視界が悪くなった。

「はい、今日も僕の勝ち」

 そんな声と共に、布団が剥がれる。

 少し明るくなった視界の向こうで、楽しげな金色の瞳が弧を描いていた。その男を襲おうとした青年――アレックスは悔しくて唇を噛み締める。

「クソッ! 布団を使うなんて狡ィぞ!」

「そういうお前だって寝込みを襲ってるぞ?」

「俺は良いんだよ! アンタが飛び具以外使って良いって言ったんだから!」

「まあ確かにそうだったな」

 殺されかけたというのに、男はアレックスに同意するように頷いてから、散らばった羽毛を一瞥して、あーあ、と残念そうに肩を竦める。

 この男、名をジオと言う。

 物腰柔らかに見える彼は、驚く事なかれ、街を仕切るギャングの頭である。

 闇に溶けるような黒髪に、黄金の瞳。

 いつも質の良いスーツを着込んで、強面の部下を連れて歩く。 凄腕の右腕もいる。そんなジオを殺そうと思う奴なんて、金で雇われた殺し屋くらいだった。その手練れの殺し屋ですら返り討ちにされるのに、何故アレックスが彼に挑んでも許されるのか。

 それは、一年以上前の出来事に遡る。



 兎に角、アレックスはこの街が嫌いだった。 男に溺れる母も酒に溺れる父も、アレックスに興味を示すことはなく、最低限の生活のみをしていた。

 ある日、アレックスは家を飛び出した。

 こんな生活なのは、この街を仕切っているギャングが悪いのだ、と思った。

 そう思うしかなかった。

 カビの生えかけたパンを出されるのも、家の中が酒臭いのも、両親に愛して貰えないのも、全部全部、此処を牛耳っているギャングのせいだ。

 そう考えたアレックスは、街の路地裏を根城にする不良グループに所属することにした。そのグループが、この街のギャングへの反乱の意志を掲げていたからだ。

 今考えれば、それは体の良い誘い文句なだけで、本当の意志は別にあったのだと分かる。麻薬に手を染める者はいても、本気でギャングを潰そうとしていた者はいなかった。

 アレックスはそのグループの中でも、特異な者として浮いていた。

「アレックス、勝負をしようぜ!」

 そう持ちかけてきたのは、グループの中でリーダーのような存在の青年。 名前は忘れた。当時のアレックスよりも二個上の十八歳だったのは覚えている。

 アレックスよりも年上なのに、背が僅かに低いことを気にしている、器の小さな青年だった。何かにつけてアレックスに勝負事を持ちかけてくる彼に、内心ウンザリしていたけれどグループを抜けなかったのは、食料を一人で集めるには少し骨が折れることだと知っていたからだ。

「なんの勝負だよ」

「どっちがギャングの首を取れるかだ!」

 呆れ声で問い掛ければ、そんな自慢げな答えが返ってくる。 そんな度胸があるのか、と開きかけた言葉は、喉の奥に飲み込んだ。もしもそんなことを言おうものなら、また取り巻きにウザ絡みをされる。それ故に、アレックスは了承した。

「逃げるなよ! ちゃんと首を持ってこい! 期限は明日の正午だ!」

 お前がな、と小さくぼやいた声は、幸い彼に届くことはなかった。

 いずれはギャングに挑もうと考えていたアレックスにとっては、願ってもない機会だったから、特に問題はなかった。

 下っ端過ぎるのは何となく嫌だし、適当に少しだけ偉そうな奴でも狙うか。

 そう思ったのが、運の尽きだったかもしれない。

 雨が降り注ぐその日、二人組で歩いているギャングを見つけた。 一人は少し明るめのグレーのスーツを、もう一人は真っ黒なスーツを着ていた。傘を差して並んで歩いているその二人の後をつけて、機会を窺った。狙いはグレーのスーツの男。汚れが目立たない服を着るのは、位が高い証拠、と聞いたことがあったからだ。

 出店の前で立ち止まった二人組。

 アレックスは、ここぞとばかりにナイフを構えて走り込んだ。

 刹那。視界がぐるんと回って、後頭部に強い衝撃。


 その直後意識を落としてしまったアレックスが、次に目を覚ました時には、椅子に座らされて、縄でぐるぐる巻きにされていた。真正面には大きな窓があって、大きな庭園が見えた。

「嗚呼、気が付いたみたいだな」

 ハッとして声のした方へ顔を向ければ、一人の男が執務机に向かってペンを走らせていた。全く顔に見覚えがない。俺はどうしてこんな所に、と考えたところで、ギャングに手を上げたのを思い出す。

