2075年。
AIによって社会は最適化され、貧困も病も苦しみも遠ざかり、日本は“幸福度世界一”の国となった。
けれど、その幸福と引き換えに差し出されたものがある。
――「選択の自由」。
子どもたちの未来さえ分類され、人生まで最適化されていく世界で、幼いころ《ブルーホライゾン》の研究施設で出会った上条晃と如月アオイは、九年の時を経て再会します。
そこから動き始めるのは、とても静かで、とても不器用な“想い”。
この作品で特に惹かれたのは、人間の感情がただ恋愛として描かれるだけではなく、管理された社会そのものを揺らす「予測できないもの」として描かれていることでした。
好きになる。
迷う。
傷つく。
自分が何者なのか悩む。
誰かの幸せを願いながら、それでも自分の心を持て余す。
そんな人間にとって当たり前のはずの揺らぎが、この世界では計算から外れた“ノイズ”になる。
そして、その小さな揺らぎを、人間を観測してきたAI《ノア》もまた見つめています。
物語を包む「青」と「風」の描写も美しく、言葉にできない感情が風に乗って誰かへ届き、やがて世界の奥深くにまで波紋を広げていくようでした。
完璧に計算された幸福の中で、
それでも心は、予定された答えを選ばない。
では――
人が「生きている」とは、いったい何なのだろう。
管理された未来社会を描くSFでありながら、その中心にあるのは、どうしようもなく不器用で、計算することのできない人の心。
青い光と風の余韻が、読み終えたあとまで静かに残る物語です。