第2話 追い出された
「レイ。我が愛しくもあり憎き愚息よ。貴様を我がサクラバ家から放逐する」
それが父上からの最後のお言葉だった。
俺は。俺には何もなかった。
魔術都市マナフィリア。その建国代々から続くサクラバ家は異国からの出自だが、マナフィリアの建国に対し多大な貢献を成した故、今では大貴族の一柱として数えられている。
そして第十三代当主の父上に待望の嫡男が生まれた。しかしその嫡男は体が弱く虚弱体質。サクラバ家伝統の剣術の才も無いともあれば生き恥とされ、病床にあると嫡男は直ぐに表舞台から姿を消した。
だがしかし、サクラバ家の憂いは当然ながら絶たれる。
次男と長女の存在だ。
次男と長女。共に剣術と魔術の才能に恵まれており、子供ながらに大人顔負けの実力を開花させていた。
「剣術でも魔術でも、弟に負けて恥ずかしくないのですか兄上ぇ。虚弱体質だからって甘えてるだけなんじゃないんですかぁ?」
「ほらそんなこと言わない。お兄様は本当にお身体が弱いのだから……」
「そうやって姉上が甘やかすからいつまで経っても兄上はダメだのです!!」
「……」
弟に厄介者扱いされ、妹に肩を持たれる。そして父上の冷ややかな視線も相まって肩身の狭い生活を強いられた。
母上は流行り病にかかり亡くなった。だからだろうか。雇った使用人たちも含めこのサクラバ家に俺の味方はほぼ居ないに等しかった。
そして魔術学園高等部に入学する一ヵ月前に迫り、父上が俺に勘当を言い渡した。
それは突然だったし、遂に来たかと予想していたから内心諦めもついた。
「レイ様。この爺や、ショウザン様に忠言致しましたが力及ばず……。まことに遺憾でございます。うぅ……!」
「泣かないで爺や。爺やは俺に良くしてくれた数少ない大事な人だ。こういった時に備えて独り立ちできる様に色々と教えてくれたじゃないか」
「ですがレイ様ァ!」
「本家から遠く離れた小さな家に移るだけだ。幸い高等部を卒業するまでのお金の大事はくれるとも聞いている。何も心配する事はないよ」
「レイ様ァァア!!」
こうして俺は泣きじゃくる爺やの温情を受けながら、月夜の晩に一人で家を去るのだった。
◇
サクラバ家は由緒ある家系だ。それこそ他の貴族たちが一目置く存在。小さいながらも社交場でチヤホヤされたのは、今にしては良い思い出だ。……いや、良くはないか。如何にサクラバ家とパイプを繋げれるか、その腹の探り合いが大人はまだしも子供からも感じ取れたのは俺が転生者だからだろう。
そう。俺は転生者だ。
生まれは日本。年齢にして十六。もっと正確に言えば享年十六歳だ。
趣味はゲームとマンガ。アニメ。テレビドラマに動画配信サービスの鑑賞。友達ともスポーツしたりもしていた。
そんなごく普通の高校生だった俺は、暴風雨の日に雷に打たれて死んだ。はず。そして目が覚めると赤ん坊になっていた。
色彩がハッキリしない視界。思う様に動かない体。何もかもが大きな世界。そして俺を包んでくれる笑顔の女性とそれを見守る男性。最初は自分の身に何が起こったのかわからなかった。
だけども正直だった。これだけは正直だった。
(おっぱいが飲みたいいいいいいいいいいい!!!!)