 ギャングの首を獲ろうとして、多分返り討ちに遭った。

 一気に体から血の気が引いた。まさか。 此処はギャングの根城だろうか。しかも目の前にいるのは、まさか。

「いきなりナイフで切りつけてくるなんて、驚いたよ」

 ウンともスンとも返事をしないでいると、男は優雅にそう言って、ピタリとペンを止めた。

 ゆっくりとアレックスに向けられた瞳。

 金色が鋭く光ったように見えて、喉が引き攣った。

「嗚呼、別に取って食おうとしてるんじゃないから安心して欲しい。僕はね、感心したんだ。今時、ギャングに向かってくる子どもなんて珍しいから」

「ッだったらどうした! 殺すなら殺せ!」

 勿体ぶった話し方は嫌いだ。 母親もそうだった。父親も酔いが回り始めると心底どうでも良い詭弁を垂れ始める癖があって、その口調にも似ている気がした。

 大声で喚いたアレックスに、男は面食らったように目を丸くした。

 一体どういうつもりなんだ。普通のギャングは、自分の事を殺そうとした奴を生かしておくなんて馬鹿な事はしない。すぐさまその首を刎ねるか、バラバラにして臓器に値段をつけて売り飛ばすものだと思っていた。

 だというのに、椅子に縛り付けたまま生かしておくなんて。ヤバイ趣味でも持ち合わせているのか、この男。まさか、生きたまま解体するなんてことは。

 ますます血の気が引いて、顔を青くしたものの、アレックスは男を睨むことを止めなかった。

 睨んだアレックスに何を想ったのだろう、ふはっ、と男は吹き出した。そのまま肩を揺らして笑い続ける彼に、今度はアレックスが目を丸くする。

「なっ、何が可笑しいんだこの野郎!」

「いや、フフッ、まさか殺そうとした相手に向かって青い顔して、殺せ、なんて言われると思わなくてね、ははっ、いや笑ってすまない」

 誰だって痛いことをされるのは嫌なはずだ。

 こちとら、痛い方が気持ち良いなんて趣味は持ち合わせていない。だからこそひと思いに殺せ、という意味で言ったというのに、この男はそれを笑い飛ばすなんて。

 ムカムカと怒りが湧いてくるばかりで、腹の虫が治まらない。

 ギリッと噛み締めた奥歯が鳴った。

 コイツが一体どんな奴かは知らない。でも、俺の痛みなんて少しも解っちゃいない。良い服を着て、こんな広い部屋に住んでいて、何不自由なく生活しているギャングなんかに、必死に生きてる俺の事なんて解るはずがない。チクショウ。今すぐその首を刎ねてやりたい。

「クソが! お前に俺の何が解るってんだ!」

「何も解らないさ。今日会ったばかりなんだから」

「こんな良い生活してるアンタには俺たちの苦しみなんて解らない!」

「だろうな。でもそれは君にも言えることだ」

「俺はアンタの事なんて解りたくもない!」

「そうか。それは残念なことだ」

 全く残念じゃなさそうに男は返事をした。 アレックスの言うことなんてどうでも良い、と言いたげなその口調。既に彼の視線は、執務机の紙切れに移っている。

「チクショウ! アンタなんて死んじまえ!」

「悪いが、そんな簡単には死んでやれないな」

「クソッ! 何なんだ! アンタさえいなければ! 俺の両親だって! 俺を見てくれたのに!」

 バカみたいに喚くことしか出来ない。

 言っていることがむちゃくちゃなのは、アレックスが一番解っていた。


 家を飛び出してから、不良グループに属して生きてきた。そこで解ったのは、ギャング全てが街に悪政を敷いているわけではない、ということだ。 家出した不良グループを何かと気に掛けてくれたのは、ギャングだった。食料を時々わけてくれたのも、ギャングの傘下の人だった。

