世界の好きと嫌いが急に入れ替わったら

普通

好きと嫌いが入れ替わった世界

『好き』と『嫌い』はそれぞれ人間であれば相手に抱く感情だろう。好きは相手に対して好意的な感情、嫌いな相手に対しては嫌悪感など。




全く真逆の感情が急に真逆になったらどうだろうか。好きが嫌いに。嫌いが好きへと変わっていく。世界の全てが変わっていくのだ。

今まで好意的な感情を抱いていた相手に嫌悪感を抱くようになり、今まで嫌悪感を抱いていた相手に好意的な感情を抱くようになる。世界の常識がひっくり返る。




そして全てがひっくり返った世界はどうなるのか誰にも分からない。



――――――――



日本のある街に北舎きたや光人あきとという高校生がいた。その少年は高校生としての青春を謳歌していない。いや出来ないと言うべきかもしれない。



今日も北舎きたや光人あきとはイジメられているのだ。校舎裏で地面に頭にこすりつけられているのが北舎光人。



そしてその状況を作り出した人物こと桒原くわはら創志そうしを筆頭とする一軍のグループ。男子二人、女子三人とバランスの取れているメンバー。




メンバーとしては佐藤さとう佳織かおり。佐藤佳織はクラスの女子の中心人物であり、派手なビアスやネイルなどをしていて髪色も金髪。これで目立たない方がおかしいというぐらいだ。


それ以外にも照木てるき仁葵ひまり。照木仁葵は黒髪ロングで優しい笑顔を浮かべるので一見、無害そうに見える。その実は誰よりも残虐性を秘めていて誰かが苦しんでいる様子を見ると興奮するという体質なのだ。でも多くの生徒はそれを知らず、彼女のことを『委員長』として呼んで慕っているようだ。



他にも池田いけだ絢佳あやか。池田絢佳は黒髪ボブであるが、校内でも校外でもほとんどキャップを身に付けているのであんまり黒髪ボブという印象を持っている人は少ない。無口な性格でもあるため、彼女にはあまり友人はいないが、学内では容姿が整っていること無口なことが相まってファンクラブなどもある。



この場にはいないが、山口やまぐち冬愛とあは野球部のエースで四番。最近の野球部は坊主にならないところも多いが、この高校も例外に漏れず坊主にする必要がない。なので山口は坊主にすることなく、黒髪。学内でも北舎と同じ位に人気を博している。



そしてはそのグループにいじめられている。



「おい、立てよ」



「……た、たて…」


北舎は頑張って立ち上がろうとするが、体に日からが入らず立ち上がれなかった。その姿を桒原を含めたグループのメンバーは嘲笑しながら見ていた。



グループの一人こと佐藤佳織が笑みを浮かべつつ、話し掛ける。


「早く立ちなよ」


佐藤佳織の言葉に隣の照木仁葵も同意を示す。


「そうよ。早く立ってくれないと何もできないじゃない」



池田絢佳は他の二人の女子とは違い、無言で全てを見ている。助けるわけでもなければ、大きく関わろうとすることもしない。ただその現場にいるだけ。



次に言葉を発したのは桒原だった。


「立ち上がれ。そうじゃないと蹴れないだろ」



「…はぁ……はぁ…」


その日もまた桒原にイジメられ、北舎きたや光人あきとはボロボロになったのだった。



―――――――――




僕はイジメられていた。


イジメられたくないという気持ちはあるものの、桒原たちに逆らう程の勇気もない。

だから今日も僕はイジメられた。


何かが変わって欲しいと願いながら。





ボロボロのまんま一人暮らしの部屋に戻り、お風呂に入る。お風呂から終わったら、適当に夕食を作る。


それを食べ終わればテレビを見たり、スマホで動画を見たりと時間を潰す。そして明日も同じ日常が続くことにため息を吐きながらも、準備を整えてから眠りに付く。


その時の僕は何も変わらない日常がこれからも続くのだと思っていた。









次の日に目を覚ましていつも通りに高校に行って、僕は違和感を覚えた。いつも高校に登校すれば周りから冷たい目で見られるはずなのに、その視線が全くない。むしろなんか違う目で見られている気がする。


それでも僕はなるべくいつも通りに振舞って教室に荷物を置いて、椅子に座る。





数秒後に僕の元に誰かが近付いてきた。その相手を僕は見なくても分かるのだ。だってこれはいつも通りの日常だから。


「おい」


この声は僕の思っていた通りで桒原だ。僕は振り向くと殴られるか、何かしらの危害を加えられるのは分かっているし、ここで変に抵抗して長引かせるよりは受け入れてしまった方がいい。



そう思っていつも通りに振り返るとそこには桒原がいた。



だけど、なんか桒原の顔がいつもの笑顔じゃなくて、少し挙動不審だ。いつもの自信家な感じが全く感じられない。



「あ、あのさ……」


いつもなら何も言わずに殴って来たのに。それに言葉からも覇気というものが全く感じられない。本当にこれが桒原なのかと少し疑問に思ってしまう。



「手とか出して…くれない?」


挙動不審の桒原は変なことをお願いしてきた。殴るとかじゃないのか、しっぺとかに変更でもしたのか。でもそんなのいくら痛くしたとしても限界があるように感じるけど。



僕は桒原の言葉に従って右手を差し出すと、桒原は挙動不審になりながら手を重ねてきた。この状況を理解できるほど、僕の脳の処理速度は速くない。



「や、やっぱお前の手は温かいな」


普通の桒原であれば絶対に言わないし、顔も若干に焼けているのがさらに不気味だ。それになんかちょっといやだ。



「…この時間が続けばいいのに」


これは本当に桒原なのか。



桒原って兄弟とかいるって話してたか。



同一人物とはさすがに思えない。



「これからもずっと…一緒だといいな」


僕はヤバいものを見る目で桒原のことを見たが、本人は何も気にしていないらしくなぜか今も自分の手と僕の手が重なっているところをずっと見ている。


これがSHRが続くまで行われたのだった。

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