それはもうむしゃぶりついた。赤ちゃんの本能には敵わない。
そう。確かそのタイミングで頭がぼーっとして記憶があやふやに。気づけば物心つく歳になっていた。
十六の高校生にはマジの赤ちゃんプレイはキツイ。それをスキップした超ご都合主義全開だと思ったのも柄の間、自分が異世界転生したと認識。
名前はレイ・サクラバ。大貴族の一柱であるサクラバ家。その本家の長男として生まれた。奇しくも転生前の名前――桜葉零と同じなのは心底驚いた。
待望の第一子の俺を期待する父上。魔術都市マナフィリアで築いた確固たる地位。剣聖の一人に数えられる自分。その息子。それはもう跡取り息子だし期待感しかない。
小さいながらも魔力量が多い。〇
剣術の基礎部分を早くも習得。〇
だがしかし。
虚弱体質。×
魔力操作。×
なによりも。
サクラバ家相伝の剣術会得。×××
身体が弱だけならまだ良かった。でも必須の魔力操作が街中の子ともにすら劣り、対人も斬りモンスターも斬り、大雷を斬り海を斬り雲も斬る。剣聖たらしめるサクラバ家の剣術を会得できないのが父上が俺に絶望した一番の要因だった。
剣術の基礎はできる。それはできる。でも何故かサクラバ家相伝剣術だけはアレルギー反応が出る程に拒絶反応が出る。
それがわかったと同時に父上に更なる不幸が訪れた。
それは母さんが病に伏せ、力尽きた。
流行り病だから仕方がない。そんな文言なんて夜空に浮かぶ二つの月に届くはずもなく、父上は嘆き、俺も絶望し、親族と使用人たちも泣いた。
だが父上の嘆きは俺の立ち直りよりも早かった。その要因は第二婦人。そしてその娘と息子の存在。つまりは俺の腹違いの妹と弟の存在だ。
俺より三ヶ月遅れで生まれた双子。いじっぱりでプライドの高い弟のシン。優しくて思いやりのあるシンの姉であるミサ。二人とも小さい頃は可愛くて俺を慕っていたが、俺との実力差がついて来たあたりシンからの当たりが強くなった。
俺に強く当たるシンに悪気はない。シンはただ、俺にもっと強く成って欲しいから強く当たってくる。それがわかっているからミサも強くはシンを咎めない。
(二人とも丈夫に育ったなぁ)
母上が亡くなった俺は、二人のことをより一層可愛がった。シンにブツブツ言われようと、ミサに妙な空気を遣われようと、アドバイスできることは極力した。
(でも遂に追い出されたかぁ)
目の上のたん瘤だった俺を遂に見切りをつけた父上。俺を見る視線はそれはもう冷ややかを通り越して絶対零度。でも追い出すにはまだ成人してないから世間体もあるしで追い出せない。そして待ってましたと。中等部を卒業し高等部になると。高等部の思春期になったから離れで暮したいとレイは言ったんだああああ!! と別に不思議じゃない言い分もできた。
そしてこれである。
「はぁ……。これからどうすっかなぁ」
俺の居住地である離れ。クソ広いサクラバ家本家の敷地にある端の端。しかも坂道を上ったところにある。こうして母屋から徒歩で向かうとなると普通に二十分くらいかかる。そんな離れだ。
幾つか離れがあるのは知っていた。でもまさか一番遠くて一番近寄らない離れに住めだなんて、顔も見たくない俺に対して十分な嫌がらせだ。
「つぅかその離れ行ったことないし」
二つある月。上を向いてそれを眺めながら舗装されていない道をひたすら歩く。
「絶対掃除されてないじゃん。夜から掃除だなぁ。ご近所さんにうるさいって怒られるなぁ。あ、ご近所さんいないわ」
憂いに憂鬱していてそんな自虐。
その時だった。
「――え?」
気付けば俺は、石造りの鳥居をくぐっていた。
目の前には神社。その本殿の扉は光を発して解放されていて、俺の影を伸ばす。
何だ。何だ何だ何だ。
広い敷地にこんな場所は存在しない。だからこその戸惑い。
そして。
「――お!! そこの少年!! まさかワタクシが見えるでありますか!?」
何処からともなく声が響いて来た。
「おぉ!! おおおお!! 刀に転生してから苦節三百年ほど……。転生したら刀でしかも祭られてる始末!! 一億年ボタン押したみたいな罰ゲームかと思いましたがぁ、遂にこの時が来ましたなあぁ!!」
俺はさらに混乱した。
妖刀「鬼萌御夛」~異世界転生した俺が手にした妖刀は異世界転生したキモオタだった~ 宍戸亮 @Manju0501
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