 その一方で、両親は己を探そうともしなかった。家出してから一度様子を見に行った家には、もう誰もいなかった。既に売り飛ばされた後だったから。

 要するに、逆恨みだ。

 知っている。結局他人の所為にしている事を、最初から全部知っていた。

「何なんだよ、チクショウ。俺は、今まで、」

  一体何をやっていたんだ。

 気付けば視線は、無様に縛り付けられた膝へと落ちていた。

 視界が歪んで、ポツポツと雫が落ちていく。

 知っていた。ギャングを殺したところでどうにもならない。いなくなった両親は帰ってこないし、愛してくれることもない。それを解りきっていたのに。

 その真実からから目を逸らして、挙げ句の果てに、無様に椅子に縛り付けられて今にも命を獲られそうになっている。

 それなのに目の前の男は、自分とは大違いだった。

 これは推測でしかないが、男はきっとギャングの中でも地位の高い人間だろう。さもなければ、こんな広い部屋で一人書類に目を通すようなことはしていない筈だ。

 全てを手に入れている男と、そうでない惨めな自分。

 まるで月とスッポンだった。

 項垂れたまま動かなくなったアレックスに、何を思ったのか、ふと男が言った。

「君、名前は?」

「……、そんなの聞いてどうするんだよ」

「名前が呼べる」

 何を当たり前の事を言ってるのか。おちょくっているのか、と顔を上げて睨み付けようとしたのに、男は馬鹿にしたような笑みを浮かべてはいなかった。

ただそっと微笑んで、僅かに首を傾げていた。

「…………、アレックス」

「アレックスか。良い名前だ」

「良い名前なもんか」

「良い名前さ。アレックスは、アレクサンダーの略称みたいなものだ。元々、守る人、助ける人、という意味がある」

 そんな話を聞いたのは初めてだった。

 名付けた名前に意味があるなんて、両親は教えてはくれなかった。アレックス、という名前を褒めてくれたのは、目の前の男が初めてだった。

「さて、アレックス。僕は、君の処遇を決めなければいけない」

 コツコツ、と革靴の踵を鳴らして、男がこちらに向かってくる。 ゴクリと飲み込んだ唾の音が、やけに大きく聞こえた。

 そうだった。今アレックスの命を握っているのは目の前の男だ。

 良く覚えていないが、この男はアレックスが殺そうとしていた二人組の男の内の一人だろう。

 目の前までやってきた男は、アレックスの近くでそっと膝を折った。 金色の瞳が満月のようにキラキラと輝いているのがよく見える。その距離で男は言った。

「僕の名前は、ジオ。この街のギャングの頭目だ。まあこの通りちょっとした有名人だからね、僕の命を狙った代償は決して小さくはない」

 尤もな言い分だった。

 まさかこの男が頭目だったなんて。詰まるところ、この街を支配しているのはこの男と言っても過言ではない。そんな大きすぎる存在に手を出したのだ、殺されても当然だった。

「君のことを殺せ、と部下からは進言されているんだが、それは些か勿体ない気がしてね」

「………、愛玩動物にでもするのか」

「ははっ、まさか。そんな趣味はない」

「じゃあなんだよ」

「アレックス、僕の付き人にならないか?」

「……、はあ!?」

 付き人の意味を考えて数秒、出たのは素っ頓狂な声だった。

 目の前の男は口角を吊り上げるばかりで、言葉を撤回する気はないらしい。

 確かに、命を狩られるも同然だったアレックスには、願ってもない申し出だ。しかし、どうにも胡散臭い、と思わずにはいられない。

 だって可笑しいじゃないか。自分を殺そうとした奴を傍に置くなんて、頭のいかれた奴がすることじゃないのか。それとも自殺願望でもあるのか。ワケが分からない。

「嗚呼、何も盾になれって言ってるんじゃないよ。僕は如何せん、身の回りの整理整頓が下手でね。それを君にやって貰いたい。つまり住み込みで働いてくれということだ。食材は部下が買ってくるから料理なんかもしてもらえると助かるな。あとは、そうだな。君が退屈しないようにというか、まだ君が僕のことを殺したいのであれば、僕が仕事をしていない時、例えば寝てる時とか、休憩中の時は相手をしよう。ただ飛び具は禁止。僕以外の人に当たったら危ないからね」

 つらつらと並べられていく条件に、あんぐりと口が開く。

 一体この男は何を言っているのだろう。 否、条件が悪いわけではない。どちらかと言えば驚く程良い。料理の所までは理解した。ただ、その後、コイツは一体何と言った? と自問してしまうほどのとんでもない条件があった気がする。

「アンタ、それ本気で言ってんの?」

「? 本気じゃないことは口から出さないよ」

「いや、どう考えても頭可笑しいだろその条件」

「悪くはないと思うけど」

「自分の命を天秤にかけておいてか?」

「僕が良いと言ってるんだから、アレックスには害はないだろう?」

 いや、確かにそうなのだが。

 仮にも組織の要と言っても過言でもない長である己の命を、そう易々と賭けて良いものだろうか、と思うのだ。少なくともアレックスの常識の中にはその発想はない。 トップに立つ者は、いつだってその命を狙われる。

