第1章 ①
踵を鳴らして警衛指令である三年生が隊列の前に進み出た。
その身を覆う軍服を模した群青色の制服。
二人の警衛指令に率いられた生徒の列がそれぞれ向かい合うように小銃を手に横一列に並んでいる。
付近に漂う厳粛な雰囲気と凛とした緊張感。居並んだ生徒達の制服には、皺ひとつ無く、磨き抜かれた
警衛指令の号令に皆が一斉に姿勢を正した。
まさにここは、軍隊その物だ。
篠塚夏彦は、自身も踵を鳴らして姿勢を正しつつ、心の中で密かに思った。
因みにそんな彼の纏う制服は、居並ぶ同級生、下級生、上級生とは少し異なっている。
夏彦のような戦場帰りの戦術生体兵器は、今やどこの学校でも引っ張りだこで、この中央軍事学院とて例外ではない。この学校のような
広告塔は目立たなくてはいけない。
と言う訳でもないのだろうが校則には、わざわざご丁寧に次の一文が書いてある。
「軍および国家警察軍等において拝領した
だから、夏彦の制服は、戦場を経験した戦術生体兵器――それも相当な古参兵だ――である事を示す徴章の類で溢れている。
まず、左袖にある青く縁取られた帯状の装飾『戦術生体兵器袖章』に、第二ボタンに付けられたリボン状の『第三次世界大戦従軍徽章』。そして、右胸の下を飾るブロンズ製の『
その数、計十八個。
上級生はおろか、教官でもこれだけの徽章を持つ者は少ない。自然、夏彦が警衛のために門に立つとその姿は――当人の意思にまったく関係なく――イヤでも目立ってしまう。
戦争が終わって三年。
街を歩く軍服姿の人は減りつつあると言うのに……。
(やれやれ)
夏彦が胸の内で呟いた。
と――
「ご機嫌斜めのようね、夏彦」
突然の言葉に思わず横を見ると、
「エマ!」
エマが、透き通るような白い肌をほんのりと赤く染めて立っていた。
今日の彼女は、その黄金色の髪を左右で三つ編みに結って頭の後ろでまとめ、夏彦同様、徽章の沢山ついた制服姿だった。警衛隊教練中である夏彦達が第一種と呼ばれる礼装なのに対して彼女の身につけている制服は第二種と呼ばれる通常服。女子生徒特有のキュロットスカートがスタイルのよい彼女によく似合っていた。
夏彦は、そっと彼女の方へ身を寄せ、声を顰める。
(まだ授業中だぞ)
(あら、私だってそうよ)
(?)
(夏彦、今日面談の日でしょ。もう、時間過ぎてるんじゃない?)
夏彦が、慌てて腕時計を確認すると、過ぎているも何も、もう終了予定時刻に近いぐらいである。
(ここは、この子に任せて、早く行きましょ。
(夏音、来てくれたのか。いつも悪いから、今日はいいって言ったんだがな……。ところで、この子……って?)
「この子よ!」
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