 だからこそ、命を獲られないように部下を近くに置くわけで、おいそれと差し出して良い首ではないだろう、と言いたいのだが。

 どうやらそれは通じないらしい。

「だとしても、俺が仮にアンタの命を狙ったとして、アンタの部下に殺されるだろ」

「大丈夫さ。僕から部下に伝えておく」

「伝えたところで守るかは別だろ」

「必ず守れ、と言ったら必ず守るから君が心配する必要は無い」

 呆れてモノも言えないとはまさにこのことだ。

 彼に付き従っている部下達は、さぞかし苦労しているのだろうなと思う。

推測だが、このジオという男、先陣切って敵陣に一人で勝手に突っ走っていくタイプの人間だ。それを慌てて部下が追いかける構図が目に浮かぶ。

きっと今回のことも、非難囂々に違いない。

 「まぁ君に命を獲られるような僕じゃないからね、余計な心配はしなくて良いよ!」

 そんな事を考えていたのを見透かしたのか否か、ジオが盛大に煽ってきたせいで、じゃあやってやろうじゃねえか! と乗ってしまったのが事の始まり。

 それが一年以上前の出来事。

 無論、そこから一度もジオに勝ったことはないのであった。



 舞い散った羽毛を片付けるのは、勿論アレックスの仕事だ。

 どうせ自分がやるのだからもっと出したって構いやしない。散らばった羽毛を更に増やすように、布団を殴り付けて八つ当たりする。

「チキショー! 何で解るんだよ」

「言っただろ、お前の殺気がダダ漏れなの」

「何だよ殺気って。ンなモン解らねぇだろ」

「解るさ。感覚を研ぎ澄ますんだ、アル」

「うるせー! 出来ねえモンは出来ねえんだよ」

「そうやってすぐやる前から否定する癖、止めた方がいいぞ~」

 おちょくったような声が聞こえて、ぐっ、と口籠もる。 最近は始める前から諦めることは減った。 やる前から諦めるなんて勿体ないだろう、と最も身近な人が言うから、日に日にその考えが移ってきているらしかった。照れくさくて、本人には絶対いってやらないけれど。

「いいから早く寝ろよ、ばかジオ」

「バカにバカって言われたくないなぁ」

「くそっ、前はもっと紳士かと思ってたのに!」

 恨み言を吐けば、お前だってもう十八歳になるのにちっとも成長しないな、なんて小馬鹿にしたような声が飛んできて、余計に羽毛が増えた。

 初めの頃は、もう少しマシだった。

 アレックス同様、ジオも距離を測りかねていたのか、よほどの事が無い限りこんな風に茶化す真似はしなかったし、お前ではなく君と呼んでくれていたのに。

 余談だが、部下には散々言われていたようだったが、ジオが言ったように、睨まれることはあってもアレックスに直接手を出してくる者もいなかった。

 今では暇さえあれば奇襲を掛けるアレックスと、それを軽く去すジオのやりとりを、温かい目――だと思う――で、見守っている者が多い。

 それは一重にジオが楽しそうだからでもあるのだ、とジオの右腕が教えてくれた。


――お前が来てからボスはよく笑うようになった。


 そう言われたのは、一七になった時に開かれた誕生日会ならぬ、誕生日宴の時だった。少し嬉しそうに頬を緩ませていた右腕のジルベールに、照れくさい気持ちになって、気のせいだろ、と突っぱねてしまったのは記憶に新しい。

 そんな事はどうでも良かったのだった、と我に返る。

 明日は確か大事な会合があるという話だったはずだ。予備の布団を取り出して、ジオに投げつけてやる。

「明日寝坊してジルベールに怒られても知らねえからな!」

「そしたらお前も怒られるからお相子だ」

「俺は何度も起こしたって言えばジルベールは怒らないもんね~」

「はぁ、これだからガキは狡いんだ」

「大人げねえジオに言われたくねえよ!」

 売り言葉に買い言葉。 それでも、この生活をアレックスは楽しんでいる。

 口では素直になれないけれど、ジオには感謝してもしきれない。

 たった一年。されど一年。

 ジオに貰ったものは多い。衣食住のような形あるものだけではない。生きるために必要な知識と教養。読み書きが出来るための文字。どんな人間に会っても生き残る為に必要な体術。アル坊調子はどうだ、と声を掛けてくれる仲間たち。

 アル坊なんて呼ばれる歳ではもうなくなるけれど、仲間のように扱って貰えるのは、純粋に嬉しかった。兄がいたらこんな感じだろうか、姉がいたらこんな感じだろうか、と想像させてくれる。

 ずっと欲しかった、温かな場所。

 大変なことが多くても、皆で乗り切っていけると思わせてくれる仲間の存在が、アレックスには本当にありがたかった。あの日、もしもジオが情けをかけてくれなかったら、こんな生活は出来なかった。

 部下の反対を振り切って、明日も見えない闇の底で藻掻いていたアレックスを導いてくれたのはジオだ。照れくさくて口には出せなくても、行動を示すことは出来る。全て恩返しすることは、きっと一生かけても出来ないだろう。それほどに、アレックスが貰ったものは大きい。ジオにその気がなくても。

 ベッドに戻って眠る準備をしているジオを確認して、アレックスは入って来た扉へと向かう。

「じゃあな、明日は寝坊すんなよ、ばかジオ」

「お前が三〇分前に起こしてくれれば問題ない」

「俺が起こす前提かよ」

「起こしてくれるんだろう?」

 布団から顔を出した金色の瞳。その少し甘えるような光に、胸の奥がくすぐったくなる。

 普段は全くそういう隙を見せることはない。いつだって部下に囲まれるジオは、冷静なボスそのものだ。涼やかに笑みを浮かべて相手を見透かすような事を言う。まるで人間とはかけ離れた存在のように感じる。だというのに、アレックスの前ではこんな人間らしい顔も見せるから、心を許して貰えているようで、嬉しくなってしまうのだ。

 誤魔化すようにふーっとわざと息を吐き出して、言ってやる。

「しかたねぇから起こしてやるよ、ゴシュジンサマ」

「ありがとう、アル。よろしく頼むよ」

 笑んだ金色がまた布団の中に潜っていく。

 仕方ないから、ちゃんと起こしてやるか、なんて思いながらアレックスも自室へと戻る。明日も早いのだから、キチンと起きなくては。


 自室のベッドに潜り込んでから、見上げた窓の外。

 さっきまで出ていたはずの月は、いつの間にか雲に隠れてしまっっている。 暗闇が世界を覆っていた。

 僅かに過ぎった嫌な予感。

 振り払うようにぶるりと体を震わせて、アレックスは無理矢理眠りへと意識を沈めた。



 自分たちの平穏は、常に薄氷の上に成り立っている。

 それを知らないわけではなかった。

 ギャングとは常に危険と隣り合わせだ。

 明日とも知れぬ命を燃やして、生きている。力で街を支配するのなら、大きな別の力が襲ってきたとき、均衡が大きく崩れる。昨日隣で笑っていた仲間が、次の日に死ぬことだってある。

 それは、ジオだって例外ではないことを解っていたつもりだった。けれど、アレックスが何度仕掛けても一度だって傷一つつけられなかったから、もしかしたらジオは死なないのかも知れない、なんて思っていた節はあった。


 土砂降りの雨の中を、アレックスは駆け抜けていた。

 ジルベールから入った一本の電話がきっかけだった。

『アレックス、ボスをっ、頼む』

 息も絶え絶えに告げられた。

 会合相手が総攻撃を仕掛けてきた、と言った。少数で行ったことが災いして、奇襲をかけられたようだった。ジオのことは命からがら逃がした、とジルベールは更に付け加えた。

 でも深手を負っている、と。

 その場所を告げられた途端、走り出していた。

「ふざけんなばかジオ! 勝手に死んだら絶対許さねぇ!」

 噛み締めた奥歯の痛さも、息の荒さも気にならなかった。

 何度も転びかけては、すぐさま体勢を直した。足がもつれかけても、そんなこと気にしていられなかった。

 まだ、全然返せていないのに。今年の誕生日祝いはどうする、なんて笑ってたじゃないか。なのに、勝手に死にそうになってるなんて、絶対に許さない。第一何勝手に俺以外に殺されかけてるんだ。本当にバカじゃないのか。大体何で少数で敵陣に行ったんだ。バカだろ。いいや、そんな過ぎたことは、もうどうでもいい。過去には戻れない。

 だから、頼む。頼むから、死なないでくれ。

 無我夢中でびしょ濡れになって走り続けた。 辿り着いたのは、ギャングの息が掛かった街外れのパン屋。 ここのパンは街一美味いんだ、というのがジオの口癖だった。街の外での用事があると必ずと言って良いほど、此処のパンを土産に持って帰ってきていた。

「ジオは!?」

  店内に入るなり大声を上げたアレックスに、店主が慌てたように顔を出した。

「そんなに慌てて、どうかしたのか?」

「奇襲に遭って此処に向かってるってジルベールが!」

「何!? しかし、まだボスは、」

「ッ、俺探してくる! アンタは医者と輸血の準備を!」

 言い終わる前に言葉を遮って掛け出した。

 走りながら、冷静に頭を回す。

 隣街に通じる道は、店の前の大きな通り一本だけだ。車で来ることは流石にないだろう。良い的になってしまう。通りを真っ直ぐ来るよりも、脇道を来る可能性が高い。隣街までは歩きでも三〇分あれば着く。しかし手負い状態だとしたら、もっと時間が掛かるはずだ。

 兎に角、直感を信じて走るしかなかった。

 頼む、ジオ。頼むから、まだ死なないでくれ。俺はもっとアンタに教えてもらいたいことが山ほどある。言ってないことだって山ほどある。夢なんて持てなかった俺が、夢を持てたのはアンタのお陰だ。最初はアンタのことを殺してくてたまらなかった。だけど今は、アンタの右腕になりたい。

 だから、他でもないアンタが俺の夢を、奪わないでくれ。


 耳を通り過ぎた呻き声。

 本当に小さな声だったのに、確かにアレックスの耳はそれを拾った。

「ジオ! 何処にいるんだ!」

「……、アル?」

「! そこにいるのか、ジオ!」

 声が聞こえた方に一目散に駆け寄った。

 木の根元に座り込んでいたのは、今まさに探していた人物。朝アレックスが整えた筈の髪は乱れ、お気に入りのライトグレーのスーツはどす黒い赤に染まっている。荒い息が痛々しい。どうして良いのか分からず、直ぐさまジオの傍に膝を折った。

「オイッ、しっかりしろ、ジオ! 俺が解るか!?」

「フフッ、わかるよ、アレックス。大丈夫、意識は飛んじゃいない」

 今にも意識が飛びそうなくせに、ジオは強がりながら腹を押さえている。

 そこから血が溢れているのは解るのに、どうしたら良いのか分からない。小さな傷の対処は教えてもらった。しかし。

「頼む、死ぬなよジオ。俺はどうしたら良い」

「大丈夫、死にはしない。重傷だが」

 ジオは安心させるようにそう言ったが、全く信用出来なかった。

 人間は何も傷の大きさで死ぬわけではない。受けた銃弾の数よりも、流れてしまった血の量の方が心配だった。きっとここまで歩いてくるのに、相当血を流したに違いない。その証拠にジオの顔は、視界の中で浮くほど青白い。

 とにかく血を止めるのが先決だ。気休めでしかないのは解っているが、ジオの手の上から強く圧迫しながら、周りを見渡す。

「っ、誰か! 誰か手を貸してくれ!」

「だれもいないよ、アル」

「うるせぇ! アンタは黙ってろ!」

 もう喋らないでほしかった。助かるかもしれないのに、何処か諦めに似た表情を浮かべる彼が許せなかった。

「アル、」

「うるせぇって言ってるだろ、ばかジオ! いい加減にしろよ! アンタが俺を生かしたのに、俺より先に死んでどうすんだよ! ふざけんなよ! 俺を生かしたなら、最期まで面倒みろよ! 勝手に死のうとしてんじゃねえよ!」

 そんなつもりはなかった、といつものように笑って欲しかった。馬鹿にしたような笑みを浮かべて、満月のような金色の瞳を細めて笑って欲しかった。

 みっともなく泣くのはあの日で最後にしたはずなのに、ボロボロと勝手に落ち出す涙を止められない。悔しくて仕方がなかった。

 自分が着いていったところで、犬死にしていたことは解っている。だとしても、盾ぐらいには成れたはずなのに。何をやっても間に合わない自分が、心底嫌になる。

「なくな、アル」

「うるせぇんだよ、ばか。アンタが悪いんだろうが」

「ははっ、そうだな、僕のせいだな」

 小さく笑ったジオは、はーっと息を吐いてから、アレックスを見上げた。

「ありがとう、アレックス」

 やめろ、と思った。そんな最期みたいな台詞、聞きたくなかった。

「お前が来てから楽しい毎日だったよ。お前を付き人にして良かった」

 アレックスの気持ちなんて無視するように、彼は続ける。

 そっと回った片手に後頭部をやわく引き寄せられて、額が合わさる。

 酷く冷たかった。もう命が幾ばくもないと思い知らされるようで、溢れた涙が止まらなかった。

「っざけんな、死なねぇってさっき言っただろっ」

「ふふ、お前は優しいね。そんなお前に、僕はたくさん救われたんだ。本当に、ありがとう」

 ずるりと落ちていく手。閉じられていく瞼。

 死ぬな、と言ったのに、死なない、と言ったのに。

 頭を下げかけて、否、と思う。

 まだ、死んだと決まったわけじゃない。頸動脈に指を当てれば、まだ脈拍は感じられた。一刻を争う。出血の多い場所の血さえ止められれば、なんとか。

「ッ、誰か! 誰かいませんか!」

 ありったけの大声を上げた。そんな事をしたら敵に見つかるとか、もうどうでもよかった。兎に角誰かに手を借りたかった。誰かに彼を助けて欲しかった。

「どうかしたのか?」

 不意に聞き覚えのない声が聞こえて、ハッと顔を上げる。

 そこにいたのは、背の高い全身を黒のレインコートで覆った強面の男と、その後ろから様子を伺うアレックスよりも幼く見える少年だった。

「っ、お願いだ! この人を助けたい! 手を貸してくれ!」

 木の陰になっていて見えなかったのだろう、僅かに体を動かしてグッタリしているジオを見た男は、ふと少年の方を見遣った。

「お前なら、どうする?」

 深い緑の大きな瞳が男を見上げて、僅かに首を傾げた。

「? 助けるよ。師匠は違うの?」

「ふはっ、お前ならそう言うよなァ」

 男は喉で笑ってから、アレックスへと向き合った。

「出来ることはするが、期待はするな」

「っ、ありがとうございます!」

「礼は一命を取り留めてからにしろ。……ノクス、手伝え」

「分かった」

 その男と少年は、本当に手際が良かった。

 彼らが背負っていたバッグから取り出したのは、簡易的な医療キット。躊躇なく裁ちばさみでスーツを切って、素早くアルコールで消毒をした後、無骨な印象の手とは違い、丁寧に傷を縫っていた。

 アレックスは、ただ祈るように二人の動向を見つめていた。

 長い時間だったのか、そうではなかったのか分かりはしなかったが、どうにか処置は終えたようだった。覗き込んだジオの顔は、さっきよりも良くなったような気もする。

「簡単な処置はした。あとは彼次第だ」

「っ、本当にありがとうございました!」

「いいから早く医者に診せて輸血してやれ」

 頭を勢い良く下げたら、ぶっきらぼうな返答が飛んでくる。何度も頭を下げて、ジオを背負う。一刻も早く医者に診せなければ。

「このご恩忘れません。いつか必ずお返しします」

「俺たちに返す必要は無い。でもまあ、別の奴に返してやれ」

「せめて名前を、」

「必要ない。……行くぞ、ノクス」

「うん。じゃあさよなら、お兄さん」

 踵を返した男の後を追って、少年もまた手を振ってから駆けていく。

 後ろ髪を引かれる想いではあったが、アレックスもまた駆け出した。



 黒ずくめの背の高い男はふと足を止めて振り返る。自分よりも大きな男を抱えて走っている青年の後ろ姿は、もう小さくなっていた。

 相当の傷だったが、どうだろうか。普通の人間だったら多分死んでいる。それに施したのは、本当にかりそめと言っても過言でもない応急処置のみだ。体に食い込んだ弾丸を取り出したわけではない。一命を取り留めたら、また手術だろう。 果たして、命運は。

「どうしたの、師匠」

 声を掛けられて視線を下げれば、不思議そうな顔をした弟子がいる。

「お前は、あの男が助かると思うか?」

「どうだろう。あの人がまだ死ぬ時じゃないなら、死なないと思う」

「また受け売りの、人は死ぬ時を自分で決めてる、ってやつか」

「師匠はどう思うの」

「わからん」

「じゃあ僕と同じじゃん」

 少し眉を中央に寄せた弟子が、不満そうにしていて笑ってしまう。

 推測するに、さっき助けた男は行こうとしていた街とは逆方向にある街のギャングだろう。差し詰め、会合に行って奇襲にあった、というところだろうか。

 己も似たような境遇を過去に経験しているから、ついお節介をしてしまった。

 ふと疑問が湧いて、弟子に問い掛ける。

「俺が死にそうになった時は、助けてくれるか?」

「? 当然だよ」

「ははっ、お前はそういう奴だよなァ」

 迷いもなく言えてしまうのが、眩しい。 きっと助けた男にとっても、あの必至になっていた青年は眩しい存在なのだろうと思う。痛みに耐えたような苦しげな顔ではなく、安心しきったような顔だったから。

 出来ることはやった。あとは、神のみぞ知ることだ。

 男はふうと息を吐き出して、今度こそ足を動かし始める。

 もう、振り返る事はなかった。



 時計の針が進む音と、ピッピッ、という電子音がやけに大きく聞こえる病室。

 管に繋がれたジオの傍で、アレックスはずっと待っている。気付かないうちに揺すってしまう膝を止める術はない。

 どうか、どうか。頼むから死なないでくれ。

 神なんて信じていない。しかし、今だけはもしもいるのなら、と祈った。 どうか彼を連れて行かないでくれ、と柄にもなく手を合わせて願い続ける。

 病室から動こうとしないアレックスを心配したのか、入れ替わるように組織の人間は食事に誘ってきた。だが、首を横に振った。食べている間に何かがあったら。そう思ったら何も喉を通らない気がした。

 医者は、手術は成功した、と言っていた。一応山を越えた、とも。医者に因れば応急処置が見事だったらしい。あれがなければ死んでいた可能性もある、と言われたとき、背筋が寒くなった。もしもあの二人があの道を通らなかったら今ごろもうジオの心臓は止まっていただろう。

 しかし、まだジオは目を覚ましていない。

 目を強く瞑る。


 頼むから早く目を覚まして、バカはお前だ、と笑ってくれ。

 俺の前からいなくなったりしないでくれ。


 布擦れの音が聞こえた気がして、勢い良く瞼を持ち上げる。

 指先が僅かに動いたのを確かに見た。立ち上がって覗き込んだ顔。 薄く開かれた瞼の向こう側に、覚醒しきっていない金色があった。 左右に瞳を揺らしてから、ゆっくりとこちらへ向いた。思わず手を握り締めて、ジオ、と呼びかければ、微かな掠れ声が名前を呼ぶ。

「アレッ、クス」

「ジオっ!」

「しんぱい、かけた」

「ッ、んなこと良い! 今、医者を呼んでくる!」

 傷を刺激しないようにそっと手を離して、駆け出す。その後ろ姿を見て、ジオが微笑んでいたことなんて、アレックスが知る由もない。



「いやぁ、本当に良かったなぁ。九死に一生を得るとはまさにこのことだな~」

「調子に乗ってぶり返さないよう、ちゃんと寝とけよ」

 軽快な声で笑っているジオに小言を投げれば、分かってるよ、と機嫌が良さそうな声が返ってきた。

 あれから一週間。ジオはみるみるうちに回復した。

 あの後の顛末は、言うまでもない。ジオを慕う部下達が、卑怯な手を使った組織に総攻撃を仕掛けた。結果、大きな組織を一つ潰すことになった。手負いの幹部達も止めるどころか、一緒にそのシノギに参加したと言うのだから、本当に頭のいかれた者揃いだ、というのが率直な感想だ。

 それを聞いたジオは、まあいいんじゃない、と他人事のように笑っていて、力が抜けてしまったのは記憶に新しい。

 代わる代わる来る見舞いに、アレックスは邪魔にならないようにそっと席を外して、ジルベールの様子を見に行くことにした。

「調子はどう、ジルベール」

「ああ、アルか。もう大分良い」

 窓の外を眺めていたジルベールは、アレックスに気付くと頬を緩ませた。

 彼も全治三ヶ月という診断で済んだ。まだ暫くはベッドの住人らしいので、ボスの右腕稼業は束の間の休息だ。

「良い機会だし、ゆっくり休むと良いってジオから伝言」

「ああ。そうさせて貰う。……アレックス」

「うん?」

 ベッドサイドテーブルの上のフルーツ盛り合わせを見ていたら、名前を呼ばれた。

 ジルベールに視線を戻すと、彼が深く頭を下げていて、思わず目を見開く。

「え、どうしたんだよ、ジルベール」

「本当にありがとう。お前がいなかったらボスは死んでいた」

 でも、と思う。あの日に出来た事なんて、本当に少しだった。

「俺はただジオを見つけただけで、応急処置は別の人がやったんだ。だから、」

「それでもだ。お前が見つけていなかったら手遅れになっていた。本当にっ、本当にありがとう」

 僅かに震えた声。もう否定することは出来なかった。

 出来たことはほんの少しでも、彼に頭を下げさせるほどのことだったのは、アレックスにも分かる。右腕として彼は、己にジオを託した。そのバトンをキチンと受け取れた、ということだ。「顔を上げてよ、ジルベール。俺も、アンタには今までのこと本当に感謝してるんだ。だから、その恩返しだと思ってさ」

 ニッと歯を見せて笑えば、やっと顔を上げてくれた。彼の目には、薄い水の膜があったけれど、今は黙っていることにする。これからもよろしく頼む、と差し出された手を握り締めて、強く頷いた。


「おかえり、アル」

 病室に戻ってきたら、溢れていた人はすでに引いていて、ジオ一人になっていた。

 おう、と返事をしながら定位置になっている丸椅子に腰掛ける。


 ずっと言いたかったことがある。

 静かに息を吸って、吐き出す。ジオを見れば、もうすでに何かを言いたいことは察していたらしい。やわらかに笑んだ金色がアレックスを見つめていた。

「俺、まだ怒ってんだからな。アンタが遺言みたいなこと言ったの」

 拗ねたガキのような言い分。しかし、ジオは笑うことなく、うん、と言った。

「アンタが死にかけたとき、心臓が止まるかと思った。もう絶対、あんなふうになるなよ。俺を置いていったりしないって約束しろ」

「約束は出来ないなぁ」

「っ、だったら俺を! 屋敷にいるときだけじゃなくていつもアンタの傍に置け!

そしたら俺が守ってやれる!」

 いてもたっても居られなくなって、椅子から立ち上がって指を差しながら大声を張り上げた。きょとりと目を丸くしたジオ。荒くなった息がやっと元に戻った頃、ジオが小さく笑った。あまりにも優しい笑い声だったから、ぽかんとしてしまったのはアレックスの方だ。

「本当に、僕を守ってくれるの?」

「当然だ! 俺の夢は、アンタが居なきゃ叶わないんだから!」

 勢いで吐露してしまった本心。慌てて口を塞いでも後の祭り。

 それでも、ジオはバカにはしなかった。 それどころか、とんでもなく嬉しそうに頬を緩ませて、うんわかった、なんて言うから、一生守ってみせる、と今この瞬間に決めた。


 命尽きるその瞬間まで、夢と共に生きる為に。



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KillING me 晴なつちくわ @kumachiku5

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